脳レベルの高効率AIを実現する〜アナログAIチップのUnconventional AIがシード資金で4億7500万ドルの巨額調達

2025年12月8日、革命的なアナログAIチップの実現を目指す半導体スタートアップUnconventional AIは、シード資金として4億7500万ドル(約700億円超)という巨額の資金を調達したことを明らかにした。

Unconventional AIのブログ

シード資金とは創業初期段階の事業資金であり、いきなり4億7500万ドルのシード資金獲得というのは破格の評価で半導体業界でも前例が無い。

Unconventional AIは、この12月8日に公に姿を現したばかりの謎のスタートアップ。同社に関する情報は極めて少ないが、どのようなアナログAIチップを作ろうとしているのか掘り下げてみたい。

同社の創業者でCEOのNaveen Rao氏は、半導体業界出身の連続起業家でAI技術に精通する人物。出発点はSun Microsystemで半導体の設計/検証エンジニアとして経験を積み、その後Qualcommでニューロモルフィック・マシンの研究職を経て、ニューラル・ネットワーク・プロセッサを手がける「Nervana Systems」を創業。同社は2年後にIntelに買収されているが、この件については知る人も多いだろう。さらにNaveen Rao氏は、Intel退社後にAI/MLトレーニングを手がける「Mosaic ML」を創業。同社はサンフランシスコのIT企業Databricksに買収されている。

そんなNaveen Rao氏が率いるUnconventional AIが目指すのは、人間の脳の動きに近い超低消費電力のアナログAIチップの実現で、「知能をコンピュータで実現する最適な形は本当にデジタル計算なのか?」という根源的な問いが源流にある。

Unconventional AI曰く、現在のAIチップの処理はニューラル・ネットワーク(脳の神経回路網を模した数理モデル)を無理矢理0と1で計算するデジタル・コンピュータ上でシミュレーションしているので、そのための変換や抽象化のプロセスで大量のエネルギー・ロスが発生している。半導体の回路はアナログ的な物理現象で動いているので、その物理的な挙動(電圧や電流の非線形な動き)そのものを利用してニューラル・ネットワークを動かした方が、はるかに効率的で消費電力をデジタル回路の100〜1000分の1へと劇的に(生物レベルまで)下げることができる。

平たく言うと、ニューラル・ネットワークをデジタル的に数値計算で模倣するのではなく、アナログ的に物理として実装してしまおうというのがUnconventional AIの考え方だ。

果たしてそのような事が実際に可能なのか?

既に世の中にはアナログAIチップを開発している企業が複数存在している。Mythic, Rain AI, EnCharge AI, IBMなどが有名どころで、MythicとEnCharge AIは既に製品を市場に投入している。当然各社のアプローチ/アーキテクチャは様々だが、考え方としてはアナログ回路でベクトル×行列演算を行うという部分において共通でその有用性は実チップで実証されている。

一方、Unconventional AIは、シリコン上の物理ノイズ・非線形性をそのままニューラル・ネットワークの一部として利用しようとしており、かつてRain AIが提唱し実験を成功させていたデジタル処理を併用しない完全なアナログAIチップに近い。同然ながらそれを実現するには、AIアルゴリズム自体を物理デバイス特性に合わせて再設計する必要もあり、Unconventional AI自身「究極のコデザインが不可欠」と語っている。

Unconventional AIが実現しようとしているデバイスのアーキテクチャ、デバイスに対するソフトウェア・インターフェースの仕組み、素子技術などは一切明らかにされていないが、ブログの文脈から察すると従来のアナログAIチップとは違い、LLM級の大規模モデルを構築可能と主張している点がUnconventional AIの最大の特徴で、投資家の心を捉えたと想像できる。

その実現可能性は全く未知数だが、電力消費が問題視されている今日のAIインフラそのものを置き換えるかもしれないUnconventional AIのチャレンジは、決して夢物語ではなく、技術・市場ともにNVIDIAに次ぐ革命を起こすかもしれない。

Unconventional AI

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2025.12.18 NEW