Cadenceが業界最高の精度とパフォーマンスがウリの新型の寄生抽出ツールを発表

2014年7月16日、Cadenceは新型の寄生抽出ツール「Quantus QRC Extraction」を発表した。

発表間もない「Quantus QRC Extraction」について、7/18にみなとみらいで開催されたCadenceのプライベート・セミナー「CDNLive Japan 2014」で早速話を聞いた。

今回発表された新製品「Quantus QRC Extraction」は、既存製品の「QRC Extraction」をベースに改良された後継製品でCadence曰く業界随一の精度とパフォーマンス(速度)を誇る。

精度についてはTSMCが既に16nm FinFETプロセスにて「Quantus QRC Extraction」を認証しており、TSMCが顧客に公開しているレポートによると「Quantus QRC Extraction」を用いた寄生抽出結果が最も精度が高いという事だ。

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パフォーマンス(速度)に関しては、市販の競合製品と比較してCPU単体での処理で平均5倍高速に。これは最新のアルゴリズムを実装した事によるもので、更に「Massively Parallel」と表現されるスケーラブルな複数CPUへの並列分散処理機能により、大規模デザインを高速に処理する事もできる。CPU数には制限がなく100個のCPUを用いた並列分散処理も可能だ。

また、同社のインプリメント環境「Encounter」やSTA「Tempus」と連動したインクリメンタルな寄生抽出も可能で、そのパフォーマンスは従来比およそ3倍の高速化を実現しているという。ちなみに同インクリメンタル抽出機能は既存製品から継承される機能で、フルチップ抽出の結果と差分の生じない精度の高さもうりの一つでECO時に重宝されているという。

またパフォーマンスに関しては、「Quantus QRC Extraction」に内蔵するフィールド・ソルバーも刷新されており、新たなランダム・ウォーク・フィールド・ソルバー「Quantus FS」は、従来比20倍の高速化を実現していると聞いた。言うまでも無いが同ソルバーは精度の高さにも大きく貢献している。

更に特筆すべきは寄生抽出結果を付加したネットリストのサイズで、「Quantus QRC Extraction」は従来比約半分のサイズにネットリストを小さくする事が可能。これは寄生抽出と情報付加の両面から実現している技術で、シミュレーション速度を2.5倍高速化する効果をもたらすという。

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ツールの運用面では、「Quantus QRC Extraction」は既存製品の「QRC Extraction」の完全互換を実現しており、既存資産をそのまま「Quantus QRC Extraction」で利用可能。セットアップの手順なども基本的に同じとなる。

また、先に述べた通りデジタル・インプリメント環境「Encounter」やSTA「Tempus」と統合利用可能なほか、アナログ環境「Virtuoso」とも密接に連携可能で、例えば「Virtuoso」のGUI上の「Extracted view」を用いて回路パフォーマンスのデバッグなどもできる。精度と速度に合わせてアナログ/カスタム設計のデファクト環境「Virtuoso」との連携はCadenceならではの強みの一つと言える。

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※画像は全てCadence提供のデータ

更に新しい「Quantus QRC Extraction」では、オートモーティブ・アプリケーション向けの新機能として、サブストレート・ノイズ解析やインダクタンス抽出、パワーMOS向け抽出などが用意されており、Cadence本社のプロダクト・マーケティング・マネージャーHitendra Divecha氏は、日本市場を意識してかパワーデバイスや自動車向けデザインにも利用できる事を強くアピールしていた。

ちなみに今回発表された「Quantus QRC Extraction」は、昨年リリースされたSTA「Tempus」、電力解析ツール「Voltus」と同じ事業部門の製品でCadenceのサインオフ・ソリューションの一角をなすもの。昨年から立て続けに刷新されたCadenceのサイオンオフ・ツールに共通するのは「高精度かつハイ・パフォーマンス」という点で、既存に強力な競合製品があるにも関わらず真っ向から市場に切り込んだ「Tempus」と「Voltus」は既に多くの大手顧客を獲得し一定の成功を収めている。「Quantus QRC Extraction」に関しては既にリコーが採用し、デザイン・クロージャーの寄生抽出時間を半分に短縮する事に成功したと報じられているが(Cadenceプレスリリース文)、Cadenceの放ったサインオフ・ツール第三の矢がどこまでシェアを広げるか、これからの事例発表が楽しみだ。

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2014.07.23 )