NVIDIAのチップ設計LLM「ChipNeMo」生みの親が立ち上げた米Agentrysが2,450万ドルのシード資金を調達
2026年8月26日、Agentic EDAソリューションを手掛ける米Agentrysは、シード資金総額2,450万ドルを調達したことを発表した。
Agentrysは、2025年に設立されたスタートアップで米カリフォルニア州サンノゼに本社を置く。AgentrysのFounder兼CEOを務めるのはNVIDIAでチップ設計向けLLM「ChipNeMo」の開発を率いたMark Ren氏。同氏はIBMで約15年間EDAツールや設計手法の研究開発に携わった後、2016年にNVIDIAへ入社。NVIDIA ResearchでDesign Automation Research部門を率い、AI for EDAやGPU Accelerated EDAの研究を進めてきた人物で、30件以上の特許、100本以上の論文・書籍などにも関わり、IEEE Fellowでもある。
AgentrysにはこのほかNVIDIA、Meta、AMD、Samsung、Google、Siemens EDAなどの出身者が参加しており、「ChipNeMo」だけでなく、AIによるセル設計の「NVCell」、AI Placementの「DREAMPlace」、LLMによるVerilog生成能力を評価する「VerilogEval」などに携わった研究者も所属している。
今回発表されたのは、Etna Labsがリードする1,910万ドルのシードラウンドで、これに先駆けて行われた540万ドルのプレ・シードラウンドを合わせ、同社の累計調達額は2,450万ドルとなる。ちなみに、最初のプレ・シードラウンドをリードしたのは台湾SoCベンダー大手のMediaTekである。
Agentic Design Automation(ADA)とは?
Agentrysが興味深いのは、単なる「AIを使ったEDAツール」のスタートアップではない点だ。同社は、チップ設計会社自身がAIエージェントを構築・所有し、自社の設計データや設計ノウハウを使って継続的に進化させていく「Agentic Design Automation(ADA)」という新たな設計自動化の概念を打ち出している。
「Agentic Design Automation(ADA)」は、現在EDA業界で注目されているAgentic EDAと基本的な方向性は共通しているが、同社が強調するのは、単一の設計タスクをAIで自動化することではなく、設計ワークフローそのものをAIエージェントに実行させ、そのワークフローを継続的に改善することだ。
その実現のためにAgentrysが用意するのが、「Agentrys Studio」と呼ぶプラットフォームである。
「Agentrys Studio」は、VS Code上から自然言語でAgentic Workflowを構築でき、複数のAIエージェントを組み合わせて設計フローを実行する。現在は主に以下の領域を対象としている。
- DV Agent:RTLや自己チェック型テストベンチの生成、シミュレーション、カバレッジ収束など
- RTL Agent:仕様から合成可能なRTLを生成し、Lintや修正を繰り返す
- Analog Agent:アナログ・レイアウトなどの設計作業を支援
- Physical Agent:PPA目標に基づく物理実装の最適化
重要なのが、Agentrys自身が合成やシミュレーション、配置配線といった従来型EDAエンジンを置き換えようとしているわけではないことだ。「Agentrys Studio」はMCP(Model Context Protocol)などを利用して、既存の商用EDAツールや企業内部の設計ツール、スクリプトをAIエージェントから操作する。検証、タイミング解析、配置などについてはAIエージェントが利用しやすい独自開発の「Agent-native EDA tools」も提供する。
AIエージェント自身が設計を通じて成長する
Agentrysのもう一つの特徴が「Self-Evolve」と呼ばれる考え方だ。Agentrysでは以下のループで各AIエージェントの最適化を繰り返す。
設計を実行→EDAツールで結果を評価→成功・失敗や設計ノウハウを蓄積→エージェント・ワークフローやプロンプト、デザイン・ナレッジを改善→次の設計に利用↩︎
これによって、「誰でも利用できる汎用AI」ではなく、その会社の設計手法、過去の設計データ、EDAツールの使い方、カバレッジ・メソドロジ、設計者の経験などを蓄積した自社専用AI設計チームを作るというのがAgentrysの狙いだ。
Agentic EDA市場でAgentrysはどこを狙う?
現在、Agentic EDAはEDA大手各社が一斉に開発を加速しているが、Agentrysが狙うポジションは少し異なる。
Cadence、Synopsys、Siemensが自社のEDAプラットフォームを中心としてAgentic AIを展開するのに対し、AgentrysはEDAベンダーの上位に位置し、複数ベンダーのEDAツールやユーザー企業独自のスクリプト、設計データまで横断する「Agentic Layer」になろうとしている。さらに、そこで蓄積されるデザイン・ナレッジやワークフロー履歴をEDAベンダーではなく、ユーザー企業自身の資産にすることを強く打ち出している点も特徴と言える。
「AIを中心にEDAフローを作り直す」というアプローチは、同じくスタートアップの米Architect Labsにも通じるものがある。一方でAgentrysが競争力の源泉として見ているのは、そのEDAフローを通じて蓄積されていく「各企業固有の設計経験」だ。
どの設計手法が有効だったのか、どの検証戦略でバグを発見できたのか、どの最適化がPPA改善につながったのか。そうした知識をAIエージェントが継続的に学習し、次の設計へと引き継いでいく。Agentrysの構想が現実のものとなれば、AIは単なる「設計者を支援するツール」から、企業が時間をかけて育て、蓄積していく新たな「設計資産」へと変わる可能性がある。
EDAツールそのものではなく、その上で成長し続ける「企業固有の設計知能」を競争力に変えようとするAgentrys。その挑戦は、Agentic EDAが次に向かう方向を占う上でも注目しておきたい。
なお現在Agentrysは、大手Fabless数社、大手Foundry 1社、複数の半導体Startupと提携しているとしている。企業名は公表していないが、SNSなどの情報を見る限り投資家のMediaTek、創業者の古巣NVIDIAとは密に協業しているようだ。

Agenrtys
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.09.02
)




