【DSF2026レポート】半導体検証のボトルネックは「実行」から「解釈」へ、AWSが示すAIエージェントとクラウド活用の新アプローチ
2026年10月6日に開催された「Design Solution Forum 2026(DSF2026)」の開催レポート続編。
今回はアマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)の小林氏の講演「Accelerating Chip Verification with AI and the Cloud」についてレポートする。
今日、ハード設計におけるシミュレーションの高速化が進む一方で、膨大な検証ログを読み解き、不具合の原因を特定する作業は依然として人手に頼っているという現状がある。
本講演でAWSの小林氏が示したのは、そういった検証における課題に対して、既存のEDAフローを変更せずにAIエージェントを追加してログの「解釈」を効率化し、クラウドの拡張性で「実行」を加速するというアプローチだ。
シミュレーションは高速化、ログ解析が新たなボトルネックに
小林氏は冒頭、AWSがクラウドサービス事業者であると同時に、Nitro、Graviton、Trainium、Inferentiaなどのカスタム半導体を自社開発する企業でもあることを説明。ArmベースのGravitonについては、Synopsys、Cadence、Siemens EDAの主要ツールが対応を進めており、EDA用の計算基盤としても選択肢が広がっているという。
小林氏の説明によれば、機能検証は半導体設計プロジェクトの工数の6~7割を占める。シミュレータの性能向上やクラウドによる並列処理の拡大によって大量のテストを実行できるようになった反面、10万件規模のテストからテラバイト級のログが発生することも珍しくない。
失敗したジョブの原因を突き止めるには、シミュレーションログだけでなく、コンパイルログやLSFなどのジョブスケジューラのログ、カバレッジレポートを横断的に確認する必要がある。
こうした調査はgrepや独自スクリプトを駆使した手作業が中心で、最初の切り分けに数十分から1時間、複雑な問題の根本原因の究明には数日を要する場合もある。そういった背景を踏まえて小林氏は、検証のボトルネックがジョブの「実行」から結果の「解釈」へ移りつつあると指摘した。

NFS上のログをコピーせず、AIエージェントが横断解析
AIエージェントを活用したシミュレーションログの解析環境として小林氏が紹介した構成は、既存のEDA実行環境、共有ストレージ、AIエージェント、ユーザー・インターフェースの4層からなる。
VCS、Xcelium、Questaなどのツールを従来通り実行し、生成されたログをAmazon FSx for NetApp ONTAPのNFS共有領域に保存する。そのデータにAmazon S3 Access Points経由でアクセスできるようにすることで、ログを別のデータベースやS3バケットへコピーすることなく、AIから読み取れるようにする。
ログへのアクセスには「AWS Lambda」で用意する「一覧取得」、「読み取り」、「検索」の機能を使用し、「Amazon Bedrock AgentCore」のMCPゲートウェイ経由でAIエージェントに公開する。
エージェントは必要に応じて複数のログをたどり、失敗の原因候補を自律的に調べる。アクセス権限を読み取り専用に制限することで、元の設計データやログへの意図しない書き込みも防げる。

エンジニアがUIとして利用する画面は「Amazon Quick」で、例えば「前回のリグレッションで見積もりより50%以上長く動いたLSFジョブを列挙し、原因を特定して」と自然言語で指示すると、AIがログを横断して状況を整理する。
また、モジュール別のテスト成功・失敗率をダッシュボードで可視化したり、リグレッション終了後にトリアージレポートを自動生成したりする使い方も示された。
小林氏は、従来は数十分から数時間かかっていた初期調査を、数分から5~10分程度に短縮できる可能性を説明した。
重要なのは、この仕組みがシミュレーションの実行手順自体を変更しない点。さらに、既存のNFS上のログをAIが後から読むという方法は、機能検証だけでなく論理合成や物理検証などにも応用できるという話だった。

AIで解析が速くなると、今度は計算環境が制約になる
一方、ログ解析を高速化するだけでは設計全体の時間短縮にはつながらないと小林氏。
韓国のAI半導体企業Rebellionsの事例を取り上げ、設計検証と物理設計へのAI活用によってエンジニアの生産性を約3倍に高めたが、今度はEDAツールの実行時間や計算ジョブの待ち行列が開発速度を制約するようになったと説明。
そこで重要になるのが、必要なときに計算資源を追加できるクラウドの柔軟性ということで、ジョブの発生に応じて計算機を起動、停止できるオンプレミスのLSF環境とAWSのハイブリッド構成が紹介された。これは、既存のオンプレミス環境を全面的に置き換えるのではなく、需要に合わせてクラウドを併用する考え方であり、極端に保守的でない限り比較的受け入れやすい提案と言えるだろう。

設計ノウハウまで取り込むAIエージェントへ
小林氏は生成AIの推論基盤として「Amazon Bedrock」を紹介。GPUの調達・運用を利用者が担わずに複数のモデルを使えるほか、機密性の高い設計データを扱うためのアクセス制御やデータ保持に関する機能も備えるという。ただし入力・出力データの保持条件はモデルや設定によって異なるため、実際の運用では個別の確認が必要になるとのことだ。
小林氏が最後に示した将来像は、EDAツールを操作するAIエージェントに、Wiki、Jira、Redmine、過去の設計レビューなどに蓄積された社内の設計知識も組み合わせる環境だ。
EDAツールの実行結果だけでなく、過去の不具合対応や設計上の判断を文脈として活用すれば、より広い範囲での設計効率化につながる可能性があると小林氏。

AIが検証結果の「解釈」を助け、クラウドがEDAツール「実行」の待ち時間を抑える。この両輪を組み合わせて設計・検証の反復回数を増やすことが、テープアウト前の品質向上や開発期間短縮につながる。
しかも、その第一歩は既存のEDAフローを大きく作り替えることなく始められる、というのが小林氏の講演におけるシンプルなメッセージだった。
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= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.10.19
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