【DACレポート1】今年のキーワードはESLとLow Power(=Green)
2009年7月26日‐31日、カリフォルニア州サンフランシスコで第46回「Design Automation Conference」が開催された。
今年のDACは、開催前から来場者の少なさが噂されていたが、やはり昨年以上に人の少なさが目立ち、Conference会場はともかく、展示会場は初日のFree Mondayを除き人もまばらな状態。公式発表では来場者数は前年比12%増の約5100人(7月29日時点の累計)となっているが、感覚的には昨年よりも来場者が少ない印象で少なくとも日本企業からの参加者は数十名レベルといった感じであった。
展示会場における展示ブースの数は昨年の218に対し今年は192で、そのうち29が初出展のブース。出展した企業・団体数は昨年の約2割減の計184社だった。
Conferenceでは、6つのチュートリアル、8つのワークショップ、25のパネル・セッション、10のスペシャル・セッションが行われ、発表された論文数は計117。Best Paperには、Berkeley Design Automationの技術者が発表した「A Robust and Efficient Harmonic Balance (HB) Using Direct Solution of HB Jacobian」が選ばれた。
今年のDACで話題となっていたのは、ズバリ「ESL」と「Low Power(=Green)」。
■「ESL」
「ESL」は昨年に引き続き「これからの成長分野」として注目を集めており、チュートリアル、ワークショップ、パネルなど分野別で最も多い計30もの特別セッションが行われた。展示会初日には、業界アナリストGary Smith氏が恒例のパネル・セッションで冒頭から「ESL」の成長と必要性を語り、ESL Synthesisすなわち高位合成の真のリーダーは今年決まるとして、その候補としてMentor、Forte、Bluespecなどの名を挙げた。
Gary Smith氏の主宰する業界の調査会社「Gary Smith EDA」では、昨年からDACにおける要チェック企業のリストを展示会場で配布しているが、今年リストアップされた企業24社のうち16社がESL関連。「これからはESL」というのがGary Smith氏のここ数年の持論であるが、「今年はESLマーケットが倍増する」、「ESLツールによってソフトウェア開発もEDAの市場となる」といった話しを各所で語っていた。
また、業界メディア「SCD Source」でも、「SCDsource's ten hot technologies to see at DAC 2009」としてチェックすべき製品を紹介していたが、リストアップされた10種の製品のうち半分はESLにカテゴライズされるもので、やはりMentor、Forteの高位合成ツールが名を連ねていた。
高位合成ツールは、これまでHigh Level Synthesis、Behavioral Synthesis、ESL Synthesisなど様々な呼称が使われていたが、最近は「HLS(High Level Synthesis)」という表現が定着しているようで、今回のDACでは、AutoESL、Bluespec、Cadence、ChipVision、Forte、Mentor、Synforaと7社のHLSベンダが出展。その技術が設計の現場で広がりつつある感じを受けた。ちなみに上記企業以外にも、NECシステムテクノロジー、Impulse、YXI、SystemCrafterなどが「HLS」を提供しており、某EDA最大手も再び「HLS」市場に参入するという噂もある。
「Low Power」については、世の中の「Green(エコ)」志向に引っ張られるように、EDAの世界でも設計の目前の課題に対処する技術として改めて注目が高まっている。これまではどちらかというとRTL設計からインプリメントに渡るLowPower技術がその中心となっていたが、今回のDACではシステムレベル設計からRTL設計へかけてのLowPower技術の話題が目についた。
NVIDIAのWilliam J. Dally氏は、基調講演の中で「設計初期段階で使えるPower解析用のESLツールを求めている」とコメント。先出のESLの話題とオーバーラップするが、Gary Smith氏はESLにおけるパワーソリューションの必要性を訴え、パワーを考慮したHW-SWのパーテショニング技術が特に重要であると指摘。SequenceやAtrentaなど既存のRTLレベルのLowPowerツールベンダに対し、ESLの方向へ進むべきと語っていた。 尚、Gary Smith氏の指摘はさておき、Sequenceは今回のDACで新たなLowPewerツール「Power Artist XP」を発表。また、同じくRTLレベルのLowPewerツールを手掛けるCalyptoも新製品「PowerPro MG」を発表していた。
ESLツールとしてLowPowerをうたうツールはこれまでも存在していたが、大きくはシステム・パフォーマンス解析系のツールとHLSツールとに分類できる。前者では、Mentorが今回のDACでトランザクションレベルでパワー解析/最適化を行う「Vista」の新機能を発表。その他、CoFLuent、Mirabilis、DOCEAなどがシステムレベルのパワー解析ツールを展示していた。
HLS関連では、ChipVisionが以前から消費電力考慮のHLSをウリにしているが、AutoESLやMentorもこれに追随し自社HLSにおける新たなLowPower機能をアピール。また、LowPower関連のUserセッションでは、NECがHLSツール「Cyber Work Bench」を用いて動作記述からPowerプロファイルを取り、消費電力の最適化を行うという事例を紹介していた。
尚、Low Powerチップの設計技術は「Green Technology」と位置づけられており、今回のDACでは「Green」をキーワードとした特別セッションが複数行われていた。RTL設計以降のLowPowerソリューションについては、Cadence、Synopsysの2社が業界をリードする中、Power解析で健闘しているApacheがブースに人を集め目立っていた。
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2009.08.04
)