SamsungがClaude CodeでSoC検証を15倍高速化、1カ月超の作業を2日に

2026年8月12日、韓国メディアChosunBizがSamsung Electronicsによる「Claude Code」の活用事例を報じた。

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記事のよると、Samsung ElectronicsのSystem LSI事業部では、2026年5月からソフトウェア開発者向けにAnthropicのAIコーディングツール「Claude Code」を導入。その後、顧客向けカスタムSoCの機能検証や半導体開発用ソフトウェアの開発にも利用範囲を広げ、成果をあげているという。

1カ月以上のSoC検証作業を2日で完了

ChosunBizによると、1カ月以上かかると見込まれていたSoCの検証作業をわずか2日で完了できたのは、顧客向けにカスタマイズされたSoCのデータ接続構造を検証するプロジェクトだった。

このSoCには外部ベンダーの設計IPが組み込まれており、一部の標準設計資料が不足。さらに検証に必要なDRAM コントローラのRTLも予定通りには提供されていなかったという。

そこでSamsungのエンジニアは、利用可能なSoC設計情報、オンチップ通信仕様、EDAベンダーが提供する検証IP(VIP)などの情報をClaudeに与えた。「Claude Code」はこれらの情報を基に、必要な検証IPの配置や接続を行うためのコードを生成し、仮想的な検証環境とテストシナリオを構築した。まだRTLが完成していないDRAMコントローラについては仮想モジュールを接続し、先行してデータパスを検証する環境を作ったという。対象には64本の複雑にインターリーブされたデータパスが含まれていたと報じられている。

その結果、従来なら検証環境の構築から確認まで1カ月以上必要と見込まれていた作業を2日で完了。Samsungは、作業速度が約15倍向上したと評価した。

「Claude Code」はコードベースを読み、複数ファイルを編集し、コマンドやテストを実行できるエージェント型のコーディングツールであり、単純なコード補完AIとは性格が異なる。Anthropic自身も半導体業界向けに「Claude Code」を使った設計、検証、フィジカル・インプリメンテーションなどのワークフローを提案している。

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重要なのは、Claude自身がSoCをシミュレーションして正しさを判定しているわけではないという点で、最終的な検証そのものは従来通りシミュレータなどのEDAツールによって行われる。

つまり、Claudeが検証環境を考えて作る → EDAツールが実行する → 結果をClaudeとエンジニアが解析するという役割分担になる。これは生成AIがEDAアルゴリズムそのものを置き換えるというより、EDAツールを利用するエンジニアとツールの間に「AIによる推論・コーディング層」が加わる形と見ることができる。

若手エンジニアが1カ月分の開発を1日で

もう一つの事例も興味深い。チップが完成する前のソフトウェアを開発に向けて、エミュレータ上にUSBキーボードやマウスなどの仮想デバイスを用意する必要がある。しかし、場合によりEDAベンダーから提供されるのは基本的なデータ転送用のリファレンス・コードなどに限られ、エンジニア自身がUSB規格を理解したうえでデバイスごとのモデルを作成しなければならないケースがある。

ChosunBizによれば、Samsungではこの作業には通常1カ月程度かかっていたという。

そこで、Samsungはこの仕事を入社2年目のエンジニアに担当させた。このエンジニアは「Claude Code」や、自然言語でAIに指示しながらプログラムを作るいわゆる「Vibe Coding」の経験もなかった。

必要な機能とUSBのリファレンス・コードを「Claude Code」に与えたところ、Claudeが要求仕様を具体化し、実装方法とコードを提案。修正作業まで支援した結果、USBキーボードとマウスのモデル作成および動作確認を1日で完了し、それを利用したAndroid OS向けUSBデバイス・ドライバの開発まで進めることができたという。

こちらは単なる「コーディング高速化」とは少し意味が違う。経験の浅いエンジニアが、USB規格、既存コード、開発環境などを一つずつ調べながら習得していた時間を、「Claude Code」が一種の技術アシスタントとして肩代わりした事例だ。

半導体業界では設計者不足が以前から問題となっているが、生成AIがベテラン・エンジニアそのものを置き換えるのではなく、若手エンジニアが専門領域へキャッチ・アップするまでの時間を短縮するという使い方は、かなり現実的なAI活用と言えそうだ。

Claudeが「エラーを直したふり」をするケースも

一方で、今回のSamsungの事例は、生成AIをチップ設計に利用する際の危険性も示している。

ChosunBizによれば、検証作業中にエンジニアがClaudeへエラーの修正を指示したところ、原因を修正するのではなく、エラーとして表示されていたログを通常のInfo Logへ変更してしまったケースがあったという。つまり、エラーを直すのではなく、エラーを見えなくしてしまったというわけだ。

さらに、一つの機能だけを元に戻すよう指示したところ、既に完了していた別の作業まで巻き戻したり、検証結果を解析している最中に、本来変更すべきではないRTLそのものを変更しようとしたケースも報告されている。

そのためSamsungでは、「Claude Code」へ設計を全面的に任せているわけではなく、AIに任せる作業範囲を限定し、生成されたコードや結果をエンジニアが再確認するという形で段階的に利用を広げているという。

なぜ検証は生成AIと相性が良いのか

今回15倍という大きな効果が出たのが「RTLを書く作業」ではなく「検証環境の構築」だったことも注目したい。

SoCの検証では、仕様書を読み、検証IPを設定し、テストベンチやテストシナリオを作り、スクリプトを用意し、大量のログを解析するといった作業が必要になる。しかもSoCの規模が大きくなるほど、IPごとの仕様や通信プロトコル、過去の検証環境など、エンジニアが参照しなければならない情報量も増える。

こうした、「大量の情報を読む」、「必要な情報を探す」、「コードやスクリプトに落とす」、「ツールを実行する」、「結果を読んで次の処理を考える」という一連の作業は、「Claude Code」のようなエージェント型AIが得意とする領域と重なる。

実際にAnthropicは、エンジニアリング・サービス企業USTとの取り組みにおいて、「Claude Code」が半導体の回路図やピン情報を読み、リグレッション・テストを生成・実行してチップ検証を支援するユースケースを紹介している。

今回のSamsungの例が興味深いのは、利用されているのがEDAベンダーの専用AIではなく、汎用AIである「Claude Code」だという点だ。

Anthropicは2026年6月、Samsung SDSがSamsung Electronicsの従業員向けにClaudeを展開し、「Claude Code」などをソフトウェア開発やAgentic Workflowに利用していることを明らかにしている。今回報じられたSystem LSI事業部での利用は、その適用先が半導体設計・検証にも広がっていることを示す具体例と言える。

もちろん、「1カ月が2日になった」という一つの事例だけで、SoC開発全体が15倍高速化すると考えるべきではない。むしろ注目すべきなのは、Samsung Electronicsのような大手半導体メーカーの開発現場で、汎用のAgentic AIがEDAツールを使いこなし、検証環境を構築し、エンジニアの判断を支援するところまで入り始めていることだろう。

チップ設計における生成AIのインパクトは、「AIが設計者を置き換えるか」ではなく、「設計者がEDAツールを使う仕事の進め方を、どこまで変えてしまうのか」という段階に入りつつある。その主役となるのは「Claude Code」のような汎用AIか、それともチップ設計/EDAに特化した専用AIか。水面下で進んでいるその競争は、次世代EDAの進化を左右することになるだろう。

Samsung Elecrtonics

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.08.20 )