SynopsysがSNUGで発表した新製品とNVIDIAとのコラボ

2024年3月20日、Synopsysは本拠地の米カリフォルニア州サニーベールでユーザーグループのカンファレンス「SNUG」を開催。様々な新製品や同社最新製品の利用実績などを紹介した。

プレスリリース

今回のSNUGでのホットな話題としてSynopsysが強調しているのは以下の通り。

・進むAIベース・ツールの導入実績

AIドリブンのフルスタックEDA スイート「Synopsys.ai」によるテープアウト件数は数百件にのぼり、PPAの10%以上の向上、最大10倍のTAT短縮など、実績は多数。AI機能によりカバレッジ・テストが4倍高速、アナログ回路の最適化が4倍高速という事例もある。すでにリリースした「Synopsys.ai Copilot」だけではなくスタック全体にわたる生成AI機能の開発を継続中。

・マルチダイ設計向け業界初の新たなAI機能「3DSO.ai」

AIドリブンのフルスタックEDA スイート「Synopsys.ai」の新機能として「3DSO.ai」と呼ぶ3DIC設計向けの新たなAI機能が発表された。「3DSO.ai」はマルチダイ・システムの統合設計環境「3DIC Compiler」にネイティブに組み込まれ、マルチダイ・システムのシグナル・インテグリティ、サーマル・インテグリティ、電源ネットワーク設計の最適化を実現する。

・マルチダイ・システム向け業界初のアーキテクチャ探索ツール「Platform Architect - Multi-Die」

バーチャル・プロトタイピング環境「Platform Architect」がマルチダイ・システムに対応。同ツールはSystemCベースで複数のダイ間の相互依存性を考慮した形で性能解析や電力解析を行うことが可能。 これによりマルチダイ・システムにおけるハードウェアとソフトウェアのパーティショニング、IP の選択と構成、相互接続とメモリの構成、電力などを設計早期段階で最適化できる。

・ハードウェア・ベースの検証環境「ZeBu」と「HAPS」をアップデート

FPGAベースのエミュレーション環境「ZeBu EP」ファミリの最新バージョン「Synopsys ZeBu® EP2」とFPGAベースのプロトタイピング環境「HAPS」の最新バージョン「HAPS®-100 12」が発表された。ともにデザイン容量が大幅に拡大され、「HAPS-100 12」のデザイン容量は3倍(おそらくボード1枚あたりのFPGA搭載数が4個から12個に拡張)、「ZeBu EP2」のデザイン容量は最大58億ゲートになったという。

・クラウド環境の利用を容易にする「Synopsys Cloud Hybrid」

新たなクラウド環境ソリューションとして「Synopsys Cloud Hybrid」を発表。同環境はオンプレミス環境をメインとする企業に向けたもので、ニーズのピーク時にオンプレミスのデータセンターからクラウドに設計データをシームレスかつ効率的にバーストすることが可能。利用可能なクラウド容量に基づいてジョブを自動的に分割し、自動かつリアルタイムでオンプレミス・データセンターとクラウド間のデータ同期を行う。

・NVIDIAのCEO Jensen Huang氏が登壇

3月18日にNVIDIAのイベント「GTCグローバルAIカンファレンス」でNVIDIAとSynopsysのコラボレーションが発表され、NVIDIAのCEO Jensen Huang氏がSNUGにも登壇した。発表された両社の協業は下記の3つ。

  • NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipを用いてEDAツールのランタイムを最大15倍向上。論理シミュレータ「VCS」、論理合成ツール「Fusion Compiler™」、SPICEシミュレータ「PrimeSim」、OPC(光近接補正)ツール「Proteus™」など各ツールで大幅なランタイム・アップが計れるという。
  • 「Synopsys.ai」のLLMベースの機能を強化し、NVIDIAのAIおよびコンピューティング・プラットフォームをサポート。生成AI機能のカスタマイズの柔軟性を高め、オンプレミスでも生成AI機能を活用できるようにする。
  • Synopsysの車載向け仮想プロトタイピング・ソリューション「Virtualizer」とNVIDIAのデジタル・ツイン環境「Omniverse」を拡張し、車載システムのデジタル・ツインと車両の走行環境のデジタル・ツインを融合した次世代の先行開発を実現する。(2025年には一般提供開始予定)

なおNVIDIAは、シノプシスとTSMCがチップ製造向けに「NVIDIA cuLitho(コンピュテーショナル・リソグラフィ・プラットフォーム)」を採用したことも発表しているが、これについては別途記事掲載の予定。

SynopsysはAIベース設計の進化に向けて業界に先駆けてMicrosoft/OpenAIと組み驚かせたが、更にNVIDIAとも組むという今回の発表は業界にとって非常にインパクトが大きい。生成AIの両雄とも呼べる企業と組むことでSynopsysのEDAツールが今後どのような進化を遂げるのか。その可能性は計り知れない。

日本シノプシス合同会社

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2024.04.01 )