アナログAI推論チップのMythicが1億2,500万ドルを追加調達、データセンター市場に本格参入

2025年12月17日、アナログAI推論チップを手掛けるMythicは、1億2,500万ドルを追加調達したことを発表した。

プレスリリース

今回の資金調達は6回目のラウンドにあたるもので、シリコンバレーのベンチャー・キャピタルDCVCが主導し、応募超過の1億2,500万ドルを調達した。これにより同社の調達額は累計3億ドルに到達。Mythicは調達した資金を元手にデータセンター市場への本格参入を図るようだ。なお、同社には日本企業としてソフトバンクが出資しているが、今回のラウンドでは新たにホンダも出資に参加している。

Mythicのアナログ処理ユニット(APU)は、フラッシュ・メモリの中でAIワークロードの中で最も負荷の高い行列乗算を人間の脳のようにアナログ的に実行する、「Compute-in-Memory」方式と呼ばれる手法のアナログAIプロセッサで、プロセッサとメモリの間のデータの移動を不要とする。最新のAPUアーキテクチャでは、今日の最高級GPU(メモリ転送を含む)の100倍に相当する1ワットあたり120TOPSの演算能力を実現。消費電力は、積和演算1回あたりわずか17フェムトジュールで、GPUの1,000分の1程度。Mythicは自社のAPUを「エネルギー消費においてシリコン上で人間の脳に最も近い存在」と称している。

※参考資料:Mythicの株主Future Ventuersの分析データ

Mythicはこれまで主にエッジAI市場に注力してビジネスを進めてきたが、昨年CEOに元NVIDIA副社長のDr. Taner Ozcelik氏を招聘。創業当初から狙っていたデータセンター市場攻略の足場固めを進めていた。

MythicのAPUの武器は圧倒的な電力性能だけではなく、そのスケーリングの容易性と製造面での容易性も他社製品に無い大きな武器だ。

Mythicによると、新世代APUはGPUがNVLINKで行うような高速なAP​​U間接続を必要とせず、2Dと3Dの両方でスケーリングすることが可能。APUをスケーリングし、社内ベンチマークで1TパラメータLLMを実行したところ、NVIDIAの最上位GPUと比較してワットあたり最大750倍のトークン/秒を達成できたとのこと。またチップがファウンドリを選ばず容易に製造可能で、そのチップ面積の小ささからコスト面での優位性も高く、最新のGPUと比較して100万トークンあたりのコストが最大80倍向上できる計算だという。

最近、大きな意味では同分野と言えるアナログAIチップ・スタートアップのUnconventional AIが、シード資金で4億7500万ドル(約700億円超)という巨額の資金を調達したことが報じられているが(関連ニュース)、データセンターの電力問題を解決するソリューションとしてアナログAIチップが脚光を浴びつつあり、この分野で業界の先頭を走るMythicにも新たに資金が集まった格好だ。

MythicはすでにアナログAIチップを製品化し、米国防総省、大手自動車OEMなどにも採用された実績を持つ。GPUから専用チップ(ASIC)という大きな流れが生まれつつあるデータセンター向けAI半導体市場において、その先の存在とも言えるアナログAIチップのMythicがビジネスでどこまで成長できるのか? 今後の展開に注目していきたい。

Mythic

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2025.12.23 NEW