ET2010で見かけたEDAソリューション-オーバートーン社の高位合成ツール

2010年12月1日、2日とパシフィコ横浜で開催されたEmbedded Technology 2010に足を運んだ。
単純に出会った関係者の数によるイメージだが、今年は例年よりもハード設計寄りの方々が多かった印象。聴講したFPGA関連のセッション「技術者たちは気づき始めた、現在のFPGA設計手法に潜む罠」と「FPGAデザインが、たまに動かなくなることはありませんか?」はいずれも200名近い参加者で満席だった。
展示で一番印象に残ったのは、国産高位合成ツールを展示していた今年初出展のオーバートーン社
こじんまりとしたブースにはかなりの人だかりが出来ていた。
同社の背景はこちらのブログにキーワードが出ているが、 東海大学、清水尚彦教授の研究成果を事業化した日本のEDAベンチャーで、その起源は1980年代にNTTの研究所で開発された論理合成ツール「PARTHENON」にあるようだ。
オーバートーンの提供する製品は、「NSL Core」、「NSL Core+」、「NSL Overture」と3種類あるが、その高位合成エンジンは全て共通で、独自のハードウエア記述言語「NSL(Next Synthesis Language)」を入力としている。「NSL」はVerilogとVHDLにCの使い易さを取り込んだ言語仕様で、デザインの構造と動作を分離した形で記述可能。TLMの抽象度でクロック単位の制御を記述する事ができるほか、HDLで記述されたIPを呼び出す事もできる。論理合成用のVerilog,VHDLに加え、検証用のSystemCも出力可能で、FPGAをターゲットとする場合、AlteraおよびXilinxのFPGAコンフィギュレーションデータを直接出力する機能があるという。
また、同社の高位合成エンジンのユニークなところは、UMLからのエントリ・パスを用意しているところで、UMLから専用言語「NSL」へのコンバーター(NSLのテンプレート出力)を利用することでUMLからのLSI設計を実現できる。同社取締役開発部長の井倉将実氏は、デザインの仕様の理解・意思統一を図る手法としてUMLを用いたシステムレベル設計手法を提唱しており、「NSL」を高位の仕様記述UMLと実装言語HDLのギャップを埋める「ハブ言語」として利用する事で、理想的な高位合成フローが構築出来るとしている。
現在オーバートーン社では、高位合成エンジンにシンプルなGUIが付いた「NSL Core」、更にEclipse GUIとUMLtoNSLを追加した「NSL Core+」、NSLのエディタやデバッグ環境、FPGAコンフィギュレーション機能などを備えたフルパッケージの「NSL Overture」を提供中。「NSL Core」については無償の教育用ライセンス(NSL入力500行まで)と無償の非商用ライセンス(NSL入力2000行まで)も用意している。
これまで高位合成というと、「人手RTLと同等」といったようにその自動化機能が如何に優れているかに焦点が当たるケースが多かったが、ここ最近はその流れが微妙に変化してきた感があり、ある人はそれを「思考ツール」と呼び、ある人は「複雑なアルゴリズムの実装には不可欠」と言うなど、その使い方に焦点が移ってきている。オーバートン社の井倉氏は、高位合成は「仕様の理解を一致させ設計の意思疎通を図るために必要」としており、同社の高位合成ツールは、設計現場のエンジニアの視点でツールを作り込んだというイメージが強かった。
いずれにしても高位合成の普及期と言えるこの時期に、国産高位合成ツールが登場したことを歓迎し、今後の活躍に是非期待したい。

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2010.12.06 )