ChipAgents、デジタル・アナログ設計を横断するAgentic AI基盤「IC-star」を発表、Rambusが全社採用へ

2026年10月27日、半導体設計向けAgentic AIプラットフォームを手掛ける米ChipAgentsは、デジタルおよびアナログ半導体設計に対応するAgentic AI基盤「IC-star」を発表した。

プレスリリース

今回発表された新たなAIエンジン「IC-star」は、設計知識の蓄積、AIエージェントの協調動作、物理特性を考慮した最適化などを統合し、半導体設計プロセス全体の自動化を目指すもの。

ChipAgentsは「IC-star」を用いたAgentic AIプラットフォームを「フルスタックAgentic AI」と位置付けており、従来のRTL生成や検証、デバッグといった個別タスクの自動化から、デジタル・アナログを横断する設計ワークフローの自律的な実行へと対応範囲を拡張した。

また、今回の発表に先立つ10月22日には、半導体およびシリコンIP大手の米RambusがChipAgentsのプラットフォームを全社的に採用すると発表(プレスリリース)。両社は戦略的パートナーシップを締結しており、RambusはChipAgentsへの戦略的出資も実施しているという。

■4つの技術を統合するAIエンジン「IC-star」

新たな「IC-star」は、AIエージェントが半導体設計の状況を理解し、設計目標に向けて次に実行すべき処理を自律的に判断するための中核エンジンとなる。

そのアーキテクチャは、以下の4つの主要技術によって構成される。

  • IC Design Ontology: 設計知識や設計計画、再利用可能なスキル、企業固有の設計手法などを保持する知識基盤。設計・検証の結果やエンジニアからのフィードバックを反映し、継続的に知識を蓄積する。
  • Reasoning Core: 設計目標に応じて複数のAIエージェント、AIモデル、EDAツールを連携させる推論・制御エンジン。根本原因解析、PPAを考慮したRTL最適化、アナログレイアウト生成など、複数工程にまたがる処理を実行する。
  • Multiphysics-Aware Models: タイミング、消費電力・性能・面積(PPA)、DRC、DFT、アナログ回路の物理特性などを考慮するAIモデル群。半導体設計に特化した独自LLM「Renoir」を中核モデルの一つとして活用し、設計生成時点から複数の評価指標を最適化する。
  • Design-Driven Model Navigator: 処理内容に応じて適切なAIモデルを動的に選択する仕組み。生成結果の品質、処理時間、推論コストなどを考慮し、AIモデルの使い分けを最適化する。

これらの技術を組み合わせることで、エンジニアが個々のAIモデルやEDAツールの実行手順を細かく指示するのではなく、設計目標や制約条件を指定すれば、AIが必要な処理を判断して実行し、結果を評価しながら設計を改善していくことが可能になる。

ChipAgentsは、AIモデル単体の性能ではなく、設計結果が目標に収束するまでの時間やエンジニアの作業工数、AIとEDAツールを含む総実行コストを重視している。

■デジタル設計からアナログ設計まで自動化範囲を拡大

今回の機能拡張では、共通のIC-star基盤を利用して、デジタル設計とアナログ設計の双方でAIエージェントを活用できるようにした。具体的にAIエージェントが対応可能なタスクは以下の通り。

デジタル設計:仕様解析、アーキテクチャ探索、RTL生成、機能検証、フォーマル検証、デバッグ、カバレッジの収束、PPAを考慮した最適化など

アナログ設計:回路トポロジーの検討、回路図設計、振る舞いモデルの生成、シミュレーション、レイアウト生成、物理検証など

特にアナログ設計では、単純なコード生成だけでなく、回路動作や波形、物理特性を踏まえた設計判断が求められる。ChipAgentsは物理特性を理解するAIモデルと既存のシミュレーションツールを連携させ、設計生成、シミュレーション、評価、修正を繰り返す自律的なワークフローの実現を狙う。

なお、ChipAgentsは既存のEDAツールを置き換えるものではなく、各種EDAツールをAIエージェントによって連携・制御するアプローチを採用している。既存の設計・検証環境を活用できるほか、オンプレミス環境およびクラウド環境での利用をサポートする。

■NVIDIAとの協業を拡大、Nemotronを半導体設計向けに最適化

ChipAgentsは、AIモデルの高度化に向けてNVIDIAとの協業も拡大する。

具体的には、NVIDIAのオープンモデル「Nemotron」をデジタル・アナログ半導体設計向けにファイン・チューニングし、設計情報の理解やシミュレーション結果の解析、検証結果に基づく設計改善などに活用する。

ChipAgentsによると、追加学習したNemotronモデルは初期評価において最先端のAIモデルと競争力のある性能を示しており、評価対象のオープンウェイトモデルの中では性能とコスト効率の両面で優れた結果を得ているという。

■Rambusが全社採用を表明、設計・検証業務にAgentic AIを展開

今回の発表で注目されるのが、米RambusによるChipAgentsの全社採用である。

Rambusは10月22日、ChipAgentsとの包括的な戦略提携を発表し、同社の半導体チップおよびシリコンIPの設計・検証ワークフロー全体にChipAgentsのプラットフォームを導入していく方針を明らかにした。

Rambusはメモリ・インターフェースやセキュリティなどの先進的な半導体IPを手掛けており、ChipAgentsの技術を活用することで、設計期間の短縮、エンジニアリング生産性の向上、QoRの改善を目指す。

また、両社はRambusのシリコンIPに関する専門知識とChipAgentsのAgentic AI技術を組み合わせ、顧客が利用する既存の設計環境において、チップ設計やIP統合の効率を高める取り組みも進める。

RambusのSilicon IP部門を率いるSimon Blake-Wilson氏は、同社の半導体およびシリコンIPに関する専門知識とChipAgentsのIC-starエンジンを組み合わせることで、顧客の先進チップ開発を加速し、設計成果を改善する可能性に期待を示している。

さらにRambusはChipAgentsの戦略的投資家にもなっており、両社の関係は単なるツールのユーザーとベンダーを超えたものとなっている。なお、出資額や全社展開の完了時期については明らかにされていない。

IPベンダがAgentic AIを導入する意味

ChipAgentsによると、同社プラットフォームの導入実績は200件を超えている。具体的な導入成果としては、Andes TechnologyやeMemoryなどIPベンダによる事例も多数公表されている。

半導体IPビジネスでは、設計資産の再利用を前提に、顧客要求に応じたカスタマイズや厳密な機能検証を繰り返す必要がある。そのため、設計・検証の自動化による恩恵は大きく、Agentic AIの活用は単なる工数削減にとどまらず、製品展開の迅速化や顧客対応力の強化など、IPビジネスそのものの競争力を高める。

今回Rambusが全社導入に加えて戦略的出資まで決めたことは、Agentic AIが半導体IP開発の重要な技術基盤として認識され始めていることを示していると言える。

これまで半導体設計のAI活用というと、チップ設計者の生産性向上に注目が集まりがちだったが、設計資産を供給するIPベンダ側でも採用が進んでいる点は、Agentic EDAの普及を考えるうえで見逃せない動きだろう。

ChipAgents

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.10.28 NEW )