中国StarFive、最大256コアのサーバー向けRISC-V CPU IPをAIインフラ市場へ投入
2026年8月18日、RISC-Vプロセッサを手がける中国StarFive(赛昉科技)は、サーバー市場向けのRISC-V CPU IP「Dubhe-100(昉・天枢-100)」を発表した。
StarFiveは2018年、RISC-Vプロセッサを手掛けるSiFiveと中国の現地チームによって設立された企業で、当初は中国市場でSiFiveのRISC-V IPを展開する役割を担っていた。SiFiveの子会社ではなく独立企業として運営されている同社は、その後自社CPU IPやSoC、NoCの開発へと事業を拡大。現在では、サーバー向けRISC-V CPU IPでSiFiveと競合するまでになっている。
発表によると「Dubhe-100」は、AIエージェントをはじめとする次世代AIコンピューティング基盤をターゲットとする高性能CPUコアで、すでに顧客への提供フェーズに到達しており、中国のサーバーCPUベンダLECARCでは、同プロセッサIPを採用したサーバーCPUの開発が進んでいるという。
6-issueのOoO構成、RVA23とVector Extensionに対応
StarFiveの説明によると「Dubhe-100」は、15段パイプライン、6-issue、256エントリのROB(Reorder Buffer)を備えたDeep Out-of-Order実行アーキテクチャを採用。命令セットは「RVA23」に準拠しており、RISC-V Vector Extension(RVV)についてもOut-of-Order実行に対応している。従来のIn-Order型Vector実装では、AI推論や暗号処理などで実行時間の長い命令が後続命令を止めてしまうケースがあり、「Dubhe-100」ではVector命令をOut-of-Orderで処理することで、こうしたストールを抑え、スループットの向上を狙っているという。
CPUコア+NoC+周辺IP一式を提供
「Dubhe-100」は1コア、2コア、4コア構成のキャッシュ・コヒーレントなクラスター・サブシステムとして提供され、TileLink、AXI、ACE、CHIといった主要インターコネクト規格をサポートする。さらに同社独自のキャッシュ・コヒーレントNoC IP「StarNoC-700」と組み合わせることで、1ダイあたり最大256 CPUコアまで拡張できるとしている。
同時にStarFiveは、RISC-VのAIA(Advanced Interrupt Architecture)v1.0に準拠する割り込みコントローラIPと、IOMMU(I/O Memory Management Unit) v1.0.1対応IPも用意。LinuxおよびKVMによる仮想化環境もすでに動作しているという。
このようにStarFiveは、高性能なRISC-V CPUコア「Dubhe-100」を作ったというだけではなく、Coherent NoC、割り込み、IOMMU、仮想化ソフトウェアまでを揃え、サーバーSoCを設計するための一式を提供するという戦略を強調している。
RISC-VはMCUからサーバーへ
RISC-Vは当初、MCUやIoT向けの小規模CPUを中心に普及してきた。しかし現在は、自動車、PC、AIプロセッサ、データセンターなど、より高性能なコンピューティング領域への採用が急速に進んでいる。
市場調査会社Omdiaは、RISC-Vベースのプロセッサ出荷数が2024年から2030年にかけて年平均約50%で増加し、2030年には年間170億個、世界のプロセッサ市場の約4分の1を占める可能性があると予測している。特にAIの拡大がRISC-V普及の大きなドライバーになるとの見方だ。
さらにRISC-V Internationalが2026年6月に紹介したSHD Groupの市場予測では、2031年のRISC-V SoC出荷数を359億個、売上高を3,180億ドルと予測。その中でもAI関連SoCは数量では約4分の1ながら、売上高では約70%に相当する2,220億ドルを占めると見込まれている。
こうした流れに合わせ、サーバー向けRISC-Vを実用化するためのRISC-V自体の標準化も進んでいる。
2024年には、Vector ExtensionやHypervisor Extensionを必須とするRVA23 Profileが正式承認され、2026年5月には、OSやHypervisorなどが前提とできるハードウェア/ソフトウェア要件を定義した「RISC-V Server Platform Specification v1.0」も正式に批准されている。
高性能RISC-V市場の現況
サーバー/高性能RISC-Vの分野で先行するSiFiveとTenstorrentの両社は、すでにデータセンター向けCPUを市場投入している。
SiFiveのサーバー向けプロセッサ 「P870-D」は、「Dubhe-100」と同様にRVA23に準拠し、CHIとNoCを利用することで最大256コアまでの構成を想定している。また、Tenstorrentも2025年末に高性能RISC-V CPU 「Ascalon」の提供を開始。2026年6月には、面積あたりの処理能力を重視し、Agentic AI向けに最適化した「Ascalon S」を発表している。
こうした状況を見ると、高性能RISC-V市場の競争はすでに「Armやx86の代わりになるのか」という議論から、その先へ進み始めていると言えるだろう。とりわけ、独自の半導体エコシステム構築を急ぐ中国はRISC-Vにとって最大の成長市場の一つであり、StarFiveのような中国勢の台頭が、RISC-Vを組み込み用途からサーバー/AIインフラへと押し上げる大きな原動力になりそうだ。
RISC-Vの勝負は「CPUコア」から「システム」へ
今回の「Dubhe-100」で興味深いのは、CPUコアそのもののスペック以上に、StarFiveがNoC、IOMMU、AIA、仮想化環境まで含めたサーバー向けプラットフォームを構築しようとしている点だ。
RISC-VにはISAを自由に利用・拡張できるという大きなメリットがある一方で、高性能コンピューティング市場への普及には、CPU性能だけではなく、キャッシュ・コヒーレンシ、仮想化、RAS、OS、コンパイラ、ミドルウェアといったシステム全体の成熟度が問われる。
RVA23やServer Platform Specificationの標準化が進み、SiFive、Tenstorrent、StarFiveなどが相次いで高性能CPU IPを投入している現在、RISC-Vは「組み込み向けの新しいISA」から「サーバーCPUを含む汎用コンピューティングの選択肢」へと次のステージに入りつつあり、その勝負はISAの優劣から「実装力」と「エコシステム」の競争へ移り始めている。





