MentorのIESF 2014でデンソーが語った「三方よし」を目指すPCB設計環境への取り組み
2014年12月2日および5日、Mentor Graphicsは名古屋と東京の2都市で同社のプライベート・イベント「IESF 2014 Japan」を開催した。
MentorのIESF(Integrated Electrical Solutions Forum)は、自動車業界を一つの大きなターゲットとする電子システム開発の技術フォーラムで、今年は「コネクテッドエンジニアリング」をテーマに車載システム開発に関する様々な講演が実施された。
ここでは、東京開催で聴講した株式会社デンソー 鈴木万治氏の講演「パートナーと構築する三方よしの車載電子機器設計環境」についてレポートする。
鈴木万治氏は現在、デンソーの技術開発センター EMC技術室の室長を務める人物で、入社当初は宇宙関連の研究開発に従事し、その後はハードウェア開発、ソフトウェア開発と数年ごとに様々な領域で開発現場を見てきた経験を持っている。
※写真の人物がデンソーの鈴木氏
今回の鈴木氏の講演は、近江商人の心得として知られる、売り手良し、買い手良し、世間良しという「三方よし」の考え方を目指すPCB設計環境の構築に関するもので、車載分野、PCB設計分野に関わらず、様々な電子システムの開発環境に通じる話としてとても興味深かった。
鈴木氏が「三方よし」のPCB設計環境構築に取り組んだのは、現在従事しているEMC対策の課題解決がきっかけで、PCB設計の後段の評価フェーズで発生するEMC問題を何とか前段のPCB設計のフェーズで対処できないかというのがモチベーションだった。
※EMC: Electro-Magnetic Compatibility
そこで鈴木氏が考えたのは、1.予めEMC上クリティカルな部分を初期の設計段階で特定するトップダウンのアプローチ、2.後工程のEMC対策で必要となるデータを設計段階から徐々に作りこんでいくデータ活用フロー、3.クローズドな自前主義から脱したパートナーとの連携、という3つでこれらの実現に向けた取り組みをパートナー各社と共に開始した。
1.の設計段階でのEMC対策については、MentorのPCB設計環境「Xpedition」をベースに同じくMentorのPCB設計向けDRCツール「HyperLynx DRC」を組み合わせたフロントローディングによって対処する形を目指し、トップダウン設計の実現に向けては設計を階層化し設計資産を再利用できる次世代ツール環境と設計フローを検討した。
2.のデータ活用フローについては、デバイスベンダとの連携により後段のEMC対策でのシミュレーションで必要となるIBISモデルを設計段階で入手し作りこむフローを考えた。これにより、設計のフェーズでEMC上クリティカルな部分を先行して解析する事が可能となる。
3.のパートナーとの連携については上記1.および2.の活動で実践。ツール環境の構築に向けては現場の状況を包み隠さずツールベンダであるMentorに開示し、エキスパートとの直接的な議論を実現することで最大限の協業成果を引き出す事に成功した。
鈴木氏のコメントで印象的だったのは、自前主義から脱しツールベンダに対し全てをさらけ出さなければ課題解決は難しいという点、そして同じくツールベンダに対しても全てを自前主義ではなく、他社サードパーティ・ツールとの連携など柔軟な対応を求めるという点。いずれもEDAツールのユーザ/ベンダ間でしばしば立ちはだかる壁だが、それを実現するのはなかなか難しい。そこで重要なのが「三方よし」の考え方で、互いにゴール、嬉しさを共有し直接会話をする事で新たな
付加価値を生み出す。そんなアプローチが重要だという事を鈴木氏は説いた。
付加価値を生み出す。そんなアプローチが重要だという事を鈴木氏は説いた。
尚、鈴木氏によるとIBISモデルの作成においてもデバイスベンダのロームと「三方よし」の考え方で連携を実践。今回取り組んだPCB設計環境構築のプロジェクトでは、Mentor、ロームの他にサイバネットシステムを含めた3社と緊密に連携し、約2ヶ月でEMC対策におけるフロントローディングの効果を実証できたとの事。トップダウン設計の実現に向けたツール環境の構築については、引き続きMentorとの連携を継続していくという話で、今後の成果に期待したい。
※スライド画像は全て鈴木氏の講演データ(Mentor Graphicsが提供)