国内LSI設計者の知恵を活かす一つの方向性-Apache社セミナー香山氏の基調講演
約1ヶ月前の2011年12月2日、新横浜のホテルでパワー解析および最適化ソリューションを手掛ける、米Apache Design Solutions社主催の「Apache Technology Forum 2011」が開催された。
ここでは同セミナーで行われた、コバレントマテリアル株式会社 シニアアドバイザー 香山晋氏による基調講演「エレクトロニクス/半導体産業における「エネルギー問題社会」について紹介する。
香山晋氏は、東京大学工学部卒業後、1969年に東芝に入社し以降30年近く半導体の研究開発に従事していた人物で半導体の世界では著名な存在。2004年に東芝の執行役員上席常務(電子デバイス事業グループCTO)を経て、東芝セラミックス社長に就任してからは、シリコンウエハ、半導体製造部材に関わるようになり、2007年6月に経営陣による企業買収(MBO)という形で東芝グループから独立。新会社コバレントマテリアル株式会社を立ち上げ約4年間社長を務めた。
香山氏は現在、会社経営の一線から退き個人事務所を開設。「もう一度日本でアプリケーション・プロセッサ開発を」と事業開発に取り組んでいるということで、過去から遡り現在浮き彫りとなっているエレクトロニクス産業ならびに半導体産業の課題について語った。
■半導体における古典的なスケーリングの破綻
まず香山氏が指摘したのは、自己達成型の予言ともいえるムーアの法則の限界、即ち半導体における古典的なスケーリング戦略の行き詰まりだった。香山氏曰く、結局のところ半導体の微細化を牽引してきたのは半導体の価格であり、微細化によって半導体のゲート単価は下がり続けてきたが、22nm以降はそれも限界。これまでは微細化によりコスト低減という恩恵を得られたが、今後はダブルパターニングやEUVなどの必要性からむしろコストは増える方向となり、これをどう正当化するかは重要であると強調。更にウエハの大口径化はコスト増に拍車をかけることになり、450mmウエハは現実的では無いと語った。
■ロードマップの在り方と半導体産業の健全性
香山氏は半導体スケーリングの破綻を語る中で、プロセス微細化とウエハ大口径化を関連付けるかのようなITRSの半導体技術ロードマップを取り上げ、そもそも半導体の微細化とウエハの大口径化は無縁であるはずと指摘。しかし、実際にロードマップに従うように微細化、大口径化が進み、それがファブの高コスト化を生み出し半導体産業の寡占化を招いたとして、ロードマップのあり方についても考える必要がある時代だと主張した。また合わせてプロセスの微細化に伴うファブの寡占化を表す図を示し、製造面での競争が制限されている現在の半導体産業の形を今後も許すのか? この状況はエレクトロニクス産業として健全なのか?と疑問を投げ、国全体が影響力のないロードマップに準拠してしまっては競争力が失われるのは明らかで、日本はその状況に陥りつつあると警鐘を鳴らした。
※香山氏が講演スライドで紹介した図
■今後のLSI開発と注目すべき技術
微細化による限界の克服に向けて香山氏は、3次元化などの実装技術の革新が必要であり、異なるチップを自由に集積できる技術が確立されれば、従来の微細化の延長線上から違った世界が展開される可能性があると語り、当面は2.5Dが加速するだろうと予測。3次元化に伴う新技術として、内部配線のボトルネックを克服するワイヤレス・インターコネクトやオプティカル・インターコネクトにも注目しているとの事で、既存のマルチコア・チップにおいてもチップ上にネットワークを組む上でインターコネクト技術は重要であるとした。
また、チップのマルチコア化については、僅かな性能向上のために膨大な電力を消費しなければならない現状を打破するには、省電力に向けた電力の動的制御、デバイス構造の改善、ソフトウェアの改善など複合的な対処が必要で、中でも並列演算の効率化は最大のチャレンジであると指摘。これら課題に取り組むためには、最終的に優れた技術者の能力と道具が必要不可欠であり、日本においてEDAへの投資が遅れているのは問題だとした。
■チップのパワー・マネジメントと都市設計
香山氏は講演の最後に、チップのマルチコア化に伴うパワー・マネジメントは、大都市におけるスマート・グリッドと共通点が多いというユニークな持論を展開。具体的には、大都市とLSIは似ていて、いずれも電力やエネルギー効率など技術開発のテーマがパワーの整理に集約しつつあり、チップ設計というミクロの世界と都市設計というグローバルな世界で本質的な共通点があるというもの。
結論として香山氏の主張は、LSIのパワー・マネジメントの手法や考え方などはスマート・グリッドにも応用できるはずというもので、LSIにおけるパワー・マネジメントと比べると国内のスマート・グリッド分野で行われている議論は低品位で、そこには先端LSI設計者の知恵が必要な状況であるとのこと。スマート・グリッドに限らず医療機器の実装などにおいても似たような状況があるという話で、香山氏は、優秀な日本の半導体技術者の知恵は様々な分野で活用することが可能。その知恵とスキルを活かし
て新たな分野に意欲的に進出して欲しい。今はチャンスの多い時代だ。と熱く語った。
て新たな分野に意欲的に進出して欲しい。今はチャンスの多い時代だ。と熱く語った。
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2012.01.04
)