AI推論チップの英OLIXが3億ドル超を調達、半年で企業評価額が33億ドルに

2026年8月3日、AI半導体スタートアップの英OLIXは、シリーズBラウンドで3億1,200万ドルを調達したことを発表した。

プレスリリース

OLIXは2026年2月にシリーズAラウンドで2億2,000万ドルを調達し、企業評価額が10億ドルを超えたばかり。同社の累計調達額は約5億6,200万ドルに達し、同社の企業評価額は33億ドルとなった。わずか約半年で評価額は約3倍に拡大したことになる。

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今回のラウンドには、既存投資家に加えて新たに米投資会社Fundomo、Arm、金融取引会社のHudson River Tradingが参加した。またNetflix共同創業者のReed Hastings氏も個人投資家として出資している。半導体IP大手のArmが出資者に加わった点が注目されるが、現時点でOLIXとArmの具体的な技術提携や製品協業については明らかにされていない。

シリーズAから半年、製品計画が具体化

前回の資金調達時点では、OLIXが開発するAI推論チップの詳細は限定的だった。今回の発表では、ラックスケールのAI推論プラットフォーム「X-1」と、その最初のチップとなるデコード・アクセラレータ「DX-1」の構想が明らかにされた。

OLIXは、調達した資金を「DX-1」の開発と製造、顧客への提供に向けたサプライチェーンの確保、さらに「X-1」を構成する各種カスタムシリコンの開発に充てる。「DX-1」の最初の顧客への提供は2027年後半を予定している。

Financial Timesの報道では、OLIXは2026年中に「DX-1」をテープアウトする計画で、すでにチップ上でAIモデルを動作させるコンパイラの開発について大きなマイルストーンを達成したという。このコンパイラの進捗が、今回の投資判断における重要な技術的裏付けの一つになったとされる。

AI推論を「トークン生産ライン」として再設計

OLIXが掲げるのは、AI推論を1種類の汎用プロセッサで処理するのではなく、モデルの処理段階ごとに最適化した複数の専用チップへ分散するアーキテクチャだ。

同社はデータセンターを、トークンを生産する「工場」に例えている。現在のGPUベースのAIシステムでは、Attention、FFN、MoE、プリフィル、デコードなど、演算特性の異なる処理を基本的に同じ種類のプロセッサが実行している。

これに対してOLIXの「X-1」は、AIモデルを多数のチップにまたがって展開し、それぞれのチップに特定の処理を担当させる。工場の生産ラインのように、各工程に適した専用のハードウェアを割り当てる考え方だ。

最初の「DX-1」は、大規模言語モデルが推論結果を生成するデコード処理に特化する。今後はモデルを構成するほかの処理段階についても専用アクセラレータを追加し、「X-1」プラットフォームを拡張していく計画とみられる。

10万個以上のチップを光で接続

処理を複数の専用チップへ分散する場合、チップ間のデータ転送に伴う消費電力とレイテンシが大きな問題となる。

OLIXはこの課題に対し、同社が「Slow & Wide」と呼ぶ独自の光インターコネクトを採用する。銅配線ではなく光を利用してチップ間で直接データを転送し、10万個以上のチップを複数ラックにまたがって接続できるスケールアップ・ドメインの構築を目指す。

各処理の実行時間とデータ転送を管理するのが、完全に決定論的な動作を行うコンパイラだ。コンパイラがラック全体の演算と通信を事前にスケジューリングすることで、多数のチップを一つの生産ラインのように動作させる。

OLIXによると、100Bパラメータ規模のモデルを対象としたサイクル精度シミュレーションでは、ユーザー当たり毎秒1万トークン以上を生成しながら、高い電力当たりスループットを実現できるとしている。アーキテクチャ自体は10兆パラメータ以上のモデルまで拡張可能としている。

HBMと先端パッケージングを使わない供給戦略

「DX-1」はモデルデータをチップ内のSRAMに保持し、HBMを使用しない。また、インターポーザや高度な2.5D/3Dパッケージングにも依存しない設計となっている。

OLIXがこれらの技術を避ける理由は、性能面だけではない。AI半導体市場ではHBMや先端パッケージングの製造能力が限られており、NVIDIAや大手クラウド事業者が大量の供給枠を確保している。新興企業が同じサプライチェーンで競争することは容易ではない。そのためOLIXは、HBMや先端パッケージングに依存せず、比較的入手しやすい製造技術と部品を組み合わせることで、量産時の供給能力を確保する戦略を採る。

今回の3億1,200万ドルの調達は、チップの設計費用だけでなく、製造枠や部材、光部品を含むサプライチェーンへのコミットメントを確保する狙いもある。

SDNの生みの親を取締役に招聘

OLIXは資金調達と同時に、Stanford大学名誉教授のNick McKeown氏を取締役に迎えた。McKeown氏は、Software-Defined Networking(SDN)、OpenFlow、ネットワークプログラミング言語「P4」の共同開発者として知られる。また、SDN技術を手がけVMwareに買収されたNiciraや、プログラマブル・スイッチASICを開発しIntelに買収されたBarefoot Networksなどを共同創業した。

OLIXの競争力は、演算チップ単体ではなく、光インターコネクトやネットワーク、コンパイラを含むラック全体の協調設計にある。データセンター・ネットワークとプログラマブル半導体の両方に精通するMcKeown氏の参加は、「X-1」のシステム開発を進めるうえで重要な補強となりそうだ。

従業員数は140人を突破

OLIXの従業員数は、2026年2月時点の約70人から、現在は140人以上に増えたとされる。ロンドン、ブリストル、オースティン、トロントを中心に、大手テクノロジー企業や半導体企業から人材を採用している。今回の調達後も、ロンドン、ブリストル、オースティン、トロント、サンフランシスコで、半導体設計、フォトニクス、コンパイラ、システム開発のエンジニアを増員する計画だ。

またOLIXは、急成長企業の財務と上場を経験したCFOを採用しており、研究開発中心のスタートアップからの脱却を目指していることが伺える。

次のマイルストーンはテープアウト

独自インターコネクト、多数の専用チップ、光部品、コンパイラを統合する「X-1」は、技術的にも製造面でも難易度の高いプロジェクトである。今後のマイルストーンとしては、2026年中に予定する「DX-1」のテープアウトを実現できるか。そして2027年後半に、シミュレーションで示した性能と電力効率を実機で実現できるか。巨額資金を集めたOLIXのプロジェクトが今後どう進んでいくか、引き続き注目していきたい。

OLIX

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2026.08.04 )