InfineonがRISC-V採用の次世代車載MCU「AURIX RC1」を発表、大手半導体メーカーで進むRISC-V採用

2026年11月4日、独Infineon Technologiesは、RISC-Vを採用した次世代車載マイクロコントローラー(MCU)「AURIX RC1」ファミリーを発表した。

プレスリリース

「AURIX RC1」は、Infineonにとって初のRISC-V採用MCUプラットフォームとなるもので、SDV(Software Defined Vehicle)の普及を見据え、従来の車載制御から高性能コンピューティングまでを共通アーキテクチャでカバーする。

同社は11月10日からドイツで開催されるelectronica 2026で新製品ファミリーのコンセプトを披露し、2027年上半期のサンプル提供を目指す。

Infineonは2025年3月、車載MCUへのRISC-V採用方針を発表しており、今回の「AURIX RC1」はその戦略を具体的な製品プラットフォームとして示したものとなる。

最大12コアのRISC-Vプロセッサを搭載、64ビットMPU機能も統合へ

「AURIX RC1」は、従来のAURIXシリーズが強みとしてきたリアルタイム制御、機能安全、セキュリティに、RISC-Vの柔軟性と拡張性を組み合わせた新しいMCUプラットフォームだ。

最大12個の32ビットプロセッシングコア、最大40MBの組み込みメモリ、エッジAI向けの並列処理ユニットを搭載する。Infineonの製品情報では、最大1.2GHzの目標動作周波数、4万DMIPSを超える演算性能も掲げられている。

さらに、将来的には64ビットのマイクロプロセッサー機能を追加し、MCUとMPUを組み合わせたハイブリッド・アーキテクチャへと拡張する計画だ。

これにより、従来は用途ごとに分散配置されていた車載ECUの機能を、ゾーン・コントローラーやセントラル・コンピューターへ集約する次世代車載アーキテクチャに対応する。

対象用途は、ボディ制御、シャシー制御、バッテリー・マネジメント、パワー・トレイン、ADASの安全管理、コックピットなど幅広い。

RISC-Vのモジュール性を利用し、用途ごとに演算性能や消費電力を最適化しながら、共通のソフトウェアや開発ツールを利用できる点が特徴となる。

機能安全についてはASIL Dまでのアプリケーションをサポートする設計とし、サイバー・セキュリティではISO/SAE 21434などの規格への対応を図る。将来の耐量子暗号技術も視野に入れたセキュリティ機構を備える。

通信機能では、CAN XL、10BASE-T1S、マルチギガビットEthernetなどをサポート。一部の製品にはEthernetスイッチ機能も統合し、外付け部品の削減やシステム構成の簡素化につなげる。

RISC-V移行を支えるソフトウェア開発環境も整備

今回の発表では、ハードウェアだけでなく、RISC-Vへの移行を支援するソフトウェア・エコシステムの整備も重要なポイントとなっている。

Infineonは、「AURIX RC1」向けにソフトウェアエコシステム「DRIVECORE」を提供する。

「DRIVECORE」は、Infineonとパートナー企業が提供するソフトウェアを事前統合した開発環境で、AUTOSARやオープンソースソフトウェア、機能安全、サイバーセキュリティなどをサポートする。

バーチャル・プロトタイピング環境も用意されており、実際の半導体が完成する前からソフトウェア開発や検証を進められる。さらにAI支援の移行ツールにより、既存のAURIXやTRAVEO T2G向けソフトウェアの移植作業を効率化する。

Infineonは2025年の段階からSynopsysのツールをベースとしたバーチャルプロトタイプの提供を進めてきた。

RISC-VはISAがオープンである一方、既存の車載MCUから移行するには、コンパイラ、デバッガ、OS、ミドルウェア、検証環境などの整備が欠かせない。とりわけ厳格な機能安全が求められる車載分野では、ハードウェアとソフトウェアを含めた開発環境の成熟度が普及の鍵となる。

大手半導体メーカーで広がるRISC-V採用

RISC-Vはこれまで、スタートアップ企業や研究機関が開発するプロセッサで注目されることが多かった。しかし近年は、大手半導体メーカーによる商用製品への採用が着実に進んでいる。

日本のルネサス エレクトロニクスは2024年3月、自社開発の32ビットRISC-V CPUコアを搭載した汎用MCU「R9A02G021」の量産を開始した。ルネサスはそれ以前から、Andes TechnologyのRISC-Vコアを採用したモータ制御用ASSPや64ビットMPU「RZ/Five」なども製品化している。

米国のMicrochip Technologyも、RISC-Vを搭載したSoC FPGA「PolarFire SoC」を展開している。同製品は5個の64ビットRISC-VコアとFPGAロジックを統合しており、Linuxとリアルタイム処理を組み合わせた組み込みシステムなどをターゲットとしている。

また、AI半導体大手のNVIDIAもRISC-Vの採用企業の一つだ。NVIDIAはBlackwell世代のRTX GPUにおいて、GPUのタスクスケジューリングを担当する「AI Management Processor(AMP)」にRISC-Vプロセッサを採用している。

ここではRISC-VがGPUの主演算エンジンとして使用されているわけではなく、GPU内部の制御プロセッサとして活用されている。CPUによるタスク管理の負荷を低減し、GPU内で処理のスケジューリングを効率化する役割を担う。

米Qualcommも、商用プラットフォームへのRISC-Vマイクロ・コントローラーの組み込みを公表している。さらに2023年にはGoogleとの協業を発表し、Wear OS向けのRISC-VベースのSnapdragon Wearプラットフォームの開発方針を明らかにした。

こうした採用事例を見ると、RISC-Vの活用範囲はMCUや組み込みプロセッサにとどまらず、FPGA、GPU内部の制御プロセッサ、ウェアラブル機器向けSoCなど、多様な分野へ広がっていることが分かる。

車載RISC-Vの普及を後押しする大手6社の連携

車載分野では、RISC-Vの普及に向けた業界横断的な取り組みも進んでいる。

Infineonは2023年、Bosch、Nordic Semiconductor、NXP Semiconductors、Qualcommと共同で、RISC-Vの商用化を推進する合弁会社「Quintauris」を設立した。2024年にはSTMicroelectronicsも参画し、大手半導体企業6社による協力体制となっている。

「Quintauris」は、RISC-Vをベースとする共通仕様やリファレンス・アーキテクチャ、ソフトウェア基盤などの整備を推進しており、2026年には車載リアルタイム用途向けの「RT-Europa」プラットフォームの提供を開始した。

RISC-VのISA自体はオープンだが、メーカーごとに異なる独自拡張や実装が増えると、ソフトウェアの互換性や再利用性が損なわれる可能性がある。

「Quintauris」の取り組みは、こうした課題に対応し、車載分野で求められる性能、機能安全、ソフトウェア互換性を確保しながらRISC-Vの商用化を加速させる狙いがある。

今回Infineonが発表した「AURIX RC1」は、こうした業界共通基盤の整備と並行して進められてきた車載RISC-V製品化の具体例と言える。

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