只今開催中〜第62回Design Automation Conference今年の見どころ
現在、米カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニセンターにて、第62回Design Automation Conference(通称DAC)が開催されている。
今年のDACの会期は6月22日から25日まで。遅ればせながら62th DACの見どころをまとめてみたい。
まずDACとは何ぞや。以下、昨年の記事から抜粋です。
DACは半導体チップの設計技術にフォーカスした国際学会で、ACM (Association for Computing Machinery) とIEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers) が主催し、ACMの設計自動化に関する特別グループ (SIGDA)とIEEEの電子設計自動化に関する評議会 (CEDA) がサポートしている。
かつてDACはサンディエゴ、ロスアンゼルス、ラスベガス、ニューオリンズなど各地で開催されていたが、ここ10年以上はサンフランシスコでの開催が定着している。

DACのメインは世界中から集まった論文発表を中心とした技術セッションで、昨年の論文数計1,545件に対して今年は1,862件の研究論文が集まった。そのうち採択された420件の論文が会期中に発表される。論文数だけをみると今年は前年比20%以上の増加。2024年は前年比34%増だったので、ここ数年は論文数の増加が顕著と言える。
DACでは、研究論文を発表する「リサーチ・トラック」と設計者やマネージャー向けに実務寄りの技術発表を行う「エンジニアリング・トラック」、大きく二つのトラックが設定されており、今年の「エンジニアリング・トラック」には370件の投稿が集まったとのこと。この中から採択された100件近くのセッションが会期を通じて実施される。
昨年に続いて今年のDACも話題の中心はやはり「AI」。主催者発表によるとAIがカンファレンスで最も成長しているトピックで、AIに特化したセッションが大幅に増加しているとのこと。エレクトロニクス設計におけるAIの重要性は確実に高まっているようだ。
その傾向はキーノート・セッションにも現れており、今年登壇する3名のキーノート・スピーカーはいずれもAI関連の講演を行う予定。中でも最終日に行われるUCLA Jason Cong教授の講演はRTL設計者の興味を引き付けそうだ。
余談だがJason Cong教授は高位合成の研究で有名で、「AutoESL」という高位合成ツールのEDAベンダを設立し後にXilinxに売却。その技術はXilinxの設計ツール「Vivado」の源流となっている。
「イノベーションの進化:チップ設計における推論エージェントの夜明け」
William Chappell, VP of Mission Systems, Microsoft
「AI革命を実現するために」
Michaela Blott, Senior Fellow, AMD Research
「ディープラーニングと自動コード変換によるチップ設計の民主化」
Jason Cong, Volegnau Chair for Engineering Excellence Professor, UCLA Computer Science Department
キーノート以外にも今年のDACは昨年にも増してAI関連セッションが目白押しとなっている。その全てをここで紹介することは難しいが、AI関連を中心にEDA-EXが注目するセッションの幾つかを紹介したい。
・Powering the Future: Mastering IEEE 2416 System Level Power Modeling Standard for Low-Power AI and Beyond
システムレベルの電力モデリング規格「IEEE 2416」のチュートリアル
・First International Workshop on Synergizing AI and Circuit-System Simulation
AIとシミュレーションの相乗効果にフォーカスした国際ワークショップ
・Large Language Model - the "Current Big Thing" in the Semiconductor World
リサーチ・スペシャル・セッションとして以下3つのセッションが行われる
LLMs: A Driving Force in Next Generation Digital Design Automation
Generative AI: A transformational technology for IC Design
LLMs Meet Post-Silicon Test Engineering: A New Era
・Unlocking the Power of AI in EDA
TeckTalkとしてSiemensとNvidiaの登壇者が対談形式でEDAにおけるAIの活用について議論
・Generative AI in Design & Verification: Are We Hallucinating or Innovating?
特設ステージで行われるパネル・ディスカッション。設計と検証におけるAI活用について議論
・Cooley's DAC Troublemaker Panel
DAC名物のパネル・ディスカッション。業界の重鎮達がEDA業界の様々なトピックを本音で語る
・AI-Enabled EDA for Chip Design
特別セッションとして新興のAIベースEDAベンダ各社がAIを活用した設計について議論
・Can AI Cut Costs in Electronic Design & Verification While Accelerating Time-To-Market?
Accellera主催の特別ディスカッション。設計と検証におけるAIの変革的役割について議論
・New Innovation Frontier with Large Language Models for SoC Security
SoCセキュリティ設計および検証タスクへLLMを採用することの成果、展望、課題について紹介
・AI Meets Silicon: Transforming Hardware Design through AI-Driven Innovation
機械学習モデル、特にLLMのハードウェア設計自動化および量子コード生成への応用について探究。 (※名古屋大学増田准教授がセッション・チェアを務める)
・ML-Powered Logic Synthesis
ML/LLMを用いた合成スクリプト、RTLコードの生成手法や最適化手法などを紹介
なお今年のDACの展示会場では、昨年同等の121社が展示ブースを構える予定でうち25社は初出展。AI/LLMを用いたRTL設計ソリューションを掲げる新興企業が目立っており、EDAにおける新たな製品カテゴリを形成しつつある。EDA-EXとして注目したい出展企業は以下の通り。
・Bronco AI ASIC設計/検証用AI(Design Verification Agent)
・ChipAgents.ai RTL設計/検証用AIエージェント
・MooresLabAI RTL設計/検証用のAIエージェント
・Rise Design Automation ESL AIツール(高位合成)
・Sigasi コード・ナビゲーション機能付きのRTLコーディング用IDE
・InCore Semiconductors RISC-V IP
・Exostiv Labs FPGAプロトタイピング・システム
・InstaDeep PCB設計用AI
・ITDA Semiconductor ノーコードDFT
・LUBIS EDA フォーマル検証と検証IP
・Oboe Technologies FPGAプロトタイピング・システム
・Signature IP Corporation NOC IP
以上、今年もDACの主たるテーマはAIということで、AIそのものの開発、AI実行環境の開発、AIを用いた設計手法など、その側面は幾つかあるが、この潮流は今後数年間は続き、いずれ設計自動化という括りを飲み込みDACはより大きな視点のカンファレンスに生まれ変わるのではないだろうか。
来年のDACはロスアンゼルスのロング・ビーチで開催、再来年の第64回DAC、さらに翌年の第65回DACは、シリコンバレーの中心であるサンノゼに場所を移して開催される予定となっている。
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2025.06.25
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