AMDがAIモデル専用ASICを2ヶ月で作るAI半導体ベンダTaalasを買収

AMDは2026年8月6日、AMDは、AI推論チップを手がけるスタートアップTaalasの買収を発表した。

プレスリリース

Taalasは2023年にカナダ・トロントで創業した半導体スタートアップで、共同創業者はLjubisa Bajic氏、Drago Ignjatovic氏、Lejla Bajic氏の3人で、いずれもAIプロセッサを手がけるTenstorrentの出身。CEOを務めるLjubisa Bajic氏はTenstorrentの創業者でもあり、それ以前にはAMDでCPU/GPU統合プロセッサなどの開発に携わったほか、NVIDIAでも半導体アーキテクトを務めた経歴を持つ。CTOのDrago Ignjatovic氏もAMDでAPUやGPUの設計に携わった後、Tenstorrentでハードウェア開発を率いた。

Taalasは2024年、ステルス状態から脱した際に5,000万ドルの資金調達を公表。その後2026年2月には1億6,900万ドルを追加調達し、累計調達額は約2億1,900万ドルに達していた。

AMDは今回の買収によりTaalasの技術を同社のAIアクセラレータのロードマップに取り込み、「AMD Instinct」GPUなどと組み合わせたシステムレベルのAIソリューションを開発する方針だ。なお、今回の買収に関する取引条件などは明らかにされていない。

AIモデルを「ハードウェアにする」

Taalasが注目される理由は、NVIDIAやAMDのGPUとは大きく異なる発想でAI推論を高速化しようとしている点にある。同社が掲げるコンセプトは、「The Model is The Computer」で、AIモデルをソフトウェアとして汎用プロセッサ上で実行するのではなく、モデルの構造や重みそのものを専用シリコンに組み込んでしまうというアプローチだ。

同社の「Hard Coded Inference」アーキテクチャでは、AIモデルとその重みを「mask ROM recall fabric」と呼ぶ回路に組み込み、SRAMベースの領域と組み合わせる。SRAM側はKVキャッシュやモデルの調整などを担当する。Taalasによれば、同社の回路では4bitの重みの保持と、それに対応する乗算処理を極めて高密度に実装できるという。これによってメモリと演算回路の境界を事実上なくし、AI推論で大きな問題となっているデータ移動を大幅に減らすことが可能となる。Taalasはこの考え方を「Total specialization」と表現している。汎用的にさまざまなAIモデルを動かすGPUとは反対に、特定のAIモデルに対してシリコン自体を最適化することで、究極の効率を狙う。

Llama 3.1 8Bを丸ごとハード化した「HC1」

同社のコンセプトを実証したのが、Taalasの第1世代チップ「HC1」だ。HC1はTSMCの6nmプロセスで製造され、ダイサイズは815mm²、トランジスタ数は530億。Metaの「Llama 3.1 8B」を専用シリコンとして実装している。

Taalasによると、「HC1」はLlama 3.1 8Bでユーザーあたり毎秒約17,000トークンの推論性能を実現する。同社は従来方式に比べ大幅に高速で、システムコストや消費電力も低減できるとしている。モデルを固定したチップと聞くと、まったく変更できないようにも思えるが、「HC1」ではコンテキスト長を設定できるほか、LoRA(Low-Rank Adaptation)によるファインチューニングにも対応している。

HC1の性能指標:Taalas社HPより引用

AIモデルから専用シリコンまで「わずか2カ月」

そしてTaalasの技術で、もう一つ注目すべきなのが開発期間だ。通常、新しい大規模ASICを開発するには年単位の開発期間を要する。AIモデルが変わるたびにそれを繰り返していると、モデルの進化速度に開発が追いつかず、AIモデル専用ASICというコンセプトは成り立たない。Taalasはこの問題に対して、ベースとなる半導体設計をモデルごとにゼロから作り直すのではなく、モデル変更時に変更する部分を限定する仕組みを構築している。

海外メディア「The Next Platform」によると、Taalasが新しいAIモデルをHCチップへ組み込む際に変更するのは主として2層のメタル層で、チップ全体を再設計する必要はないという。さらにTaalasはTSMCと連携した独自の「Foundry Optimal Workflow」を構築しており、未知のAIモデルを受け取ってから約2カ月という短期間でハードウェア化(推論チップが動くボードを提供)できるとしている。

AIモデル専用ASICという発想自体は新しいものではないが、Taalasのビジネスモデルを成立させる重要なポイントは、モデル専用化による圧倒的な開発効率とそのTATの短縮で、わずか2ヶ月というチップ開発期間の実現にある。

GPUの代替ではなく、AMDの新たな選択肢へ

AMDは、Taalasの技術を「Instinct GPU」などを含む同社のAIプラットフォームを補完するものと位置付けており、今後アクセラレータのロードマップへ統合するとしている。AI半導体の競争はこれまで、「より巨大なGPU」「より高速なHBM」「より広帯域なインターコネクト」という方向に進んできた。それに対しTaalasは、AIモデルをソフトウェアではなくシリコンとして扱い、しかもモデルから専用ハードウェアまでを2カ月で作るという新しい半導体開発の方法論を掲げ、資金と注目を集めてきた。Taalasの「The Model is The Computer」という発想が、AMDのAI戦略の中でどこまで現実の製品へと発展するのか。今後の注目ポイントとなりそうだ。

Taalas

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.08.13 )