Siemensがソフトウェア先行開発に向けた新製品スイート「Innexis」を発表、SoC開発だけでなく大規模システムの検証にも対応

2024年11月7日、Siemens Digital Industries Softwareは、ソフトウェア先行開発に向けた新製品スイート「Innexis」を発表した。

プレスリリース

発表によると「Innexis」は、主にチップ開発における「シフトレフト」すなわちソフトウェアの先行開発ならびにシステムの早期検証を加速するためのソリューションで、下記大きく3つのツールで構成されている。

・Innexis Developer Pro

「Innexis Developer Pro」は、SoCのバーチャル・プラットフォームを開発する環境で、RTLが完成する前のソフトウェア先行開発を実現するもの。SoCを高度に抽象化したバーチャル・レベル、SoCの抽象モデルとRTLが混在したハイブリッド・レベル、RTLの3つの抽象レベルで、ソフトウェアとハードウェアの開発、検証、性能解析が可能。バーチャル・プラットフォームの実行時にチェックポイントを設定・保存し、それらのチェックポイントを実行状態に復元できる機能なども備えている。RTLの取り扱いにおいては、Siemensのエミュレーター「Veloce」、FPGAプロトタイピング・システム「Veloce Primo」および「Veloce proFPGA」、論理シミュレータ「Questa」を適宜連携させる形をとる。

「Innexis Developer Pro」は、SoCのリファレンス・プラットフォームを用意しており、ユーザーはリファレンスをベースに独自のバーチャル・プラットフォームを容易に構築可能。リファレンス・プラットフォームは、様々なOSやArm FastModel(V8、V9命令セット)、QEMUなどのオープンモデル、各種SystemC TLMモデルをサポートしており、SystemCによるラッピングやブリッジングなども可能。ユーザーは独自のカスタム・バーチャル・モデルを作成することができる。

※画像はSiemens公開のデータ

・Innexis Architecture Native Acceleration (ANA)

「Innexis Architecture Native Acceleration (ANA)」は、Armベース・サーバーで実行するソフトウェア開発向けのクラウドベースの高速バーチャル・プラットフォームで、ユーザーはシンプルなWeb UIを通じて、高性能Arm CPUおよびGPU上でネイティブに実行されるバーチャルSoCモデルを作成できる。一般的なISSベースのバーチャル・プラットフォームよりもはるかに高速にソフトウェア・ワークロードを実行可能でSiemensは約2〜4GHzで実行できるとしている。

「Innexis Architecture Native Acceleration (ANA)」でのモデリングでは、コア、メモリ、ネットワーク、ストレージ、アクセラレータ、その他のデバイスを構成可能。複数の異種コアを内蔵するバーチャルSoCモデルを作成することもできる。作成したバーチャルSoCモデル上で独自のアプリケーション・ソフトウェアを直接ロードして実行することも可能で、YoctoベースのLinuxを含む自動車向けソフトウェア開発フレームワーク「SOAFEE EWAOL」とAndroid、完全なソフトウェア・スタックを備えた事前構成済みのリファレンス・プラットフォームが用意されている。

・Innexis Virtual System Interconnect

「Innexis Virtual System Interconnect」は、大規模システムのシミュレーション用の環境で、その名の通り複数の抽象度が混在するハードウェア・プラットフォームを接続。Siemensの「PAVE360」を介して大規模システムのデジタルツインを作成できる。「Innexis Virtual System Interconnect」は、様々な通信プロトコル、インターコネクトをサポートしており、マルチ動作システムの仮想サブシステムや物理サブシステムなど各種の異種コンポーネントをシームレスに接続し、現実的なシナリオベースのスティミュラスを組み込んだテストを行う環境が構築できる。当然ながら「Innexis Developer Pro」および「Innexis Architecture Native Acceleration (ANA)」で作成したバーチャル・モデルも利用することが可能。

Siemensはオートモーティブを主たるターゲットと捉えているようで、複数のセンサー、アクチュエーター、プロセッサ、ECU、ネットワーク、複数テストシナリオの接続を必要とし、複雑なシステムレベルの相互作用を伴う複雑なネットワークのデジタルツインを「PAVE360」と「Innexis Virtual System Interconnect」によって実現しようとしているようだ。

SoC開発向けのバーチャル・プラットフォームとしては「Virtualizer」をはじめとするSynopsysのソリューションが有名で、昨年もRISC-VのISSなどを手がける英Imperasを買収しソリューションを強化しているが、実はSiemensもかつてMentor Graphicsが買収したSummit Designの技術を起源とするバーチャル・プラットフォーム・ソリューションを提供し続けている。

今回発表した「Innexis」は、それら既存の技術をベースにしていると想像できるが、実績あるエミュレーター「Veloce」の技術を武器により洗練された環境となっており、オートモーティブ向けに大きく機能が拡張されている。まだ確立された手法がないSDVをはじめとする次世代自動車の開発競争の中で、Siemensの新製品「Innexis」が今後どんな存在感を示してくれるか楽しみである。

Siemens Digital Industries Software

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =
(2024.11.14 )