スペインOpenchipが2nm GAAプロセスで作ったRISC-Vプロセッサ「BER10」を発表
2026年7月30日、スペインの半導体ベンダのOpenchipは、RISC-Vベースの64ビット・プロセッサ「BER10」を発表した。
Openchipは、スペインのエンジニアリング企業GTD Systems and Software Engineeringと、Barcelona Supercomputing Centerによる共同プロジェクトとして2021年に設立されたファブレス半導体企業である。
本社はバルセロナにあり、スペインのほか、イタリア、ポーランド、アイルランド、ドイツにも開発拠点を展開している。スペイン政府によると、2026年6月時点の従業員数は約300人で、その多くを半導体およびソフトウェアの研究開発人材が占める。
Openchipは2024年7月に、RISC-V Internationalの最上位会員であるPremierメンバーに加入し、CEOのCesc Guim氏が同団体のボードメンバーに就任している。
OpenchipはRISC-Vを採用した高性能かつ低消費電力のSoC、CPU、ベクトル・プロセッサ、AIアクセラレータなどを開発し、HPC、AI、データセンター、公共インフラ、防衛、航空宇宙などの市場をターゲットとしている。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやシステムまで含めて設計する「フルスタック」の開発体制を特徴としている。
4個のアウト・オブ・オーダーCPUコアとベクトル処理ユニットを搭載
今回発表された「BER10」は、Linuxを動作可能な4個の高性能CPUコアと、AIや科学技術計算などの並列演算に対応するベクトル処理ユニットを搭載する。Openchipによると、「BER10」は欧州で設計され、サブ2nm世代のGate-All-Around(GAA)プロセスを用いて製造されたという。
「BER10」に搭載される4個のCPUコアは、命令の依存関係を解析し、プログラムに記述された順序とは異なる順番で命令を実行するアウト・オブ・オーダー実行に対応する。これに加えて、複数の演算を並列処理するワイド・ベクトル処理ユニット、マルチチャネルのメモリ・インターフェース、PCI ExpressおよびAXIインターフェースを搭載する。AI、画像処理、科学技術計算など、演算量の多い処理を想定したアプリケーション・プロセッサとなっている。
Openchipは「BER10」について、単なる研究用チップや技術実証ではなく、実際のOSとソフトウェアを実行できる「産業グレードのシリコン」であると説明している。すでに実シリコンが完成し、パートナー企業がソフトウェアやシステムの開発、検証に利用できる状態にあるという。
同社は2024年初頭から本格的な開発体制の構築を開始し、2025年に「BER10」をテープアウトした。チームや設計環境、IPを一から整備し、約2年半で実シリコンの完成まで到達したとしている。
一方、現時点では動作周波数、キャッシュ構成、ベクトル長、対応するRISC-V拡張命令、メモリ規格、消費電力、チップ面積、性能ベンチマークなどは明らかにされていない。また、製造を担当したファウンドリや具体的なプロセス名称も公表されていない。
このため「BER10」は、完成済みの量産チップというよりも、Openchipが開発したCPU、ベクトル演算、メモリ、インターフェースなどの主要技術を実シリコン上で検証するためのプラットフォームとしての意味合いが強い。
最初のデータセンター製品にBER10の技術を展開
Openchipは現在、「BER10」で実証した主要回路ブロックをベースに、同社初となるデータセンター向け製品を開発している。
今後は「BER10」を通じてハードウェア、OS、コンパイラ、アプリケーションなどの検証を進め、AIおよびHPC向けのRISC-Vプロセッサやアクセラレータへ技術を展開する計画だ。同社はBarcelona Supercomputing Center(BSC)とも長期的な研究開発を進め、製品ロードマップを策定している。
Openchipは2024年、NECおよびBSCと、スーパーコンピューター向けRISC-Vベクトル・コンピューティング・アクセラレータの共同検討を開始した。NECが長年培ってきたSXシリーズなどのベクトル型スーパーコンピューターの技術や知見を活用し、科学技術計算やAIに適したプロセッサの開発を目指している。
また、エンタープライズLinuxを手がけるSUSEとは、Openchipのシリコン上でSUSE Linux EnterpriseやKubernetes管理基盤のRancher、SUSE AIなどを動作させるための検証を進めている。半導体だけでなく、OSやAIソフトウェアを含む欧州発のコンピューティング基盤を構築する狙いだ。
RISC-Vを研究段階からデータセンターへ
これまで欧州発のRISC-Vプロジェクトは、研究機関によるプロトタイプやスーパー・コンピューター向けの実証開発が中心だった。これに対してOpenchipの「BER10」は、アウト・オブ・オーダーCPU、Linux、ベクトル演算、PCI Express、先端GAAプロセスなど、サーバーやデータセンターに求められる要素を実シリコン上に統合しており、商用化を強く意識したHPCプロセッサといえる。
また、短期間で先端プロセスを採用したLinux対応RISC-Vプロセッサを設計し、実シリコンとして動作させたことは、Openchipがファブレス半導体ベンダとして高い開発力を備えていることを示す成果でもある。
今後の焦点は、「BER10」で実証した技術をベースに、Openchipがどのような商用製品を投入するかに移る。その製品コンセプトや市場戦略、そして欧州発のプロセッサ企業としてビジネスをどこまで成長させられるかが注目される。





