Synopsysが長期自律型AIエージェント群と「Autopilot」を発表、EDAから“Autonomous Engineering”へ

2026年9月28日、Synopsysは、半導体設計からシステム・シミュレーションまでの複雑なエンジニアリング・フローを自律的に実行するAIエージェント群「Synopsys AgentEngineer」と、それらを統合・制御する基盤「Synopsys Autopilot Platform」を発表した。

プレスリリース

今回のSynopsysの発表は、かなり大きな意味を持つ発表であり、単なるAgentic EDAの新製品を披露するものではない。

Synopsysは今回の発表で、エンジニアがAIを補助ツールとして利用する「AI-assisted design」から、AI自身が目的を理解し、作業を計画し、複数のEDA/CAEツールを操作しながら結果を検証して設計を進める「Autonomous Engineering」への移行を掲げている。

「AgentEngineer」とは?

Synopsysによると今回発表された「AgentEngineer」は、「Long-Horizon Agent」と呼ぶドメイン特化型AIエージェントである。

従来のAIエージェントが、コード生成、ログ解析など比較的限定されたタスクを実行するのに対し、「Long-Horizon Agent」は、与えられた最終目標を理解し、必要な作業を分解し、複数のツールやタスク・エージェントを使いながら一連の工程を継続して実行する。

今回の発表で明らかにされた「AgentEngineer」のラインナップは下記の画像資料の通り。Verification、Implementation、Analog/Mixed-Signal、Manufacturingなど複数分野向けのAgentEngineerを用意している。

Synopsys発表資料

例えば「Verification AgentEngineer」は仕様の解釈からRTL生成、テスト・プランニング、テストベンチ生成、デバッグ、カバレッジ収束までを一連のワークフローとして扱う。さらにその下に個々のタスクを実行する専門エージェントが用意される。つまり構造としては、人間 → AgentEngineer → 複数の専門Agent → EDA/CAEツールという階層型の設計自動化システムになる。

重要なのは、AIエージェント自身がEDAツールを操作して結果を取得し、その結果を判断して次の処理を決める点だ。

エージェントを束ねる「Synopsys Autopilot Platform」

複数のAIエージェントが安全かつ正確に連携して動くためには、信頼できるオーケストレーション基盤が不可欠であり、その役割を担い「AgentEngineer」の基盤となるのが併せて発表された「Synopsys Autopilot Platform」である。

「Autopilot Platform」は単なるLLM実行環境ではなく、エージェントのオーケストレーション、スキル、メモリ、テレメトリー、ガバナンス、セキュリティなどを共通化するプラットフォームとして設計されており、Synopsysは以下の4点をその強みとして挙げている。

コンテキスト・インテリジェンス(Context Intelligence)
信頼性の高いエンジニアリング専門知識と、再利用可能なスキル、永続的メモリ(Persistent Memory)を組み合わせ、高い精度でワークフローを導く

オープンな選択性(Built for Optionality)
Synopsys製だけでなく、パートナーやサードパーティ、オープンソースのモデル、インフラ(クラウド/オンプレミス)、ツール、さらには顧客自身が構築したエージェントとの統合・選択が可能

高度なセキュリティとガバナンス(Advanced Security & Governance)
テレメトリやガバナンス機能を備え、柔軟なデプロイメントとアクセス制御、ガードレールによって、企業の最重要資産であるIP(知的財産)や設計データを厳格に保護

効率性の最適化(Optimized for Efficiency)
APIと独自のコンテキスト・インテリジェンス上の推論を活用することで、少ないトークン消費量(低コスト)と低遅延で、より優れた結果を導き出す

DSO.ai → Copilot → AgentEngineer

これまでのSynopsysのAI戦略を振り返ると、最初の大きな転換点は2020年に発表された「DSO.ai(Design Space Optimization AI)」だった。

DSO.aiは強化学習などを利用して膨大なDesign Spaceを探索し、PPAなどの目標に対してEDAツールの設定や設計パラメータを自律的に最適化するシステムだった。

その後、2023年に「Synopsys.ai」をフルスタックEDAへ拡大し、さらに生成AIを利用する「Synopsys.ai Copilot」を発表。「Copilot」では自然言語によるEDA知識検索、スクリプト生成、設計支援などが可能になった。

そして今回の「AgentEngineer」では、人間が目的を指定し、AIが設計フローそのものを組み立てて実行するという段階へ進んだ。

こう見るとSynopsysがEDAにおけるAIの役割を、最適化からアシスタンスそして自律化へと広げてきたことが良く分かるが、今回の発表ではもう一つ重要な点がある。

AnsysソリューションもAIで統合

今回の発表でもう一つ重要なのが、「AgentEngineer」の範囲がEDAを超えていることである。

Synopsysは2025年7月、Ansysの買収を完了した。買収完了時、同社は自社の対象市場が約310億ドルへ拡大すると説明し、企業としてのポジションを「EDAベンダー」から「Engineering Solutions from Silicon to Systems」へと変更した。

そして2026年6月には、その最初の具体的成果として自社のEDAとAnsysのPhysics Simulationを統合した「Multiphysics Fusion」を投入している。

そして今回の「AgentEngineer」では、Meshing、Blaze、EMCといったAnsysの領域だったドメイン特化型AIエージェントも用意されており、EDAとCAEのワークフローをAIによって統合する「Autopilot Platform」が確立された。

これはSynopsysがAgentic AIを単なるEDA製品の機能ではなく、買収したAnsysを含めた新しい会社全体の共通基盤として利用しようとしていることを示していると言えるだろう。

「Token Efficiency」をEDAベンダーが語り始めた意味

今回の発表では、最大50倍の検証高速化や30%の生産性向上だけでなく、「2倍のToken Efficiency」も成果として掲げられている点も興味深い。

LLMを数分間利用するCopilotとは異なり、「Long-Horizon Agent」が設計フローを何時間にもわたって動かすようになれば、推論コストは無視できなくなる。

複数のAgentが大量のログ、RTL、設計情報を読み込みながら何度も推論を繰り返せば、LLM トークン・コスト自体が新たなエンジニアリング・コストになる。

Synopsysが「Token Efficiency」と「Latency」を「Autopilot Platform」の主要機能として打ち出していることは、Agentic EDAが実験段階から実運用・大量利用の段階へ移り始めていることを象徴しているとも言える。

Synopsys発表資料

今回発表された「AgentEngineer」と「Autopilot Platform」は、Synopsysがその競争を半導体設計だけに留めず、Ansysを取り込んだ「Silicon to Systems」全体で展開しようとしていることを明確に示した重要な発表と捉えることができるだろう。

特に、半導体設計からシステム領域までを一つのAI基盤上でつなげられる点は、幅広いツール資産と顧客基盤を持つ大手EDAベンダーだからこそ実現できる強みであり、今後のAgentic EDA/Autonomous Engineering競争を左右する重要な競争力になりそうだ。

日本シノプシス合同会社

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.09.29 NEW )