ET2010で見かけたEDAソリューション-SynopsysのVirtual HILS

2010年12月1-3日、パシフィコ横浜で開催されたEmbedded Technology 2010で見かけた、SynopsysのEDAソリューション。
Synopsysのブースでは、FPGAベースのプロトタイピング環境「HAPS」、「CHIPit」やこれらオプションのドータ・ボードが目立つ位置に展示され、雰囲気的には「ET展」らしい感じ。その他には高位合成ツール「Synphony」や3つのバーチャル・プロトタイピング環境「Innovator」、「Platform Architect」、「CoMET」など、組込み開発ニーズに近い製品を展示していた。
中でもET展ならではと思えたのは、バーチャル・プロトタイピング環境「CoMET」を利用した「Virtual HILS」の展示。「HILS」とは、Hardware-In-the-Loop Simulatorの略称で、主に自動車業界で利用されているハードウェアベースの車両システム検証環境を指す。この「Virtual HILS」については、今年10月に開催されたSynopsysのプライベートセミナー「JSNUG」にて、ユーザー事例が発表されていたのでここで紹介したい。
10/15開催 Synopsys Users Meeting 2010
「CoMET/Saberを用いた自動車制御システムのモデルベース開発」
株式会社日立製作所 中央研究所 グリーンIT基盤研究センタ 於保 茂氏
於保氏は、車載制御システムのモデルベース開発の研究に取り組んでいる人物で、今後出てくる様々な課題や規格、技術要素を踏まえ、現在実機で行っている開発のバーチャル化すなわち非実機開発手法の導入普及に向けて活動している。
於保氏は、1990年代前半からSynopsysの提供するアナログ-デジタル混在シミュレーター「Saber」を利用しているユーザーで、熱と電子回路の混在シミュレーションやメカと電子回路の混在シミュレーションといった用途で「Saber」を活用していた。
※当時「Saber」を提供していたのは米Analogy社、同社はその後米Avant!社に買収され、米Avant!社がSynopsysに買収された事で最終的に「Saber」はSynopsysの資産となった。
於保氏によると「Saber」は、元々は米Boeing社など航空業界で利用されていたツールで、その後、自動車業界でも普及。欧米では現在でも利用されているとの話。「Saber」は、基本的にはSPICEではなく独自言語「MAST」を利用した回路シミュレータで、メカの機構をモデリングできるだけでなく、回路とメカをまとめてシミュレーションできるところが最大の特徴。しかし、「Saber」にはマイコンのモデルが欠けているため、於保氏はSynopsysの仮想マイコンシミュレーター「CoMET」と「Saber」を繋いでマイコンを含めた制御系のシミュレーションを行うことを思いついた。
synop-03.jpgのサムネール画像
※画像は日立製作所提供のデータ
実際に試した例としては、エンジン制御のシミュレーション環境として「Simulink」をベースに「Simulink」の中に「CoMET」と「Saber」を埋め込む形で接続。メカの動きとマイコンの動きを対応させながら制御ソフトウェアをデバッグする形を作った。またこれら活動から、制御モジュールの厳密な評価に「CoMET」を応用できるのではと、於保氏は「CoMET」による故障注入シミュレーションや「HILS」の仮想化=「Virtual HILS」にも挑戦した。
「Virtual HILS」とは、現在広く利用されている実機の「HILS」を「CoMET」の仮想環境に置き換えてみるという試みで、於保氏はACC(Adaptive Cruise Control)制御を題材に、ACCのECUモデル(CPUモデル)、ペリフェラルモデル(CANモデル)、そして車両モデル(Event Processor)を用意して「MATLAB」と「CoMET」による「Virtual HILS」環境を構築。実際にシミュレーションしてみたところ、バス上で見たエンジン回転数の実測値と「Virtual HILS」の結果は一致。これにより、「CoMET」そのものの精度も確認する事が出来たという。
synop-04.jpg
※画像は日立製作所提供のデータ
於保氏は、「CoMET」の応用範囲として「ICE(インサーキットエミュレーター)」の代替えやソフトウェアの動的なコード解析などを挙げ、トレンドとなってきているエレ・メカ・ソフトの統合解析にあたっては、「CoMET」と「Saber」を使い分けて行きたいと語っていた。
尚、話が前後するが、於保氏は講演の冒頭に「ESL設計」から「MSL(Mechatronic System Level)」設計への発展に期待している。今すぐにでもそうなって欲しいとコメントしており、メカトロシステム開発におけるシステムレベル設計手法のニーズは相当強いものがあると感じた。

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2010.12.10 )