Design Solution Forum 2026 開催レポート

2026年10月6日、パシフィコ横浜ノースにて、半導体・ハードウェア設計および組み込みソフトウェア開発に携わるエンジニア向けセミナー・イベント「Design Solution Forum 2026(以下、DSF2026)」が開催された。

DSF2026公式ホームページ

「創ろう、拡げよう、設計者ネットワーク」をコンセプトに、現役のエンジニアが中心となって企画・運営するDSF。今年も多彩な技術セッションと特別企画が実施され、登録者数は1,133人に達した。

今年のDSF2026で際立っていたのは、何と言ってもAI関連の講演の多さだ。特にAIエージェントを利用した半導体設計・検証に関する講演が目立ち、EDAツールの活用方法が大きく変わろうとしていることを感じさせる内容となった。

このほか、RISC-V、FPGA、SoC設計・検証、フィジカルAI、組み込みソフトウェア、量子コンピューティングなど、幅広い技術テーマの講演が6つの会場で計48セッション実施された。

会場には39社・団体が展示ブースを構え、700人近くの参加者が集まった。

ここではDSF2026で行われたセッションや各種特別企画について、写真を中心にレポートしていく。

なお、DSF2026の講演は公式サイトでオンデマンド視聴が可能。参加登録していない方も新たに登録することで視聴できる。

基調講演

今年の基調講演には、テンストレントジャパン株式会社の代表取締役 中野 守氏が登壇。「次世代AIコンピューティングの挑戦と日本のビジネスチャンス」と題した講演を行った。

中野氏は、エッジAIは単なる認識・検知から自律的な判断・制御へと進化し、自動運転やロボットなどのフィジカルAI市場が大きく変化しているとした上で、そこに日本の製造業にチャンスがあると指摘。

DSF視点で興味深かったのは、Tenstorrentでも実践しているという生成AIによる設計自動化に関する話。
中野氏によると、TenstorrentやGoogleでは設計開発業務の7〜8割をAIで処理しているということで、ソフトウェアのコーディングだけでなく、RTL生成にもAIの活用が広がっているとのこと。

また、Tenstorrentでは、オープンソース化されたSDKと生成AIを組み合わせることで、NVIDIAのCUDAコードを自社のAIアクセラレータ向けに自動的に移植する取り組みも進めているという。

半導体設計の生産性向上に向けて、生成AIを積極的に活用しているという先進企業の生の声はインパクトが大きく、聴講者からも大くの反響が寄せられた。

Tenstorrent 中野氏

今年の主役はAgentic AI

DSF2026で最も目立った技術テーマの一つが、AIエージェントを活用した半導体設計・検証、いわゆる「Agentic EDA」だ。

昨年のDSF2025では、生成AIによるRTLコード生成やAIを活用したソフトウェア開発などが大きな話題となったが、今年はそこから一段進み、AIがEDAツールを操作し、結果を分析しながら設計を改善していく自律型の設計フローに注目が集まった。

日本ケイデンス・デザイン・システムズ社の瀬山 嶺氏は、「Cadence Super Agentが実現する次世代設計・検証基盤」と題して講演。同社のAI Super AgentsやAgentStackを軸に、AIが設計フローを実行する新たなEDA環境について紹介。

Cadence 瀬山氏

シーメンスEDAジャパンの章 御聰氏は、「生成AI×EDAワークフロー: 設計・検証のチャレンジに答える変革的ソリューション」と題して、設計から検証までEDAワークフローに特化したプロンプト・ライブラリを用意する AIソリューション「Questa One AI」を紹介した。

シーメンスEDAジャパン 章氏

同じくAgentic EDA関連では、米国のスタートアップChipAgentsのCEO、William Wang氏が登壇。「フルフロー自律型チップ設計の実現」と題して、AIエージェントによるチップ設計の自動化をテーマに講演した。

ChipAgentsは、スタートアップながらすでに顧客を200社以上獲得しており、Agentic EDAの世界で注目を集めている。同講演は事前予約で満席となり、日本国内でも同社に対する関心の高さがうかがえた。

ChipAgents Wang氏

さらに、ルネサスエレクトロニクスの柴谷 聡氏は「設計を“作業”から“システム”へ - ルネサスが描くAgentic AI時代の半導体設計」と題して講演。

個々のEDAツールや工程を最適化するだけでなく、設計の判断基準、実行、結果、履歴などを工程横断で管理する「設計システム」という考え方を紹介した。

柴谷氏は、半導体設計へのAI導入で重要なのは、優れたAIツールを導入することではなく、AIが設計プロセス全体を学習できる環境を構築することであると強調。具体的に、ルネサスが構築を進めている設計システム「REEF」について紹介してくれた。

柴谷氏が語った「AIを賢くするのではなく、AIが学べる設計システムを作る」という発想の転換は、Agentic EDAの実用化に向けた重要な考え方の一例といえるだろう。

ルネサスエレクトロニクス 柴谷氏

AIはどこまで半導体設計ができるのか?

AIを用いた半導体設計の可能性だけでなく、その限界や実用化に向けた課題を取り上げる講演も目立った。

株式会社DATAFLUCTの久米村 隼人氏は、「AIエージェントで半導体設計はどこまでできるか?設計AIの転換点を感じてみた」と題して講演。

生成AIによるRTL生成や修正に関するベンチマーク結果をもとに、AIが得意とする作業と、まだ人間の支援を必要とする作業を整理し、設計AIの可能性を考察する内容だった。

DATAFLUCT 久米村氏

また、日立製作所の内藤 健太氏は「生成AIエージェントを活用したDNN推論処理のFPGA自動設計」と題して、学習済みAIモデルからFPGA向けHLSコードを自動生成する取り組みを紹介した。

同社では、生成AIによるコード生成とHLSツールによる検証を繰り返すことで、設計を改善するフィードバック型のフローを構築しているという。

日立製作所 内藤氏

半導体設計・検証関連

DSFの中心的なテーマであるハードウェア設計・検証分野でも、実践的な講演が数多く行われた。

ルネサスエレクトロニクスの増田 雅由氏は、「ルネサスのUVM共通検証基盤が拓くシフトレフトとAgentic AI活用の未来」と題して講演。

UVMを中核とした全社共通の検証基盤の構築や、製品・組織を超えた検証資産の再利用、さらにAI活用を見据えた今後の検証戦略などが紹介された。

ルネサスエレクトロニクス 増田氏

また、エッチ・ディー・ラボの長谷川 裕恭氏による「UVMを使った検証環境の構築」も事前予約で満席となった講演の一つ。

昨年に引き続きUVM関連の講演が高い関心を集めており、設計規模が拡大する中で検証環境の効率化や標準化が依然として重要な課題であることを感じさせた。

エッチ・ディー・ラボ 長谷川氏の講演風景

このほか、京都マイクロコンピュータの辻 邦彦氏による「AIがJTAGデバッガを操作する時代へ」、キーサイト・テクノロジーの佐貫 聡信氏による「設計AI導入の落とし穴~SOSで整備するAI時代のデータ基盤」なども満席となった。

AIを実際の開発現場で活用するための具体的な手法や、そのための環境整備に関心が集まっていることをうかがわせた。

キーサイト・テクノロジー 佐貫氏の講演風景

RISC-V、フィジカルAI、最先端半導体技術

AI関連以外にも、様々な技術分野の講演が行われた。

SiFive Japanの近藤 芳人氏は、RISC-VプロセッサIPの市場展開や今後の戦略をテーマに講演。ティアフォーの松尾 玲央馬氏は、オープンソースを使ったRISC-V GPGPUアーキテクチャについて紹介した。

ティアフォー 松尾氏

また、NTTの布谷 伸浩氏はAIデータセンターを支える光電融合技術「IOWN」に関連する次世代デバイスのロードマップについて講演した。

NTT 布谷氏

このほか、フィジカルAI、量子コンピューティング、先端パッケージング、半導体セキュリティなど、幅広い技術テーマが取り上げられた。

様々な講演を通じて、半導体技術がAIやロボティクスなど様々な領域と密接につながり、ハードウェアとソフトウェアの境界を越えた開発がますます重要になっていることがうかがえた。

左上:マスワークス 川合様 右上:日立製作所 溝口様
左下:AWS 小林様 右下:Highlanders 橋本様

最優秀講演

来場者アンケートの結果をもとに選出された「最優秀講演賞」は、石原 ひでみ氏による講演「生成AIで動くRTLを創り切るための実践術」が選ばれた。

石原氏は、生成AIを活用したRTL設計の実践経験をもとに、AIによるRTL開発を成功させるための3つの具体的な手法として、「仕様書駆動」、「スケルトン駆動」、「テスト駆動」を解説。生成AIは単なるコード生成ツールではなく、検証と最適化を繰り返す開発サイクルを加速する相棒として活用すべきと提唱した。

石原氏によると、実際に従来2カ月かかっていたRTL開発を約1週間に短縮し、AI利用コスト約3,000円、RTLの手書きほぼゼロを実現できた事例もあるとのことだが、だからといって設計を発注する側は安易に設計コストの削減を受注側に強いるべきではないと付け加えた。

最優秀スポンサー講演

同じく来場者アンケートの結果をもとに選出された「最優秀スポンサー講演賞」には、次の2講演が選ばれた。

一つは、日立産業制御ソリューションズの後藤 文也氏による「半導体は買うもの?自分たちで作れる未来は!」。

もう一つは、シーメンスEDAジャパンの山本 修作氏による「高位合成はAI時代を生き残れるか? 相次ぐM&Aから紐解くSoC設計の未来」。

日立産業制御ソリューションズ 後藤 文哉氏の講演は、半導体の生産終了(EOL)や長期供給の難しさを背景に、必要なハードウェアを自ら作る可能性について、同社の取り組みと今後の展望を紹介したもの。

OSS-IP、RISC-V、OpenEDAなどを活用することで、商用ツールへの依存や開発コストを抑え、必要な機能を備えた半導体を自ら設計できる可能性を示した。

日立産業制御ソリューションズ 後藤氏

シーメンスEDAジャパン 山本 周作氏の講演は、AIによる半導体設計の自動化が進む中、高位合成(HLS)は今後も重要な役割を担うという見解を示す内容。

AIが仕様から直接RTLを生成するアプローチと、高位合成向けC/C++コードを生成するアプローチを比較し、後者は検証やPPA最適化の面で優位性があり、特にアクセラレータなどの設計に適していると説明。

AIと高位合成の組み合わせによって、ソフトウェア技術者もチップ設計に参入できる「設計の民主化」が進む可能性を指摘した。

シーメンスEDAジャパン 山本氏

DSF特別企画

今回もDSF実行委員会によるエンジニア目線の手作り企画が複数実施された。

ハードウェア設計・検証関連では、「フォーマル検証か、ダイナミック検証か― 開発現場のリアルな最適解」と題したパネルディスカッションを開催。

IPやSoCの設計・検証に携わるエンジニアが集まり、フォーマル検証とダイナミック検証のそれぞれの特徴や使い分け、実際の開発現場での課題などをテーマに議論する企画となった。

パネルディスカッションに登壇した皆様

また、CQ出版とのコラボ企画「低価格FPGAボードで体験するFPGA開発」では、初心者を対象にFPGA開発を実際に体験するハンズオン講座が行われた。

ハンズオン講座の風景

恒例の「そうだ○○行こう」企画では、愛知県佐久島におけるラストワンマイル物流DXを取り上げた。

ドローンや自動配送ロボット、自動運転車などを組み合わせた離島での実証を題材に、最新技術を実社会に適用する際の課題や可能性を考える企画となった。

「そうだ○○行こう」企画にご協力いただいたプロドローン社の皆様と実行委員

さらに、半導体設計の世界を楽しく学ぶためのカードゲーム「シリコンジャーニー」も登場。DSF実行委員会が企画したゲームのプロトタイプがお披露目され、来場者によるテストプレイが行われた。

シリコンジャーニーのプレイ風景

エンジニア同士の交流

DSFが大切にしているのが、企業や所属組織の垣根を越えたエンジニア同士の交流だ。

昨年初開催された「働く女性限定ランチ会」は、今年も「あなたのストーリーを聞かせてください!!」と題して開催。女性エンジニア同士が仕事やキャリアについて語り合う交流の場が設けられた。

また、34歳以下のエンジニアを対象とした「若手エンジニア交流ディスカッション」も実施された。

参加者は少人数のグループに分かれ、AIの仕事への活用やキャリア、日々の仕事で感じる課題など、同世代ならではのテーマで意見を交わす企画となった。

若手エンジニア交流ディスカッションの風景

展示会場・DSF交流会

今年も展示会場には、EDAツールベンダ、半導体IPベンダ、設計サービス企業など、幅広い分野のスポンサー企業が出展した。

各社の最新ソリューションを紹介する展示ブースでは、講演の合間に来場者が足を運び、製品デモや技術に関する情報交換が行われた。

スポンサー展示の様子

全セッション終了後には恒例の「DSF交流会」が開催された。

展示会場を利用した立食形式の交流会には400人以上が参加。講演者、スポンサー、来場者、実行委員など、多くのエンジニアが所属企業や専門分野を越えて交流する場となった。

技術情報を得るだけでなく、新たな人脈を築くことができる点も、DSFならではの魅力と言えるだろう。

DSF交流会の様子

次回の「Design Solution Forum 2027」は、2027年10月13日(水)にパシフィコ横浜ノースにて開催される予定。

※ Design Solution Forum 公式ホームページ

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.10.16 NEW )