チップ設計者はClaudeをどう使っている? DAC 2026で見えた生成AI活用の今
2026年7月26日から29日まで米国ロングビーチで開催された「DAC 2026」では、Agentic AIをはじめとするAI活用が大きなテーマとなった。
DACによれば、今年は技術プログラムの約40%がAIと設計に関連する内容で、AIによる設計、検証、システム最適化が急速に広がっている。
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そんな中で興味深いのが、業界メディア「SemiWiki」が8月13日に公開した「Using Claude AI for Chip Design」という記事。
SemiWikiのDaniel Nenni氏はDAC 2026の会場で数十人の半導体業界関係者とAIの設計利用について話した結果、どの会話にも共通して登場したのがAnthropicの「Claude」だったとしている。
EDAベンダ各社が専用のAIエージェントを相次いで投入する一方で、実際の設計現場では汎用AIであるClaude、特にエージェント型コーディングツール「Claude Code」の活用が静かに広がっているようだ。
チップ設計におけるClaudeの位置付け
SemiWikiはClaudeを、仕様書やRTL、テストベンチ、ログ、スクリプトなどを理解し、EDAツールを利用するエンジニアを支援する「AI reasoning and coding layer(AIによる推論・コーディング層)」と位置付けている。
つまり、Claudeが考え、コードやコマンドを作る→ EDAツールが実行する→ 結果をClaudeが解析する→ 次の修正や実行を提案する、という使い方だ。
SemiWikiは、Claudeが生成したRTLや制約、スクリプト、バグ原因などはあくまで「仮説」であり、最終的にはlint、シミュレーション、フォーマル検証、論理合成など決定論的なEDAツールで確認する必要があるとしている。この点は、現在の生成AIによるチップ設計を考える上で重要なポイントと言えるだろう。
設計者はClaudeを何に使っているのか?
SemiWikiの記事から見えてくるClaudeの用途はかなり広い。まず分かりやすいのがRTL設計だ。既存RTLの解析、モジュールの説明、コード変更案の作成、新しいRTLやテスト用コードの生成などをClaudeに任せる。
さらに利用が進んでいるのが検証とデバッグで、仕様からテスト項目を抽出したり、SystemVerilog/UVMのテストベンチやAssertionの作成を支援したり、大量のシミュレーションログからエラーの共通点を探したりする。従来であればエンジニアがログを読みながら原因を絞り込んでいた作業を、Claudeに解析させることで調査時間を短縮するという使い方だ。
また、チップ設計で大量に使われるTclやPythonによる自動化スクリプトの作成もClaudeと相性が良い。SemiWikiの記事では、実験管理などに使うTcl/Pythonユーティリティの生成も用途として挙げられている。
バックエンド設計でも、Claude自身が配置配線を行うわけではないが、論理合成やPlace & Routeのレポートを要約したり、複数の実行結果からタイミングパスの変化を比較したりする用途が考えられている。要するにClaudeが得意なのは、EDAアルゴリズムそのものよりも、設計フローの周囲に存在する大量のコード、ドキュメント、ログ、レポートを読み、それらを結び付ける作業だ。
「コード補完」から「設計タスクの実行」へ
ここで注目したいのが「Claude Code」だ。従来の生成AIによる開発支援は、「このRTLを書いて」「このコードを修正して」といった単発のコード生成が中心だった。
Claude Codeはリポジトリ内の複数ファイルを読み、ファイルを変更し、コマンドを実行してその結果を確認することができる。そのため、例えば、仕様を読む→ RTLを修正する→ シミュレータを実行する→ ログを解析する→ テストを追加する→ 再度シミュレーションする、といった複数工程をまとめて扱える。
Anthropic自身も2026年3月、半導体エンジニア向けに「Claude Code for Semiconductor Teams」と題したWebinarを開催しており、そこで強調していたのが「line-level autocomplete(行単位のコード補完)」から「project-level task execution(プロジェクトレベルのタスク実行)」への移行だったという。
またMCP(Model Context Protocol)を利用して、Claude Codeを既存のエンジニアリング環境やツールにつなぐことも紹介していたという話だ。これは現在EDA業界で盛んに語られている「Agentic EDA」と非常に近い考え方と言える。
専用AIではなく「汎用AI+EDA」という選択肢、そしてAnthropic自らチップ設計へ
DAC 2026ではCadence、Synopsys、Siemensをはじめ、多くのEDAベンダやスタートアップがAgentic AIを打ち出した。しかしSemiWikiの記事が興味深いのは、そうした専用EDA AIとは別に、Claudeのような汎用AIを既存のEDA環境につないで使う流れが既に現場レベルで始まっていることを示している点だ。
Claudeは論理合成やSTAの専門アルゴリズムを持っているわけではないが、RTL、Python、Tcl、仕様書、ログ、レポートなど異なる種類の情報を横断して理解できるため、設計フロー全体を取り扱う「インターフェース」として機能する可能性がある。EDAツールの中にAIを組み込むだけでなく、AIの側から複数のEDAツールを操作するというアプローチである。
さらに興味深い動きがある。Anthropic自身が独自AIチップを開発するための「Custom Silicon Team」を立ち上げていることを明らかにした。(TechCrunchの記事参照)
AnthropicはハードウェアとAIモデルを共同設計することで、Claudeをより高速かつ効率的に動作させることを狙っており、実際に半導体設計経験を持つエンジニアの採用を進めている。なおTechCrunchによると、同社は独自チップだけに移行するわけではなく、AWS、Google、NVIDIA、AMDなどを利用するマルチ・チップ戦略を継続するとしている。
つまりAnthropicは今後、チップ設計者にClaudeを提供するAIベンダであると同時に、自らClaudeを使ってチップを開発する半導体設計チームを持つことになる。これはClaudeのチップ設計能力を進化させるうえでも興味深い動きと言える。
生成AIが本格的に「設計フローに入ってきた」
DAC 2026で見えてきたのは、「AIがチップを自動設計する」という未来が突然やってきたという話ではない。むしろ現時点では、設計者の日常作業の間に生成AIが入り始めたと見る方が実態に近いだろう。
現在はClaudeが設計者の指示を受けてEDAツールを利用している段階だが、Claude CodeのようなエージェントがEDAツールを実行し、その結果を評価して次の処理を決めるようになれば、人間がこれまで担当してきた「ツール間の判断」まで徐々にAIへ移っていく。ある意味、そこからが本当のチップ設計の変化かもしれず、DAC 2026で盛んに語られたAgentic EDAとは、まさにその方向性の話題である。
「AIを搭載したEDA」から「AIがEDAを使う」時代へ。その主導権を汎用AIが握るのか、それともEDAに特化したAIエージェントが握るのか。Claudeの台頭とAgentrys、ChipAgentsといった新興EDAベンダの動きは、これからのAgentic EDAの競争軸を占う上でも注目される。

SemiWiki
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.08.14
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