【DSF2019】ソシオネクストの元プロセッサ開発者が語ったSoC開発とコンピューティングの今後

昨年2019年10月3日にパシフィコ横浜で開催されたセミナーイベント「Design Solution Forum 2019」の講演レポート。
※諸事情により記事の掲載が大変遅くなりました事を関係者様にお詫び致します。
今回は同イベントで行われた講演「SoC(System-on-Chip)の設計会社から見た近年の技術動向と、開発事例」について紹介する。講演者は、株式会社ソシオネクスト マーケティング統括部 フェロー 須賀 敦浩(すがあつひろ)氏。
登壇した須賀氏は元々富士通研究所においてメディア・プロセッサ「FR-V」を開発していた人物で、アーキテクチャ設計、システム開発、そして自ら製品の売り込みも行っていたという方。現在はソシオネクストでマーケティングを担当、リサーチャーとして半導体製品を取り巻く市場や技術動向を調査している。
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須賀氏の講演は、前半部はソシオネクスト社のソリューション紹介と低消費電力設計の話。多分野にまたがって半導体製品を供給している同社だが、カメラソリューションや4K/8K映像ソリューションなどが一つの強みで、GoPro社のアクションカメラ「Hero7/Hero8」で同社のイメージプロセッサが採用されているほか、昨年のCEATECでは同社製ストリーミングエンコーダー「e8」とデコーダー「s8」を用いて世界初の8Kライブストリーミングの実証実験を行った話などが紹介された。
なお同社では、ソフトウェアのプラットフォーム開発にも力を入れており、ソリューション別に大きく3種類のソフトウェア・プラットフォームを用意しているということ。これによりユーザーは同社のSoCを用いたシステムを迅速に開発することが可能になっているという話だ。
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※画像は須賀氏の講演データ
SoCに関しては、既に先端の5nm製品を開発中で、各プロセスにおいてPPAに最適なSoC設計プラットフォームを提供中。その一例として須賀氏は低消費電力化のインプリ事例を紹介してくれた。
須賀氏の話で興味深かったのは、電源投入の制御、SoCの起動シーケンス、ネットワークへの応答待機を省電力サブシステムを用いて電源アイランドごとに行っているという事例。同ケースではLinuxを使わずにLinuxの支配下のファームウェアで動かすというアプローチを採用しているという話で、OSを起動しない分、低消費電力化の効果は非常に大きいとのこと。ハード構成だけでなくソフト構成も考えたハード/ソフト両面からのアプローチが低消費電力化に有効という指摘だった。
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※画像は須賀氏の講演データ
講演の後半は、須賀氏独自の視点による「コンピューティング技術の進化」の話と「5G時代課題と今後」に関する話の2本立て。これが非常に面白い内容で筆者を含め思わず聞き入ってしまったという聴講者が多かった。
まず須賀氏は現状の整理として、半導体微細化の現状とコンピューティングの進化について説明。微細化は3nmくらいまでは見えているがムーアの法則自体は減速方向で、現在世の中のSoCはMore than Moore(非微細化)とMore Moore(継続的微細化)という二つのアクティビティの相乗りで進化していると指摘。
一方でコンピュータの進化については、命令数を増やす、コア数を増やすという汎用的なプログラムの実行性能を追求する世界と、行列演算に特化したVector Processorや最近のAIアクセラレータなど特定のプログラムの演算性能を追求する世界があるが、近年、並列プログラミングが比較的容易な特定プログラムの演算性能の追求がどんどん進められていると説明。
世の中に存在する莫大なソフト資産を並列化して活用できればコンピューティングの進化に繋がるが、それはかなり難易度が高く課題であるとした。
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※画像は須賀氏の講演データ
続いて須賀氏は昨今のコンピューティングの進化を示す例として最近のサーバーシステムの構成を紹介。演算部だけでなくストレージやネットワーク・ボードにも特定演算に特化したアクセラレータが搭載されており、データセンターを支えるサーバーはハード面ではあらゆる粒度の並列性を利用し尽くしているところまで来ていると説明した。
そしてその上でデータセンターの電力消費量についても言及。このまま行くと2025年には世界のデータセンターの電力消費量が一つの国レベルの消費量に到達すると指摘し、これ以上の低電力化を実現するには非ノイマン型の演算アルゴリズムが必要になると語り、その有力候補として自身が注目しているという「ニューロモーフィック・コンピューティング」について紹介した。
同技術は人間の脳を模倣した非同期システムでエネルギー効率に優れており、うまく技術を実用することでノイマン型コンピュータの100倍の電力効率の実現可能だという。須賀氏は電力消費量の問題を克服するにはこのくらい不連続なイノベーションが必須だと強調した。
ちなみにソシオネクストは、低遅延、超低消費電力をうりにしているイギリスのAIチップベンチャーBrainChipのエッジAI向けニューロモーフィックSoC「Akida」の製造・販売で協力している。
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※画像は須賀氏の講演データ
講演の最後は5G関連の話。須賀氏は「高速・大容量」、「超低遅延」、「多数同時接続」と言われている5G技術について、ユースケースでみると既にスペック不足の状況にあると指摘。5Gは実運用ではまだまだ課題が多いとして、その課題をもとに「Beyond 5G」を考えていく必要があるとした。
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※画像は須賀氏の講演データ
具体的には、「高速・大容量」、「超低遅延」、「多数同時接続」を複合的に実現した上でアプリケーション単位にネットワークを構築するというビジョンを示し、それを実現するための基幹技術としてAIを利用したコンピューティング、SDN(Software Defined Network)によるネットワーク・スライスの構築などの重要性を指摘。その先に本格的な分散コンピューティングの時代がやってくると締め括った。
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※画像は須賀氏の講演データ
満席で立ち見の出た須賀氏の講演は、開発手法や設計技術にフォーカスした「Essence of System Construction トラック」の中で最も事前登録者数が多く、そして最も参加者評価の高い講演だった。
Design Solution Forumは、今年も10月7日にパシフィコ横浜で開催する予定。
セミナー内容などの詳細については、DSF2020公式ページをご参照下さい。
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