Cadence「ハードウェア/ソフトウェア協調開発プラットフォーム・セミナー」
2011年5月25日、新横浜のイノテックビルでCadence「ハードウェア/ソフトウェア協調開発プラットフォーム・セミナー2011」が開催された。
同セミナーは、先日発表されたばかりの新製品「Virtual System Platform」と「Rapid Prototyping Platform」によって包括的なソリューションとなった、Cadenceのハードウェア/ソフトウェア協調開発プラットフォームを紹介するもので、100名近くの参加者が集まった。
「Virtual System Platform」は、Cadence初のバーチャル・プラットフォームでCadenceによると同社の論理シミュレーター「Incisive unified simulator」のシミュレーション・エンジンをベースに、マルチコア・システムの開発を想定して開発した環境。略して「VSP」と呼ぶ。基本的にOSCI SystemC TLMベースで実行される同環境は、ソフトウェア開発にフォーカスしたバーチャル・プラットフォームで、シミュレーション精度よりも速度を優先しており、CPUモデルはARMやTensilica、Imperasなどサードパーティから調達する形を取っている。
※画像はCadence提供のデータ
後発のバーチャル・プラットフォームとして「VSP」には同環境ならではの提案が幾つかある。
一つは、容易にバーチャル・プラットフォームを構築するための手段とフローを用意している事。「VSP」にはOSCI TLM2.0モデルの自動生成機能が用意されており、IPのメタデータを記述するための標準規格「IEEE 1685 IP-XACT」または旧Denali社が開発したレジスタ記述言語「RDL」を入力すると、対象モデルの全レジスタ定義とリード/ライトが記述されたTLM2.0のラッパ・モデルを自動生成できる。このモデルはソフトウェアのコネクティビティ・チェックなどに利用できるが、さらに段階的にリファインメント(モデルに機能を実装していく)することで、機能検証用のモデル、OSブート用のモデルへとモデルをより詳細に発展させていく事が出来る。他社のソリューションにおいても、バーチャル・プラットフォーム用のモデルを作成する手段が用意されているが、IP-XACTおよびRDLからのモデル生成はCadence独自のアプローチとなる。また、Cadenceも他社同様に各種インターコネクト・モデルなどSystemCのライブラリを用意するが、それらは全てTLMのPV(Programmers View)モデルとして、ソフトウェア開発で利用するモデルという位置付けとなっている。
※画像はCadence提供のデータ
また、RTL設計フローとの繋がりも「VSP」の特徴の一つで、Cadenceは「VSP」とプロトタイプ・ボード、エミュレーター、シミュレーターとを繋げることで、従来ソリューションでは分断されていた設計フローを一貫したものにできると提案する。現状「VSP」は論理シミュレーター「Incisive」およびエミュレーター「Palladium」と接続した協調検証が可能で、間もなくSCE-MIインタフェースのサポートによって新製品の「Rapid Prototyping Platform」とも接続できるようになる。また、バーチャル・プラットフォームのモデルの抽象度をTLM2.0から1.0に落とし込めば、そこから「C to Silicon Compiler」でRTLを合成するというインプリメントへのパスに繋げる事も可能となる。
更に、「VSP」ではハードとソフトの統合的なデバッグにも力を入れており、エミュレーターや論理シミュレーターとの協調検証だけでなく、同一インタフェースを用いたソフトウェア、TLM、RTLのデバッグ手法や、TLM、RTLの単一同時波形表示機能、マルチコア・ソフトのシンクロ・デバッグ機能なども用意している。
※画像はCadence提供のデータ
もう一つの新製品「Rapid Prototyping Platform」は、Cadence初のFPGAプロトタイピング・ボードで現在AlteraのFPGA「Stratix-4」をベースとしたボードを4品種提供中。略して「RPP」と呼ぶ。「RPP」の最大の特徴としてCadenceがアピールするのは、同社のエミュレーター環境「Palladium」との互換性で基本的に「Palladium」とコンパチ。既存のASICフローで設計されたデザインを「Palladium」への実装と同様にそのまま「RPP」にもマッピング可能で、「Palladium」上の環境を再利用できるほか、クロック定義や外部との接続インタフェースも「Palladiumu」と共通(SpeedBridge)となる。このように、ユーザーとして「Palladium」の利用者であれば、「RPP」の利用価値は非常に高く、プロトタイプ・ボードならではの高速なシミュレーション性能を容易に手に出来る。「VSP」との連携も実現されれば、その利用価値は「Palladium」ユーザー以外にもアピールできるようになるだろう。
※画像はCadence提供のデータ
今回、「VSP」と「RPP」という2つの新製品によって、Cadenceはバーチャル・プラットフォーム、エミュレーター、FPGAプロトタイピング・ボード、シミュレーターと全てのツール環境を持つ唯一のEDAベンダとなった。個々の製品としてのパフォーマンスもさることながら、Cadenceが強調するように、各ツールが繋がることによる設計フローへのインパクトは大きく、それによる開発効率の改善はユーザーも望んでいるところである。
※画像はCadence提供のデータ
今回のセミナーで紹介されたCadenceの包括的なソリューションは、一見すると従来型の「囲い込みソリューション」に映らなくもないが、実際には、サードパーティも巻き込み、IEEE1666、OSCI TLM、IP-XACT、SCE-MIといった各種業界標準をベースにオープンな形のソリューション構築を目指したもので、ここ最近のCadenceのオープン戦略の延長線上の一つのソリューションと見て取れる。このソリューションが「バーチャル・プラットフォームからのインプリメント」という夢のフローにどの程度近づくものかは未だ分からないが、今後の展開に期待したい。
※セミナーでは「VSP」ならびに「RPP」のデモが披露された。
※上の画像は「VSP」によるARM Fast Modelベースのデモ。「VSP」上のFast ModelでLinu xを動かしFacebookにアクセスしていた。
※下の画像はCadenceのハードウェア・ベース検証ビジネス部門のマーケティングVP Michael Chang氏と「RPP」本体。
= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2011.05.29
)