ClioSoftのCEOに設計データ管理ツール「SOS」と新ツール「design HUB」について聞く

2018年3月、来日していたClioSoft社のCEO Srinath Anantharaman氏に同社の旗艦製品である設計データ管理ツール「SOS」と新製品「Design HUB」について話を聞いた。

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Srinath Anantharaman氏

Srinath Anantharaman氏によると、ClioSoftは同氏が1997年に設立したプライベート企業で本社はカリフォニア州フリーモントにある。ClioSoftのビジネスの中心は設計データの管理ツール「SOS」の開発・販売で、同ツールの顧客企業はワールドワイドで250社以上、日本にも10社以上のユーザーが存在しているという話だ。

「SOS」はEDAツールで扱う設計データに特化したデータ管理ツールで、大きく下記4つのデータ管理機能を備えている。

・リビジョン管理
 リビジョン管理を自動で行い古いデータを保持

・履歴管理
 データ作成、変更の時間とユーザを記録

・ステータス管理
 データの状態を把握しユーザに告知

・付属情報管理
 必要なコメントやラベルをデータと共に管理

「SOS」は設計データフォーマット、「OpenAccess」を使用するEDA各社のツールに対し統合されたインターフェースを用意しているため、アナログ、デジタル、ミックスド・シグナル、RFとあらゆるデザインへの対応が可能である。中でもCadenceのアナログ/カスタム設計環境「Virtuoso」のユーザーには重宝されており、様々な設計データを「Virtuoso」のコックピットからCellレベルで管理できる点などが高く評価されているという。

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この「SOS」による設計データ管理の実績を踏まえ、企業内における設計IPのデータ管理すなわちIP再利用に目を付け開発したのが、昨年のDesign Automation Conferenceで発表されたClioSoftの新製品「designHUB」である。

Srinath Anantharaman氏によると「designHUB」は、「SOS」同様チーム・コラボレーションを念頭に置いた製品で、企業内のユーザーが設計データとIPをより簡単に作成、共有、再利用できるIP再利用エコシステムの構築を目指すもの。ここで言うIPには設計IPだけでなく、検証IPや各種ドキュメント、スクリプト、ライブラリ、更にはアイデアや知識、メソドロジなども含められているという。

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Srinath Anantharaman氏の説明によると「designHUB」はWebベースのプラットフォームで、下記図の通り3つの要素で構成されている。

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・IP再利用:IP再利用のためのエコシステム
・ダッシュボード:デザイン・プロジェクトのための情報共有機能
・クラウドソーシング:社内の専門知識を共有するための情報共有機能

IP再利用のためのエコシステムは「designHUB」の中核とも言えるもので、単なる社内IPカタログではなくフォーラム機能が備えられているのが面白いところ。このフォーラム機能を通じてIPユーザーが過去のIP利用者のレビューを参照したり、利用者に直接質問を投げたりする事ができる。Srinath Anantharaman氏曰く、Amazonでレビューを参考に買い物するような感じで社内IPを探すことができるという事だ。また、「designHUB」ではIP再利用に関するセキュリティにも配慮がなされており、社内IPを登録・利用するための承認システムも用意されている。

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※画像は全てClioSoft社提供のデータ

ダッシュボードは、プロジェクト管理とプロジェクトのナレッジベースを兼ね備えたもので、プロジェクトのスケジュール管理やタスク管理、ドキュメント共有などの他に、メールや各種電子ファイルなど様々なアプリケーションに分散して存在しているプロジェクトに関する情報を集約しIPリポジトリにアップロードする機能も備えている。これによりプロジェクトに関する作業の知識を設計者個人に頼らず社内に保持できるという事だ。
クラウドソーシングは、社内に散らばる設計者の専門知識を共有するためのもので、これにより部署や事業所を跨いだ社内コラボレーションや共同作業を実現する事ができる。例えば設計者が何か技術的な問題に遭遇した際に、社内の誰かに解決策を質問したり、助けを求めたりできる設計者向け社内SNSのようなものだ。
実際にSrinath Anantharaman氏に「designHUB」のデモを見せてもらった印象としては、非常に洗練されたシステムで、その使い勝手はSlack/FacebookにIP再利用のための豊富なインフラ機能が組み合わさったような感じ。(表現は分かり難いかもしれませんが、使い勝手が良さそうという意味)文字通りデザインのハブとして様々な情報を共有するという機能がビジュアル的にもわかり易く実現されている。

Srinath Anantharaman氏によると既に複数の大手企業が「designHUB」の導入を進めているという事で、その背景にはデザインの大規模化・複雑化への対応と合わせて、人材の流動化に伴う知識の喪失を防ぐという狙いもあるという。確かに「designHUB」のようなプラットフォームがあれば、仮に設計者が辞めてもその知識を会社に残しておく事が可能かもしれない。

情報の共有/シェアという概念が一般化した今日において、ある意味「designHUB」は有りそうで無かったツールと言えるが、Srinath Anantharaman氏はWikipediaが生まれる前から「designHUB」の原点と言える同社の設計データ管理ツール「SOS」の構想を持っていたとの話。一人一人の設計者の知識を共有し、グループ全体の生産性の向上を目指すというClioSoftのアプローチは、これからのハードウェア設計でより重要となって行く事だろう。

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2018.04.11 )