世界に広げようEDAの輪! 第3回 Novellus Systems社 庄田 尚弘氏

連載コラム「世界に広げようEDAの輪!」の第3回目です。
第2回の吉田様のご紹介により今回登場頂くのは、シリコンバレー在住の庄田 尚弘さんです。
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■世界に広げようEDAの輪! 第3回 「プロセス開発側から見たEDA、そして、アメリカでの仕事を通じた経験」 
Novellus Systems社 庄田 尚弘

皆様、はじめましてNovellus Systemsの庄田です。今回、近所のChartered Semiconductorの吉田氏よりバトンを受け取りました。私も吉田氏と同じく、シリコンバレーに住み、現地の会社で働いています。吉田氏から、「エンジニアリングからマネージメントまで精通している」という紹介を頂きはずかしいのですが、そのあたりを中心に、私の経験を紹介させて頂きたいと思います。

さて、EDAのメーカーとユーザーの方々の中には、Novellusという会社は聞いたことが無い、または、聞いたことがあっても具体的に何をしている会社かわからないという人も多いと思います。では、まずNovellusとそこでの私の仕事について話したいと思います。

Novellusは、サンノゼに本社がある、半導体製造工場で使われる製造装置を販売しています。例えば、CuとLow-k膜の多層配線は、金属膜と絶縁膜を組み合わせて作ります。半導体工場の多層配線工程には、金属と絶縁膜の成膜装置と、リソ、エッチング、CMP等の装置が並んでいます。もちろん、トランジスターの工程や、Al配線のデバイスもあるので、更に多くの装置と各工場ごとにユニークな組み合わせが存在しています。Novellusはこれらの装置のうちのいくつかを提供しています。Novellusについての詳細に興味がありましたら、ぜひWeb Siteを見て下さい。

私の仕事は、HDP?CVDの装置を担当する事業部で、Key Account Technology Group(KAT)を担当しています。HDP-CVDの装置は、Si酸化膜を溝のある構造で、埋め込みと平坦化を可能にします。デバイス上では、STI(Shallow Trench Isolation)、PMD(Pre-metal Dielectric、ゲート上の絶縁膜)やIMD(Inter-metal Dielectric、Al配線上の絶縁膜)に使われています。KATは、お客様とプロセス開発やデモなどの仕事を一緒にする部所です。どちらかと言えば、トラブル解決よりも、次世代デバイスのためのプロセス評価や、新規アプリケーションの開拓に重点を置いています。KATのエンジニアは、それぞれ担当するお客様と、関係するプロジェクトを進めています。

私は、もともとは日本のデバイスメーカーに勤務していました。そこで、プロセスエンジニアとして、アメリカ駐在を6年間経験しました。その後一旦日本に帰任したのですが、どうも仕事が面白くなく、転職によりアメリカに渡りました。Novellusに移り、8年半経ちました。カルチャーショックは、駐在からの帰国時の方が、駐在赴任時よりも大きかったです。

前の会社での駐在は、他のデバイスメーカーとの共同開発と、開発したデバイスを作る半導体工場の立ち上げでした。28歳になるまで、海外旅行すらしたことが無かったのにいきなり海外赴任を命ぜられました。そして、赴任の1ヶ月前に結婚もしました。初めて海外に出るのと同時に、結婚生活を始めました。1年後に長女、3年後に長男が生まれて、とにかく最初の3年間の「私」の方は忙しい日々でした。

アメリカという国は移民で成り立っていると言って良いと思います。日本にある外人という感覚は、基本的にはないです。赴任して1カ月ほどたった頃、道を聞かれました。当時は英語もまともにしゃべれなかったので、とても驚きました。3ヶ月ほどたった頃、NYにJFK空港の駐車場でカートを回収しているヒスパニック系の人に道を尋ねたとき、「I don't speak English」と言われました。日本で、外人に道を尋ねたり、そこで働いている人が日本語を話せないなどと言うことはめったに無いでしょう。アメリカでは、人種間の違いは認識しても、外国から来た外人という認識はされないようです。アメリカに住んでいれば、それだけで皆同じです。ですから、アメリカで仕事をスタートすることは、英語力を除いてそれほど大変ではありませんでした。実は、英語がわかるようになるまで、赴任から1年ほどかかりましたが....

「公」の方は、驚くことと感心することが、色々ありました。仕事の進め方は日本とは違います。例えば、20人分の仕事が10人に対してあった場合、日本でよく経験したのは、「とにかく頑張ろう」でした。アメリカは、プライオリティーと成功の可能性について、最初に議論をします。10人でできることは限られているし、まして、2倍働けなどと言ったら人は辞めてしまいます。こうすることによって、それぞれが重要プロジェクトに集中でき、上司は重要案件の進捗をメインに見ますので、組織全体での仕事の見通しも良いです。これは、ある限られた組織だけでなく、会社全体にも徹底されています。CEOから一番下のマネージャーまで、同じです。これは、エンジニアの一人一人にとっても仕事はやり易いです。遅れてはいけないもの、できたら良いもの、やらなくても良いものがはっきりしていれば、日々の会社での時間管理まですっきりします。

ですから、「公」と「私」の間の自由度も高くできます。本来、成果主義では、成果が重要なのであって、勤務時間などは関係ないわけです。エンジニアの給料は年棒ですので、タイムカードはありません。私も、グループの各自に、いつ出勤しようが帰ろうがかまわないと言っています。もちろん、必要なミーティングへの出席は強制です。出退時間を管理しないのは、その分私の仕事は減るので歓迎です。

私自身は、プライオリティーの明確化、プロジェクトの進捗管理、組織の改善、各エンジニアのキャリアの育成に、重点を置いています。組織の改善は、どのようにシナジー効果、効率とチームワークを引き上げるかが重要です。

ところで、アメリカの会社でキャリアの育成と聞いて、「あれ?」と思う人もいるかと思います。アメリカの会社では、従業員は給料やボーナスを貰うから会社にいるわけで、個人のキャリアは個人で切り開き、会社は何もしてくれないものだと私も思っていました。アメリカでは、各個人が成功へのシナリオを持っています。仕事をしながらも、成功に向かい進もうとしています。各個人の成功のための次のステップを理解することで、各個人が会社にいながらも経験を積んでいくことができます。日本的なキャリアの育成と言うと、こうあるべきだと上司が思う姿の押し付けの要素が強いと思います。ここが違います。具体的には、将来の目標から次のキャリアのステップを特定し、そこに行くための経験をいかに仕事を通じて得られるかを、一人一人と議論して決めていきます。これには終わりは無く、常に議論を続けます。難しいのは、いかに各個人のプロジェクトをアレンジするかです。これは給料以外に会社が従業員に与えられるもので、このことを通じて少しでも会社の求心力を高められれば、その分だけ人は辞めません。

ところで、最近思うのですが、日本人はアグレッシブさとハングリーさが足らないように思います。私は、採用の面接をよくします。採用の対象は、人種を問いません。日本人は、大学卒業する人たちでも、人生とキャリアの明確な目標が無い人ばかりです。他の国の人たち、例えば中国、韓国、インドの人たちと比べても、差は歴然です。ここは文化的な背景もあるかもしれませんが、そればかりでなく、技術的な知識でも劣ります。技術的レベルの高い大人と、勉強の足らない子供といったら言いすぎですが、例えるとそんな感じです。今後の日本を考えると、他のアジア諸国に抜かれ、国として沈んでいくのではないかと心配です。アメリカも今住んでいる人たちは日本と大差ないかもしれませんが、アメリカは移民として、人をひきつけているのでしばらくは大丈夫でしょう。豊かになりすぎると人のレベルは下がってしまうのでしょうか? どう思いますか?

でも、私は決して日本を全否定しているわけではなく、日本の良いところは生かしていきたいと思っています。例えば、細やかなところまで考えつくそうとするところや、「皆で頑張ろう」という精神論は良い面もあります。会社では、細かいところまで考えつくすことは周りにチャレンジしていますが、精神論は少し引っ込めて仕事をしています。

閑話休題。話をEDAに戻します。社会に出てから21年間、常に半導体プロセスと装置の領域で働いてきた私にとって、EDAはなじみの薄い分野です。日頃、実験計画と解析のためのソフトウェアは使いますが、それ以上は無いです。21年間で、EDAというものをつかったのは、1回だけです。HDP-CVD膜のストレスのSi結晶への影響を、プロセス工程を再現しながら、シミュレータ上でデバイスを作り、Si結晶中のストレス変化を調べました。それは、面白い経験でした。

プロセスエンジニアの観点から見ると、デバイスのスペックを満たすために、各ユニットプロセスへの要求は厳しいことが多かったです。例えば、STIの間口の幅とアスペクト比が現状の装置の性能より非常に高かったり、Low?k膜の誘電率の値が非常に低かったり等、ありました。そのときに、良くあった議論では、そうでないとデバイスの競争力が得られないので、やらなくてはならないというものでした。そうかもしれないけど、でも設計などで解は無いものかと言う話を良くしました。EDAのパラメーターに、プロセスの性能を入れて、トータルで性能を維持して、プロセスへの負荷を少なくしてコストを抑えることはできるようになるのでしょうか? 門外漢なので、EDAはそれ以上に進歩しているのに、私が知らなかっただけでしょうか?

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お次の執筆者は、台湾、日本、シリコンバレーの半導体マスク業界にと ても精通された、久村俊之氏にお願いします。台湾も含めて面白い逸話など面白 い話がお聞きできるかも知れません。
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<筆者プロフィール>
 庄田 尚弘(しょうだ なおひろ)
 Novellus Systems
 Gapfill Business Unit Director of Key Account Technology

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  略歴

  1988年  東芝入社 半導体プロセス技術分野にて、研究、開発と量産に従事。その間アメリカ駐在を経験。
  2000年  Novellus Systemsに転職。同時に、シリコンバレーに移住。
           プロセスインテグレーション、プロセス開発に従事。
           現在Gapfill Business Unitにて Director of Key Account Technology。

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【世界に広げようEDAの輪!バックナンバー】
第1回:「私が初めて"世界"を感じた時」 TOOL株式会社 本垰秀昭氏
第2回:「EDAからの恵み」 Chartered Semiconductor 吉田 秀和氏