Tenstorrentが15億ドルの大型の資金調達、チップレット設計基盤「OCA Harness」のオープンソース版も公開

2026年10月19日、Jim Keller氏率いる米Tenstorrentは、シリーズEラウンドで15億ドルの資金調達を完了したと発表した。また、同社は10月22日、オープンなチップレット設計を支援するフレームワーク「Open Chiplet Atlas(OCA)Harness」のオープンソース・ベータ版を公開した。

プレスリリース(資金調達)
プレスリリース(OCA)

発表によると、今回の資金調達はTrace CapitalとInnovation Xが主導し、多数の投資家が参加。EDA大手のCadenceも出資している。

今回のラウンドにより同社の累計調達額は約25.2億ドルに到達。資金調達後の企業評価額は62億ドルに達し、2024年末の資金調達時から2倍以上に拡大した。

調達資金は、同社のAIサーバー「Galaxy」の量産・大規模展開やグローバル市場への事業拡大、顧客向けにライセンス提供するAIプロセッサおよびCPU IPの開発強化などに充てられる。

Tenstorrentは、RISC-VベースのCPUや独自のAI演算コア「Tensix」を開発し、半導体IPからアクセラレータ・カード、ワークステーション、サーバー、スーパーコンピュータに至るまで幅広いAIコンピューティング製品を展開している。

また、SamsungやLGなどにCPUおよびAI関連IPをライセンス提供しており、自社のAI半導体製品だけでなく、顧客による独自半導体の開発を支援するIPビジネスも事業の柱としている。

チップレット設計を効率化する「OCA Harness」をオープンソース公開

資金調達の後に発表された「Open Chiplet Atlas(OCA)Harness」は、異なるベンダーが開発したチップレット同士の相互運用性を実現するためのアーキテクチャで、ソフトウェア、システム、プロトコル、データ転送、物理接続などの各レイヤーにわたる仕様を定義している。

今回公開された「OCA Harness」は、その仕様を実際の半導体設計に適用するための再利用可能なRTL設計基盤であり、複数のチップレットを組み合わせてシステムを構築する場合に必要となる、セキュリティ、起動制御、電源・クロック管理、デバッグ、チップレット間通信などの共通機能を標準化された設計ブロックとして提供する。設計者は「OCA Harness」を活用することで、チップレットのコア機能の設計に集中できるようになる。

公開されたベータ版の主要機能は以下の通り。

  • OCA Security Processor(SEP):セキュアブート、鍵管理、ライフサイクル制御など、チップレットのセキュリティ基盤を提供
  • OCA System Management Controller(SMC):起動シーケンス、クロック、電源、温度、リセット、状態監視などの管理を担当
  • Debug and Test Ports(DTP):JTAGやクロストリガーなど、チップレット間で共通利用できるデバッグ・テスト機能を提供

これらの機能はOCA System Management Unit(SMU)によって統合される。また、チップレット間通信については、UCIeインターフェース上でAXI4トラフィックを転送する「AXI over UCIe(AoU)」のRTL実装も用意されている。

さらに、C++/SystemCベースの仮想プラットフォームも提供され、RTLシミュレーションや実チップの完成を待たずにファームウェア開発を開始できる。

今回のオープンソース化には、オープンソースの半導体設計技術の開発・普及を目的とする英国の非営利組織「lowRISC」が協力し、AXI over UCIeのRTLは韓国BOS Semiconductorsが提供した。米VNChip Labsや英Signaloidもエコシステムパートナーとして参加するなど、Tenstorrentの動きに賛同する企業・団体がすでに複数存在している。

「OCA Harness」のソースコードはGitHubで公開されており、基本ライセンスにはApache License 2.0が採用されている。Tenstorrentは2027年1月の正式版リリースを目指している。

オープンな半導体設計エコシステムの構築を加速

今回の2つの発表は、AIプロセッサおよびシステムの事業拡大を加速すると同時に、オープンな半導体設計エコシステムの構築を推進するTenstorrentの戦略を示すものと言える。

RISC-VによるオープンなCPUアーキテクチャの活用、AI/CPUコアのIPライセンス事業、そして今回のOCA Harnessの公開は、いずれも特定ベンダーへの依存を抑えながら独自の半導体開発を可能にするという方向性で共通している。

特にチップレット設計は、異なる企業のIPや製造プロセスを組み合わせられる反面、システム統合の複雑化や開発コストの増大が課題となる。OCA Harnessのような共通設計基盤が普及すれば、チップレット開発におけるNREの削減や開発期間の短縮につながる可能性がある。

巨額の資金調達によりAIコンピューティング事業の量産・商用化を加速させるTenstorrent。同社のオープンソースを軸とした半導体設計基盤の整備が、今後どこまで業界に浸透するのか注目される。

Tenstorrent

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.10.26 NEW )