【EDSFレポート】もはや動作合成無くして設計は追いつかない>>シャープはフルHDTVの画像処理エンジンを合成
2007年1月25日、パシフィコ横浜で開催されたEDSFairの会場内特設ステージにて、「本音で語る動作合成?ここまでできる、ここができない」と題されたパネルセッション行われ、立ち見客を含む150名以上の聴講者を集めた。
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セッションの司会を務めたのはシャープの西本氏。1日を争うバックエンド設計の立場で、「動作合成によってもっとシステム設計のTATを短縮出来ないものか?」というスタンス。
パネリストは、長年、動作合成技術の開発に直接携わってきた業界の大御所、NECの若林氏とシャープの山田氏、動作合成ツールを販売するEDAベンダという立場のメンターの小島氏、ある意味ユーザとして客観的なツール評価を行っているSTARCの塩月氏の計4名。基本的には、パネリスト全員が動作合成推進派という事もあり、話は「ここまでできる、ここができない」という主題を飛び越えて、「動作合成無くしては設計は追いつかない」という方向へと進んだ。
NECの若林氏は、専門家を要するほど複雑なアルゴリズムを、「ハード設計者が都度勉強して設計するという現在のやり方には、無理がある」と指摘し、SoCのアルゴリズム部は動作合成を使い、設計者の技術はその制御部に生かすべきと主張。社内ではかれこれ10年以上、動作合成を使って設計を行っているという実績を示し、「この先も未だCとVerilog、2つの言語を使い続けますか?」と問いかけた。
メンターの小島氏は、現在市販されている動作合成ツールを「第二世代の動作合成ツール」と称し、一昔前の動作合成とは違う、実用レベルに達した第二世代ツールの性能・品質の違いを強調。動作合成ツールは「今が旬」とした上で、動作合成が育つ土壌を持つ日本で「まだツールの進化を待ちますか?」と投げかけた。
シャープの山田氏は、内製の動作合成ツール「Bach」による、液晶TVアクオス用の画像処理エンジンの設計事例を紹介。海外の学会でも発表したというこの事例は、フルHDスペックの画像処理チップの約90%を動作合成によって設計したというもので、チップの要求スペックは、クロック周波数150Mhz、入力が60フレーム/秒、出力が120フレーム/秒というハイスペック。
山田氏によると、そもそもCのソースコードで1万行にもなり「RTL設計は誰もやらない(やれない?)」アルゴリズムであった為、動作合成の適用を決定。1年前の時点では、未だそのアルゴリズムさえ出来上がっていなかったが、PLL、非同期の入出力IF、外部メモリとのIFを除く全てを「Bach」でCから動作合成。約350個のテストデータを用いて各設計フェーズで検証を行い、試作一発動作を実現したという。
山田氏はこの事例を挙げ、「まさに動作合成無くしては成功しないプロジェクトであった」とその必要性を強調。「とにかく割り切って使う事が重要」、「ユーザが増えればツールは必ずよくなる」と語り、シャープ社内では携帯電話向けチップなど、様々な設計で動作合成を活用している事を明らかにした。
STARCの塩月氏は、STARCで実施した、市販動作合成ツール3製品の評価データの一部を紹介。未だツールによってパフォーマンスは様々で、出力されるRTLに改善の余地があるとしながらも、中にはこの1年間で大幅にパフォーマンスを改善したツールもあり、「難しい部分をRTLで補完する形で利用すれば充分使えるレベルにある」とした。また、塩月氏は、動作合成を利用する上で「ツールの負担を軽減するために、Cレベルでのコード最適化が重要」としながらも、「ツールに合わせた不自然なコード変更は避けるべき」と注意を促した。
司会の西本氏が投げかけた「これまで動作合成の失敗例は?」という質問に対しては、「RTLライクなCを合成しても効果が出ない」(山田氏)、「設計側とEDA部隊がうまく連携しないと難しい」(小島氏)、「Ghzクラスの高周波系回路だとPureなCでは限界がある」(若林氏)、「他人の書いたCを合成する際の誤解釈」(塩月氏)といったコメントが寄せられたが、全体的な意見としては「動作合成は無くては困る」という方向で一致。
「動作合成を活用して設計で効果を上げて、自分の給料を上げるべき」(小島氏)、「Cを見て回路構造をイメージ出来ますか?出来なければ、動作合成で合成するしかない」(若林氏)、といったコメントに、パネリストをはじめ聴講者も頷くシーンが印象的であった。
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2007.01.30
)