AIでチップ設計の自己改善ループを目指すRicursive Intelligenceが3.35億ドルを調達
AIラボの米スタートアップ Ricursive Intelligenceが半導体業界で大きな注目を集めている。
同社は2025年12月に正式ローンチしたばかりの新興企業だが、創業直後にシリコンバレーの大御所VCセコイアから3500万ドルのシード資金を調達。間髪入れずに2026年1月にはシリーズAで3億ドルを調達。累計調達額は3.35億ドル、ローンチ2か月足らずで評価額40億ドルに達している。
Ricursive Intelligenceは、AIによるチップ設計自動化を掲げるスタートアップで、Google Brain/Google DeepMindでAIによるチップ配置技術「AlphaChip」を生み出したAnna Goldie氏(CEO)とAzalia Mirhoseini氏(CTO)によって設立された。公式サイトによると、同社チームにはAlphaChipのほか、RL-CCD、Insta、C3POといったAI×チップ設計関連の研究開発に関わったメンバーが含まれ、Google DeepMind、Anthropic、NVIDIA、Cadence、Apple、xAI、Stanford、MITなどの出身者が集まっている。
Ricursiveが開発しているのは、AIを使ってチップ設計を高速化・自動化するプラットフォームとされているが、その詳細は明らかにされていない。同社は自社の開発しているAIプラットフォームを半導体設計の「すべての段階」をAIで加速・最適化するものと説明しており、TechCrunch誌のインタビューでは、対象はAIチップに限らず、カスタムチップや従来型チップを含む「あらゆる種類のチップ」を、より自動化された形で設計できるようにする構想が示されている。
技術領域としては主に「AlphaChip」の実績をベースにバックエンド設計にフォーカスしているように見えるが、同社の採用ページを見ると、 EDA Algorithm Engineer、RTL and Design Verification Engineer、LLM Infra Engineer、LLM Modeling and Scaling Researcher などの職種が並んでおり、フロントエンド設計、LLM基盤を含むフルスタック開発を進めていることがうかがえる。
Ricursiveの社名とビジョンの中核にあるのが、AIとチップの「recursive self-improvement」、すなわち再帰的な自己改善ループである。同社の構想では、AIモデルが次世代チップを設計し、そのチップがより高性能なAIモデルの学習・推論を可能にし、そのAIがさらに優れたチップを設計する。このループによって、AIとハードウェアを同時進化させるという思想である。
初期投資家のセコイアはこの構想を、ファブを持たずにチップを設計する「ファブレス」から、設計そのものを外部化・自動化する「デザインレス」への移行と説明している。つまり、Ricursiveは企業が巨大な半導体設計チームを持たなくても、自社ワークロードに最適化されたカスタム・シリコンを設計できる世界を目指している。この思想は、先ごろステルスモードから脱したAIスタートアップArchitect Labs社と全く同じで、Ricursiveは半導体業界における「デザインレス思想」の先駆者と言えるだろう。
※関連ニュース:2400万ドルを調達したAIスタートアップArchitect Labsは、チップ設計の完全な自動化「デザインレス」を目指す
Ricursiveの強みは、創業者らがAlphaChipで実際のGoogle TPU設計に関与したとされる実績にあるが、同社の成否はAlphaChipをはじめとするレイアウト設計向けのAI技術を超えて、アーキテクチャ探索、RTL設計、DFT、サインオフといった現実の半導体設計フロー全体にどこまでAIを組み込めるかにかかっている。
Ricursive Intelligenceは、自らをEDAベンダとは捉えておらず、AI時代のチップ開発そのものの再定義に挑戦するAIラボであると称している。現時点では、実際にどの設計工程をどこまで自動化できるかは未知数であるが、同社に集結した頭脳と潤沢な資金と支援者を考えると、Ricursiveは「AI for EDA」領域で最も注目すべきスタートアップの一社であり、チップ設計のパラダイム・シフトを実現する可能性を秘めた一社であると言える。

Ricursive Intelligence
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.06.24
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