EDAは更なるビジネスバリューをもたらすことが可能か?-Certess社CTO Mark氏

■EDAは更なるビジネスバリューをもたらすことが可能か? 
  それともコモディティ化してしまったのか?

   Mark Hampton, CTO, Certess Inc

ここではEDA技術がビジネスにどのような価値をもたらすか? EDAの価値を計るための視点、EDAのもたらす日本市場における独特のチャンスについて述べたいと思います。

コンシューマ・エレクトロニクス製品の設計は、ここ最近、見た目や使い勝手と技術的な機能や性能とのバランス、すなわち総合的な視点で見ることが主流となってきました。多くの機器メーカーは半導体技術をビジネスの差別化手段とは見ておらず、それよりもICのコストを下げることを重要視しています。EDA技術の価値は、これまではIC設計の差別化とリンクしていましたが、ICの差別化が市場において力を発揮しないのであれば、EDA技術の価値も当然低下してしまいます。

EDAのビジネスは、新たなツールを2?3の製品プロジェクトで適用し、その効果をベンチマークするという単純なプロセスで行われています。もしそのツールに価値があれば、パイロットプロジェクトを成功に導き、その組織内に展開されることが期待されます。

一般的にEDAツールのROIの指標は次のいずれかです。

 ・そのツールによってどれだけの開発時間が削減できるか。
 ・そのツールによってどれだけの開発コストが削減できるか。

この考え方は、半導体技術で製品を差別化出来ていた時は理にかなっていました。どのような改善であれ新たな半導体技術の実現に向け大きな価値があったからです。しかし、半導体技術だけでは差別化が難しくなってきた現在、EDAツールに対する投資は以前と同じように判断出来ません。
そうだとすると、EDAツールにはあまり投資し過ぎない方が良く、EDAツールのコストは削減した方が良いのではないか?

EDA業界は、EDA技術の進化に対する価値の拡大に苦心してきました。EDAツールこそが半導体のバリューチェーン全体を実現するものであり、より大きなパイを得るに相応しいと言われていた時もありました。一方で、EDAツールはソフトウェア開発のアウトソーシングだという見方もあります。多くの場合、企業は競合優位性を重視し、コアビジネスプロセスを社内に置きます。つまり企業がEDAツールの開発をアウトソースするということは、EDA技術がビジネスの差別化要因ではないという合理的判断が働いていたとも言えます。

EDAツールがソフトウェア開発のアウトソースであるという考え方に立ってみると、EDAベンダが大幅な価格引下げ要求の下に置かれ、価格で競争しなければならないことは明確です。主要EDAベンダの典型的な営業戦略である一括販売は、EDA業界のコモディティ化を示唆しています。EDAベンダはこのような状況を改善しようとしないばかりか、顧客のために更に値下げを提案しています。その一方でEDA業界における販売コストは非常に高く、おそらく売り上げの30%位を占めていますが、これは価格引下げを求める顧客にとって良い事ではありません。

ソフトウェア開発のアウトソースは、そもそもコスト削減のためでした。EDAベンダが更なる価値の提供を目指すのであれば、顧客ともっと親密に連携してコスト削減に取り組むべきです。そのように言うとEDAベンダはソフトウェア製品を更に低価格で販売せよという意味と思われるかもしれませんが、それも一つですが少々単純過ぎる見方です。

EDA技術がアウトソースされ始めたころ、市場はまだ成熟しておらず一部の企業がデファクトスタンダードとなる技術を持つことで支配的な地位を築いていました。今日、殆どのEDA技術の革新は小さな会社で生まれ、ある程度成功すると大きな会社と合併し、そのEDA技術は統合されより大きな販売チャネルを得るという流れになっています。以前はユーザー企業にとってEDAツールは不可能を可能にする技術でありビジネスの差別化要因でしたが、状況は変わりました。

今日、EDA業界は成熟し、根本的な技術革新が無ければパワーバランスはEDAツールを購買するユーザー側にあります。面白い事にESLは根本的な技術革新ではなく、長く予測されてきたEDA技術の進化であって、これが主流となる頃にはコモディティ化しているでしょう。顧客に更に価値を提供するためには、EDAベンダはIC開発の総コストの削減に貢献すべきです。他の業界では既にコスト削減の最も有効な手法が実証されています。それはクオリティマネジメントです。
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日本企業は品質管理という理念にはコミットしています。トヨタの例に代表されるように、たゆまぬ改善という考え方が製造業を成功に導きました。同様の効果を半導体設計プロセスにあてはめて考えてみると、品質中心設計(Quality Centric Design)のパラダイムが必要です。

それが何を意味するかと言うと、EDAツールを単一プロジェクトにおける効果だけで販売するのではなく、その組織にとって長期に渡りわたりIC開発のトータルコストに効果が有るものとして販売するということです。継続的なコスト削減を支援し、顧客の生産性向上とそれによる利益享受を実現することで、EDAベンダは売り上げ増加につながります。すなわち今日EDAのキーテクノロジは、設計プロセスの品質評価と設計プロセスそのものの改善に関わることになります。

業界初の検証プロセスの客観的品質評価を提供するCertessや、設計フローの配布用に自動チェックリストを提供するSatin IP Technologiesなどはユニークなポジションにいます。しかし、小さなEDAスタートアップでは、顧客の持つEDAテクノロジに対する認識を自分達の力だけで変えることはできません。現在のような経済危機の状況下ではEDAツールに投資するのは難しいことですが、「Quality Centric Design(品質中心設計)」の視点は、上級管理職に投資効果を納得させるだけのコスト削減効果を提供できるのです。

幸いこのメッセージは日本企業の共感を呼び、日本が品質重視の製造で世界を凌駕したように、「Quality Centric Design(品質中心設計)」のパラダイムで日本が世界をリードするチャンスとなっています。

EDAベンダの提供する品質重視の設計プロセスは、EDAベンダと顧客企業の製品設計チームとの緊密な連携を生み、アプリケーション固有の知識を通じてOEMにさらなる価値をもたらすでしょう。しかし、半導体業界が現在の方向性のまま突き進むのであれば、EDA業界はコモディティ化によりコスト削減のための整理統合という結果を招くでしょう。

日本の半導体企業は、品質重視の製造革命と同様のビジョンとリーダーシップを打ち出さなければならないでしょう。重要なのは、それに向けた投資の準備ができているか? そして、そのようなEDA業界のチャレンジを引き受ける考えがあるか? ということです。

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<筆者プロフィール>
マーク・ハンプトン(Mark Hampton)
Certess社CTO (技術最高責任者) Certess社の設立前は、EDAユーザーであり、最初にIC設計に従事した後、機能検証を専門とした。  
現在日本に在住。 QCD(Quality Centric Design)に特化したブログを準備中。
プライベートでは芋焼酎をこよなく愛し、囲碁を勉強している。 
同氏への連絡は、support@certess.com まで。