Design Solution Forum 2025 開催レポート
2025年10月7日、パシフィコ横浜ノースにて、ハードウェア設計および組み込みソフト開発分野のエンジニア向けセミナー・イベント「Design Solution Forum 2025(以下、DSF2025)」が開催された。

今回で12回目の開催となるDSF2025の登録者数は1,457人で過去最高に迫る盛況ぶり。会場参加者は約700人、オンライン参加を含めると約1,200人の参加者が集まった。
また、パシフィコ横浜に場所を変え広くなったイベント会場には、過去最高となる45の企業・団体が展示ブースを構え多くの来場者で賑わった。
ここではDSF2025で行われたセッションや各種特別企画について、写真を中心にレポートしていく。なお、DSF2025で行われた殆どの講演は録画動画を視聴可能。(10/27まで)セミナーに参加登録していない方もこちらから登録すれば講演動画を視聴できる。
DSF実行委員長
DSF2025の実行委員長を務めたのは昨年に続いて河邊 恭 氏(コニカミノルタ株式会社)。今年はメンバーが増え計26名の実行委員でセミナーを企画。現役のエンジニアが企画・運営するというのがDSFの大きな特徴の一つだ。

DSF実行委員の皆様 写真中央が実行委員長 河邊氏
基調講演
基調講演は本田技研工業株式会社の八幡 和樹 (ヤハタ カズキ)氏が登壇。「自動運転LV3から未来のSDVへ:AI半導体が拓く次世代モビリティ」と題して、先端の車載SoCの開発について語ってくれた。

講演する八幡 和樹 氏
八幡氏の発したメッセージは、クルマと半導体の協調開発の必要性と社会課題の解決。車載SoCの統合化が進みクルマのアーキテクチャを具現化するSoCを迅速に開発するには、クルマ屋と半導体屋の協調が不可欠とした上で、AIの高速実装やカメラ・パイプラインの最適化、ダイナミック・パワーの削減など、両者の腕の見せ所はいろいろあるとコメント。そして、ホンダの理念に則り社会課題を解決するAI半導体を創りたいと熱く語った。
最優秀講演
聴講者の投票により最優秀講演賞に輝いたのは、パーソルクロステクノロジー株式会社の三浦 克介 (ミウラ カツヨシ)氏。「AIはRTL設計できるか?~生成AIをRTL設計に活用する試みの現状と未来~」と題した講演でChatGPTを用いたRTL設計の試行事例を紹介してくれた。

講演する三浦 克介 氏
三浦氏によるとChatGPTはRTL設計者としてこの1年で確実に賢くなっており、いずれ初級エンジニア並みの仕事ができるのは確実。そういった将来を見据えて、どうエンジニアを育てていくかも重要だと指摘した。

三浦氏の講演スライド
最優秀スポンサー講演
同じく聴講者の投票で最優秀スポンサー講演に選ばれたのは、「OSSだけで半導体を試作してみた
」と題した講演を行なった、株式会社日立産業制御ソリューションズの和知 秀悟 (ワチ シュウゴ)氏。

講演する和知 秀悟 氏
和知氏の講演は、OSSのRISC-Vチップ「PULPissimo」をベースにOSSのEDA「OpenLane」を用いて独自回路を追加し、オープンPDK対応のファブ「SkyWater」でチップ化するという話で、プロジェクトは現在も進行中。OSSのIP/EDAツールによる実製品開発はまだまだ課題が多く簡単ではないと和知氏。引き続き試行しながらノウハウを蓄積し、「OpenEDA環境」の適用範囲を探っていきたいとした。

和知氏の講演スライド
AI関連
近年DSFでもホットな話題として注目の高いAI関連。今年もAIをテーマとした講演が複数行われた。
「エンジニアとAIの協働革命:GitHub が提供する新しい開発体験」と題して講演したGitHubの服部 佑樹 (ハットリ ユウキ)氏は、 今後どれだけ多くのAI(エージェント)を開発工程に介在させることができるか?それがチャレンジだと語り、如何に上手くAIに情報を渡すか、そのための環境を自社に合わせて如何に構築するかなど、開発手法の変革の必要性を説き、エンジニアはAIとの協働能力を身につけなければならないと締めた。

講演する服部 佑樹氏
GMOペパボ株式会社の武田 大祐(タケダ ダイスケ)氏は、「Vibe Coding 現場レポート ― AI前提のソフトウェア開発の裏側をのぞく」と題して、自然言語だけでAIに指示してコーディングする「Vibe Cording」の社内事例を紹介。 AIの吐き出す大量のコードに対して自動テスト、静的解析などこれまで培ってきた技術がより一層生きるとコメント。AIにしっかり意図を伝える、なるべく小さい単位で開発するなど、武田氏の指摘はGitHub 服部氏の指摘と重なる部分があった。

講演する武田 大祐 氏
ハードウェア設計関連
DSFは例年ハード設計関連の講演が充実しており、今年も興味深いテーマの講演が多かった。
「PFNにおけるSWエンジニアとHWエンジニアのASIC協調設計」と題した株式会社Preferred Network 高務 祐哲 (タカツカサ ユウテツ)氏の講演は、同社のAIチップ「MN-Core」の開発に関するもの。RTL設計はソフト開発に似ているという観点から同社ではRTL設計にGitHubフローを採用しており、単一リポジトリを使いCIで常に整合性を維持する形でRTL設計を進めているという話。シミュレーション環境はPythonで管理し、検証もソフトとハードの両チームで行うスタイルで、チーム内およびチーム間の連携・整合性を徹底的に突き詰め、省力化を図ることで成果をあげているという。
なお高務氏の講演は最優秀講演の三浦氏に次いで聴講者評価の高い講演だった。

講演する高務 祐哲 氏
PEZY Computing 初田 直也 (ハッタ ナオヤ)氏の講演「Veryl: SystemVerilogに代わる新しいハードウェア記述言語」も、聴講者の反応を多く集めた講演の一つ。「Veryl(ヴェリル)」は初田氏個人が開発したオープンソースのHDLで、初田氏が感じていたSystemVerilogの課題を解消し、書きやすく、非合成要素が無く、可読性が高く、Verylとの対応付けが容易なSystemVerilogを自動生成するという優れた特徴を持つ。また、リアルタイム診断、ドキュメント生成、フォーマッタ、コードマップといったツールも同梱。現在もVerylの開発プロジェクトは進行中だが、すでにPEZY社内でチップ開発に適用しているほか、GitHub上ではVerylを使ったプロジェクトが30近くあるという。

講演する初田 直也 氏
ブログ「FPGA開発日記」の著者として知る人ぞ知る木村 優之 (キムラ マサユキ)氏は、今回が2回目のDSF登壇。「オープンソースでどこまでできる?フォーマル検証チャレンジ」と題してOSSツール「SymbiYosys」の試行結果を紹介してくれた。木村氏によると「SymbiYosys」はツールの制限などもあり、大きなCPUコアへの適用などは課題が多いということだったが、コンフィグ・ファイル1個だけで簡単なアサーションを書けば動いてくれるので、小・中規模回路を対象にシミュレーション前の「露払い」として簡単なバグ潰しに使うには有効だと指摘した。

講演する木村 優之 氏
UVM(Universal Verification Methodology)
今回のDSF2025では、検証メソドロジ「UVM」に関する講演が多かった。DSF実行委員による特別企画として行われた「UVMは怖くない!やさしい解説と現場のホンネを聞こう」の他に以下のような講演が行われ、いずれも満席立ち見という盛況ぶりだった。
・「UVM導入と実践的ノウハウ」 株式会社エッチ・ディー・ラボ 長谷川 裕恭 (ハセガワ ヒロヤス)氏
・「UVM検証環境自動生成の取り組み」株式会社リコー 萩原 篤 (ハギワラ アツシ)氏、秋山 拓巳 (アキヤマ タクミ)氏
・「UVM 検証環境構築への近道」アルデック・ジャパン株式会社 栗林 雄秀 (クリバヤシ タケヒデ)氏

講演する長谷川 裕恭氏、秋山 拓巳氏、栗林 雄秀氏(左から)
DSF特別企画の第一部では、「UVMの基礎知識と実装技術」と題して、有限会社 アートグラフィックス 篠塚 一也 (シノヅカ カズヤ)氏がUVMの基礎について講演。
同第二部では、「UVMパネル・ディスカッション」として、UVM導入現場を知るパネリスト3名がUVMの意義、UVMの適用対象、UVMに関する有識者の育成などをテーマに熱い議論を交わした。
- <パネリスト>
- 株式会社エッチ・ディー・ラボ 長谷川 裕恭 (ハセガワ ヒロヤス)氏
- キオクシア株式会社 土屋 丈彦 (ツチヤ タケヒコ)氏
- CMエンジニアリング株式会社 保田 孝幸 (ヤスダ タカユキ)氏

UVMパネリストの皆さん 左から長谷川 裕恭氏、保田 孝幸氏、佐塚 明文氏(モデレータ)土屋 丈彦氏
UVMは2010年頃から利用が提唱され始め、2017年にIEEE標準化。決して新しい方法論ではないが、近年、CXL、PCIe 6.0、UCIeなどの新規格が一気に増え、主要ベンダの検証IP(VIP)は基本UVM+SystemVerilogが前提となっているため、最新規格への対応を迅速に進めるにはUVMベースの環境に寄せた方が早い=再注目、という流れがあるのかもしれない。
海外新興ツールベンダ
今回のDSF2025では新興ツールベンダによる英語のセッションも目立った。
EDA業界のレジェンド達がボードメンバーに名を連ねる「ChipAgents」は、自然言語とAIエージェントを使用したRTL設計の変革で業界のゲームチェンジャーを目指す。既に半導体大手が導入済み。

ChipAgentsの講演スライド
「Cycuity」はハードウェア・セキュリティ検証に特化したEDAベンダ。(旧Tortuga Logic、2022年に社名変更)SoCのセキュリティ上の脆弱性を明らかにする検証ソリューションを提供する。

Cycuityの講演資料
「Roofline AI」は、あらゆるAIモデルを異なるハードウェアで実行可能にするエッジAI向け“リターゲッタブル”コンパイラとランタイムを提供する。多様なハードウェアの選択肢が存在するエッジAIではありがたいソリューションだ。

Roofline AIの講演資料
招待講演
全ての登壇者を紹介できないが、今年のDSFでも様々な分野の方がバラエティーに富んだ講演を行なった。

津南醸造 鈴木 健吾 氏(左上) 生成AIを用いたスマート醸造について講演
ティアフォー 高野 祐輝 氏(中央上) 並行プログラミングとRustについて講演
NTT 進藤 勝志 氏(右上) 光電融合技術「IOWN」をどう使うかについて講演
SGSジャパン 松尾 健彦 氏(左下)チップ開発における機能安全(ISO26262)について講演
ソニーセミコンダクタソリューションズ 喜多村 扶佐子 氏 (中央下) 働きやすさ、職場環境について講演
NABLAS 吉田 聖 氏(右下)製造業でのAI活用とその課題について講演
スポンサー講演
DSF2025の開催を支えるスポンサー企業は計44社。そのうち20社がスポンサーとして講演を実施。今回がDSF初出展という企業も多かった。

MathWorks Japan 松本 充史 氏(左上) MBSEとMBDの連携、HW/SWの協調設計について講演
日本シノプシス 萩野 裕 氏(中央上) 最先端デジタルSoC設計人材育成プログラムについて講演
eMemory Technology 蔡 達賢 氏(右上) チップレット向けのセキュリティについて講演
シーメンスEDAジャパン 渋谷 寿裕 氏(左下)高位合成と合わせて重要な高位検証について講演
日本ケイデンス 姫井 芳奈 氏 (中央下) AIを用いた等価性検証について講演
RISE-A 増田 大樹 氏(右下)半導体業界のハブを目指すRISE-Aの活動について講演
DSF特別企画
今回もDSF実行委員によるエンジニア目線の手作り企画が複数実施され、来場したエンジニア達を楽しませていた。
「そうだ◯◯行こう」企画のパネル・ディスカッションは、DSF実行委員が北海道更別村に赴き、現地で聞いてきたスマート農業とスーパービレッジ構想の話をもとに、更別村役場の今野氏も交えてディスカッション。技術が社会や生活にどう活かされていくのか。そのための課題は何か。技術者視点で学びの多い企画だった。

「そうだ◯◯行こう」企画のパネル・ディスカッションの様子
恒例企画のDSF選書「AI時代の手元に置きたい一冊」は、講演者および実行委員のおすすめ書籍を展示する企画。今年は実践的な技術書が多かった。

DSF選書「AI時代の手元に置きたい一冊」で展示された書籍:引用元 ナラベル
展示会場に設置されたDSF実行委員会ブースは今年初めての試み。ブースにはDSFモノ作り企画「スペースバルーン」の活動紹介としてユニット基板などが展示されたほか、「DSF参加者の一言」や「お仕事アンケート」など、イベント参加者との交流企画が行われていた。

DSF実行委員会ブースの様子
DSF会場ライブ配信企画「加トちゃんシンちゃんごきげんテレビ」は、イベント会場の様子をライブ配信する人気企画。ライブ配信でしか聴けないセッションや、展示ブースのインタビューなどもあり、イベントの裏側も垣間見えた。録画動画が公開されているので、気になる方はこちらをチェック。

加トちゃんシンちゃんごきげんテレビ ライブ配信の様子
DSF交流イベント
新交流企画として行われた「働く女性限定ランチ会」には総勢16名が参加し、賑やかなランチタイムを過ごしたとのこと。講演者のソニー 喜多村 扶佐子氏も参加し、女性参加者同士の交流に華を添えた。
セミナー終了後に行われる恒例の「DSF交流会」は、スポンサー企業・団体31社がブースを構える展示会場で開催。400人以上の参加者が集まる大交流会となり、盛況のうちにイベントを終えた。

DSF交流会の様子
DSF2026
次回のDesign Solution Forum 2026 は、2026年10月6日(火)に今年と同じ会場パシフィコ横浜ノースで開催の予定。セミナーでの講演を希望する方、スポンサー出展を検討したい方は、info@dsforum.jp まで。
※Design Solution Forum 公式ホームページ
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2025.10.20
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