仕様書の自動生成ツールは工数削減以外にも様々な可能性、リコーによるツール試行結果
2024年7月19日、海外EDAツールを取り扱う株式会社ネクストリームは、3年ぶりとなるプライベート・セミナーを開催した。
新横浜で開催されたネクストリームのセミナーには50名以上の聴講者が参加。数々のユーザー事例を含む7つの講演が行われた。
ここではユーザー事例講演の一つ、株式会社リコー 佐塚明文氏による「AMIQ社ツールを使った仕様書自動生成」について紹介する。
講演者の佐塚氏は、先端技術研究所共通基盤センター 第二エレキ設計室 デジタル設計2Gに所属する人物で役職はグループリーダー。平たく言うとリコー内の研究開発部門として、社内および最近東芝テックと設立した合弁会社エトリアのハード設計業務を支えている。
講演する佐塚氏
今回、佐塚氏は同僚のベテラン設計者と2名で、ルーマニアのAMIQ EDA社が提供するRTL設計者向けのIDE「DVT Eclipse IDE」および仕様書の自動生成ツール「Specador Documentation Generator」を評価した。
評価の中心は仕様書の自動生成機能で、仕様書作成にかかる工数を削減したいという現場のニーズと、エンジニアとして「楽しくない作業は自動化したい」という個人的な思いがツールの評価を後押ししたと佐塚氏。仕様書の無い過去の設計資産の仕様書を作るケースや、プロトタイプやPoCなど設計を先行して後から仕様書を作るケースでの運用をイメージしていたという。
佐塚氏によるとツールへの期待は「モジュールの仕様書作成に使えるかどうか」。その具体的内容は下記の画像の通り。今回はまずは機能のテストという意味で生成されるドキュメントの可読性を重視した。
■評価結果
今回の評価では、ドキュメントが整備されていない1万ゲート程度の過去の設計資産(画像処理機能を持つDMAC)を利用した。仕様書自動生成の流れは下記の図の通りで、仕様書の骨組みは基本的に「Specador」で自動生成し、生成できない部分は「DVT」の表示機能を使って仕様情報を追加した。
佐塚氏曰く、ツールの立ち上げは非常に楽で、EDAベンダ固有のコンパイル・オプションなどを含むシミュレーションのバッチもそのままコンパイルできた。生成されたドキュメントは淡白で概ね可読性は高く、そこそこ有用なものが出てくるという感触。結論としては「DVT」と「Specador」の利用で仕様書の7割は自動生成可能と判断した。
自動生成された各仕様項目の内容は以下の表の通り。(※発表内容をもとにEDAエクスプレスで作成)
佐塚氏からは以下のようなコメントがあった。
・図などは自動生成も嬉しいが出力されたものを編集できると嬉しい
・DVTの機能がSpecadorの仕様書生成に反映できると嬉しい
・ステートマシン図は結構綺麗で大手EDAベンダのツールよりも良い
項目 | 結果 | 備考 |
INPUT/OUTPUT情報 | 綺麗な出力・可読性高い | 日本語出力も可能 |
モジュール階層情報 | 可読性高い | DVT機能を利用 |
ブロック図(Flow Diagram) | 可読性に改善の余地あり | |
ブロック図(Schematic Diagram) | 中身が見えない | 細かな内部情報を含む接続図 |
クロック・リセット系統図 | 可読性高い | DVTフィルタ機能を利用 |
ブロックの接続関係 | 可読性高い | DVT機能を利用 |
ステートマシン図 | かなり良い・可読性高い | 編集できると嬉しい |
タイミングチャート | Sim波形からの生成を実現 | 変換ソフトが必要 |
フローチャート | クラス・シーケンスの関連図 を表示可能 | DVT機能を利用 機能詳細未確認 |
テストベンチ接続図 | UVM/Verilog個別出力は可能 | DVT機能を利用 |
■タイミングチャートの自動生成とWaveDrom
佐塚氏によると、今回の評価で一番やりたかったのはタイミングチャートの自動生成だったということで、難しいと思っていた既存の波形データ(VCD)からのタイミングチャート自動生成を実現すべく独自の工夫を試みた。
佐塚氏が考えたのは、既存の波形(VCD)から波形作図ツールWaveDrom用のJSON記述を作り「Specador」を使ってタイミングチャートを生成するという方法。(「Specador」は「WaveDrom」からタイミングチャートを生成できる)そこでVCDファイルを簡易フォーマットに変換するソフト(C言語)と、更にそれをJSONに変換するソフト(Python)を自作し、波形からのタイミングチャート自動生成を実現した。
難しいと思っていた既存のシミュレーション環境(VCD)からのタイミングチャート自動生成が可能となるのは、仕様書を作る上で非常に大きいと佐塚氏。今回、変換ソフトは自作したが、VCD to WaveDromのような変換ツールはオープンソースで公開されているものがあるという話だった。
なお佐塚氏は今回利用した波形作図ツール「WaveDrom」について色々と活用できる可能性があるとコメント。例えばタイミングチャート上の特定部分を指定したアサーションの生成、生成AIを用いてタイミングチャートから仕様書を作成といったことも可能になるかもしれないと語った。
■今後の期待とリコーの新サービス
佐塚氏が挙げたAMIQ社へのツール今後の期待(要望)は以下の通り。「DVT」と「Specador」は総じてポテンシャルのあるツールで更に深掘りする価値があるということだった。
・生成AIを使った日本語説明の追加
・構造解析などフォーマル検証ツールとの連携
・「WaveDrom」を使った更なる効率化
・検証仕様書の自動生成
講演の最後に佐塚氏はリコーの新サービスについて紹介。自社で培った技術を他社向けのサービスとして展開していくという話で、LSI設計・検証にフォーカスしたサービスも開始するという。
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※画像は全てEDAエクスプレス撮影
※AMIQ EDA
※株式会社ネクストリーム(AMIQ社日本代理店)