複雑なSoCおよびチップレット・システムに向けた次世代NoCソリューションを手掛けるBaya Systems

次世代NoCソリューションを手掛けるBaya Systemsは、ステルスモードを脱し先頃サンフランシスコで開催された第61回DAC(Design Automation Conference)で業界デビューを果たした。

Baya Systemsホームページ

Baya Systemsはカリフォルニア州サンタクララに本拠を置くスタートアップで設立は2023年3月、CEOのSailesh Kumar氏は2018年にIntelに買収されたIPベンダNetSpeed Systemsの創業者でもある。

NetSpeed SystemsはNoCを手掛ける新興のIPベンダとして2011年に創業し、AIチップや車載チップ向けに数々の実績を残していた。1,000個以上のRISC-Vコアを搭載するAIチップで有名なEsperanto TechnologiesもNetSpeedの顧客の一人だ。

Baya SystemsはSailesh Kumar氏をはじめとするNetSpeedのメンバーが立ち上げた会社であり、同社の提供するNoCソリューションはコンセプト的にはNetSpeedに似ているが、NetSpeedのソリューションが大規模で複雑な単一のSoC開発を対象としていたのに対し、Baya Systemsのそれは大規模SoCに加えてチップレットをベースとしたマルチダイ・システムの開発をターゲットとしている。

そもそもBaya Systemsの思想の中心は昨今爆発的に増加しているAIワークロードの最適化で、計算に伴うデータ移動のボトルネックを無くし、コンピューティング・システム内でシームレスかつ効率的な通信を可能にすることにある。今日においてはチップレットを使用した高性能半導体の設計がトレンドになっているが、チップレットを使用するとNoCとキャッシュのアーキテクチャがより複雑になるため、従来のSoC向けの開発ソリューションに代わる新たなソリューションが必要になる。というのがBaya Systemsの創業につながるモチベーションだ。

Baya Systemsの提供する製品は、NoCの開発環境「WeaverPro™」とNoCのIP「WeaverIP™」の大きく2種類。開発環境「WeaverPro™」は、システム・アーキテクチャ設計用の「Cache Studio」とNoCのマイクロ・アーキテクチャ設計用の「Fabric Studio」で構成されており、 「WeaverIP™」は下記5種類の製品がラインナップされている。

・Protocol Neutral Scalable Custom Fabric
・Configurable AMBA Non-Coherent Fabric
・Configurable Cache Coherent Fabric
・Multi-level Cache Coherent Fabric
・Configurable Cache Controller

大まかな流れとして、ユーザーは「Cache Studio」を使いキャッシュおよびメモリ・アーキテクチャを設計し、用意されるモデルとシミュレーション環境を用いて性能検証、最適化を行う。その後、「Fabric Studio」を使い静的/動的解析を行いながら「WeaverIP™」を用いたNoCを設計し、最終的に物理的な実装を考慮したRTLを生成する。Baya Systemsのソリューションを活用することで、グローバルおよびローカルに最適化されたチップレット対応のNoCシステムの開発と展開を加速できるという寸法だ。

Baya Systemsは同社のNoCファブリックのパフォーマンスについて、4nmプロセス・テクノロジーで動作周波数3GHz、単一クラスターで4TB/秒のスループットを実現し、マルチチップレット AI アプリケーション向けに数PB/秒まで拡張できるとしている。

なおBaya Systemsは、NoC-NoC間を繋ぐD2D PHY IP を手掛ける米Blue Cheetahとの提携を発表しており、同社のPHY IPを用いたマルチダイ・システムの開発も可能。ちなみにBaya SystemsとBlue Cheetahの両ソリューションはJim Keller氏率いるAIチップ・ベンダTenstorrentが採用を発表しており、Jim Keller氏はBaya Systemsのボードメンバーとなっている。Baya SystemsのCEO Sailesh Kumar氏は、IntelのフェローとしてXeonプラットフォームの開発を主導していた時期があり、Jim Keller氏とは旧知の仲のようだ。

数年前からのAIブームにより、Baya Systems、Blue Cheetah以外にも米Eliyanなどチップレット向けのインターコネクトIPを手がける企業が出てきており、先日もCadenceが同社初となるマルチチップ・システムを意識したNoC IPを発表したばかり。今後さらに競争が過熱していきそうな同分野については引き続き注目していきたい。

Baya Systems

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2024.07.04 )