TSMCが「AI Design Kit」を導入しAgentic AIによる半導体設計をプロセス技術から支援
2026年9月23日、TSMCは米Santa Claraで開催した「2026 North America OIP Ecosystem Forum」において、同社のOpen Innovation Platform(OIP)を通じたAI活用の取り組みを紹介。TSMCが、Agentic AIを活用した半導体設計を支援する新たな仕組み「TSMC AI Design Kit(ADK)」の導入を進めていることが明らかになった。
その詳細について、米メディアEE Timesがインタビュー記事を公開している。
Inside TSMC’s Evolving Design Ecosystem: Shaping the Future of AI, with AI
TSMCによれば、「AI Design Kit」は、TSMCのプロセス技術に関する知識をAgentic AIベースのEDAツールや設計フローから利用できるようにするための仕組みということだ。
従来のリファレンス・フローでは、TSMCとEDAベンダーが推奨するツール設定や設計手法をベースに設計を進めるが、実際の設計では回路やアーキテクチャに応じてエンジニアがパラメータを調整し、何度も設計フローを繰り返す必要がある。
これに対し「AI Design Kit」では、TSMC固有のプロセス技術に関する知識を「Technology Knowledge Layer」としてAIエージェントに与えることで、エージェント自身が設計結果を分析し、目標とするPPAなどに向けて設計フローを継続的に最適化することを想定しているという。
つまり「AI Design Kit」は、PDKに代わるものというより、PDKやリファレンスフローの上にAIエージェントが利用できる「プロセス技術の知識層」を加える仕組みと考えると分かりやすい。
TSMCは、この取り組みによってデジタル設計で3~5倍、アナログ/RF設計では最大6倍の生産性向上が期待できるとしている。
Cadence、Synopsys、SiemensとのAgentic AI連携
「AI Design Kit」の興味深い点は、TSMC単独のAIソリューションではなく、EDAベンダーが開発するAgentic AIとの連携を前提としている点だ。
Cadenceは9月23日、TSMCとの協業を拡大し、N3、N2、A16、A14などのTSMCプロセスにおいてAgentic AIを活用したチップ設計および3D-IC設計フローを実現していくと発表した。(プレスリリース)
Synopsysも同日、TSMCとの協業によるAgentic AI設計フローを発表。(プレスリリース)Custom Compilerによるアナログ設計のマイグレーション、Fusion Compilerを用いたLLM支援型解析、3DIC Compilerを利用したチップレット・フロアプランの自動最適化など、アナログ、デジタル、マルチダイ設計をまたいだ自動化を進めている。
さらにSiemens EDAも、TSMCとの協業を発表。(プレスリリース)両社共同でAIエージェントによるDRC違反の自動修正を実現するなど、Calibre、Aprisa、Solidoなどを組み合わせ、AIエージェントが複数のEDAツールを操作しながら設計ルール違反を解析・修正する仕組みを開発している。
EDAベンダーだけでは作れないAgentic EDA
「AI Design Kit」の登場で注目したいのは、Agentic EDAにおける半導体ファウンドリの役割だ。
大手EDA各社はそれぞれAI エージェントを使ってEDAツールを自律的に操作する仕組みを急速に開発している。しかし、高度なPPA最適化を実現するには、EDAツールの操作方法だけでなく、「そのプロセスでどのような設計を行えば最良の結果が得られるか」という製造プロセス固有の知識が必要になる。
TSMCのAI Design Kitは、まさにこの部分をAIエージェントに提供するものと言える。
これまでファウンドリが提供してきたPDKやデザインルール、リファレンス・フローは、基本的には「設計者やEDAツールが読むための情報」だった。「AI Design Kit」では、その知識をAIエージェントが利用し、自ら設計フローを実行、評価、修正することが前提となる。
TSMC自身も、Agentic AIの特徴として「self-learning」、「self-correcting」の可能性を強調しており、固定的なリファレンス・フローから、設計ごとにAIが最適なフローを構築する方向を目指しているという。
Agentic EDA競争は「AIエージェント」から「知識」へ
TSMCの「AI Design Kit」は、活発化しているAgentic EDAの競争を次の段階へと押し進める動きとも言える。
TSMCはすでにOIPを通じて幅広いエコシステムを構築しており、最新プロセス向けのEDA認証やリファレンス・フローをEDAベンダーと共同開発してきた。今回、TSMCが新たに「AI Design Kit」という形でプロセス技術側の知識を提供し始めることで、AIエージェント、EDAツール、PDK、ファウンドリ・ノウハウを一体化した設計環境の実現が現実味を帯びてきた。
Agentic EDAの競争は、「どのAIエージェントが優れているか」から、「どのエコシステムが最も優れた設計知識をAIに与えられるか」という新たな段階に入りつつあり、他のファウンドリも今回のTSMCの動きを追従することになるだろう。

TSMC
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.09.28
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