Synopsysの検証セミナーで聞いたハイブリッド・エミュレーションの話 by 富士ゼロックス
2018年10月3日、日本シノプシスは品川で「シノプシス・ベリフィケーション・セミナー2018」を開催した。
ここでは同セミナーで行われた富士ゼロックスによる事例講演の内容を紹介する。
講演タイトル:「ハイブリッド・エミュレーション環境構築によるソフトウェア先行開発」
講演者:富士ゼロックス株式会社 コントローラプラットフォーム第一開発部 橋本 貴之氏
橋本氏の講演は、Synopsysの仮想プロトタイピング環境「Virtualizer」とエミュレーション環境「ZeBu」を用いた画像処理システムのデバイスドライバ開発の話。
結果を先に明かしてしまうと、Linuxのブート時間約30秒のシミュレーション環境の構築に成功し、6つの画像処理ブロックのデバイスドライバを先行開発することで、ソフトウェアの開発期間を約2.5ヶ月前倒しすることができたという内容である。
橋本氏によると、ハイブリッド・エミュレーション環境構築のそもそものモチベーションはES入手前のソフトウェア先行開発で、ES評価期間内にソフトウェアの機能評価を終わらせるという狙いがあった。そこでソフトウェア開発者のニーズを吸い上げた結果、高速なLinuxブートを「Virtualizer」で行い、高速な画像処理シミュレーションを「ZeBu」で行うハイブリッド環境を選択することにした。
実際にハイブリッド・エミュレーション環境を構築してみたところ、「意外と簡単だった」というのが橋本氏の感想。シミュレーションの高速化を狙い、ハイブリッド環境を構築する前段階で既に「ZeBu」上にハードウェアを実装した経験があったことが大きかったようで、その経験を元にハイブリッド環境においても「ZeBu内にメモリモデルを実装する」、「Virtualizer-ZuBu間のポート数を最小化する」、といった施策によりシミュレーションの高速化を図ったと橋本氏は説明した。
また橋本氏は、RTLシミュレーション環境とZuBu環境で共通のテストベンチ構成をとることで環境のスムーズな移行が可能となるとコメント。検証戦略を考える段階でハイブリッド環境を検討しておくと最終的に工数削減にも繋がるだろうと付け加えた。
なお今回「Virtualizer」側の環境はSynopsys側が用意したものを利用。富士ゼロックス側からZeBu環境のダミーモデルを提供することで両社で協調しながら環境構築を進め、約1.5ヶ月でハイブリッド・エミュレーション環境の構築を完了した。
ちなみに橋本氏によると、「Virtualizer」によるLinuxブートは環境立ち上げ当初は3-4分要していたが、「Virtualizer」のバージョンを最新バージョンに切り替えたことで、最終的に約30秒に短縮することができたとの事。また「ZeBu」においても最新バージョンではコンパイルの機能がかなり改善され、使い勝手が非常に良くなったという話だった。
■MediaTekもハイブリッド・エミュレーション環境を活用
今回のセミナーでは台湾ファブレス最大手のMediaTekも事例を紹介していたが、講演者のJerry Wang氏によるとMediaTekでも先端の5Gモデムの開発をはじめ各製品の開発工程に応じてバーチャル環境、ハイブリッド環境、エミュレーション環境、プロトタイピング環境を使い分けているという話。もちろん「Virtualizer」と「ZeBu」も活用しているようだ。
■日本ではHAPSも好調
セミナー冒頭の日本シノプシス黒坂氏の話によると、エミュレーション環境「ZeBu」はワールドワイドでかなりの勢いでユーザーを増やしているとの事。専用プロセッサではなくFPGAベースのエミュレーション環境というのが強みのようで、米国Synopsys本社のThomas Li氏によると今後FPGAベースの製品がエミュレータ市場の半分以上を占めるという予測データもあるという。また黒坂氏によると日本国内ではFPGAベースのプロトタイピング環境「HAPS」も好調で、様々な製品領域で導入が進んでいるという話。一度に「HAPS」を複数台導入する顧客も少なくないという。
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2018.10.15
)