Synopsysが回路シミュレーションのオールインワン・ソリューション「PrimeSim Continuum」を発表
2021年4月20日、Synopsysは開催中のユーザー・カンファレンス「SNUG® World」にて、回路シミュレーションのための新たなソリューション「PrimeSim Continuum」を発表した。
発表によると「PrimeSim Continuum」は、Synopsysの保有する回路シミュレーション・エンジンおよび技術を統合したカスタム設計向けのオールインワン・ソリューションで、新開発された「PrimeSim SPICE」および「PrimeSim Pro」と、既存の「PrimeSim HSPICE®」、「PrimeSim XA」を合わせた計4つのシミュレータを一つの環境でシームレスに扱うことができる。
今回Synopsysが「PrimeSim Continuum」を用意した背景には、益々複雑さを増す今日のチップ設計の問題があり、回路シミュレーションにおいても複合的なソリューションが必要とされている。同じダイまたはパッケージにアナログ、デジタル、ミックスドシグナルと多様な異種コンポーネントが統合されており、それらは場合により異なるプロセスノードで構築されていたり、2.5Dまたは3Dアーキテクチャで垂直統合されていたりするなど、今日のSoCを考えるとコンポーネント毎に様々な回路シミュレーションのアプローチが必要になるためだ。
Synopsysによると、「PrimeSim Continuum」の中核を担う「PrimeSim Pro」は、次世代のFastSPICEアーキテクチャを基に開発されており、DRAMやフラッシュ・メモリー・デザインに対して高速/大規模な解析を実行可能。既に同ツールを利用したSamsungのメモリ開発担当者は「PrimeSim Pro」を最速のFastSPICEであると称し、実際に電源供給ネットワーク・デザインのフルチップ・シミュレーションを従来比5倍のスピードで実現したとコメントしている。
もう一つ新たに開発された「PrimeSim SPICE」は、独自のGPUテクノロジを組み込んだ次世代アーキテクチャにより、NVIDIAのGPUを使いサインオフ精度を維持したままアナログやRFデザインなどの高速な解析を実現可能だという。
なおSynopsysは4つの回路シミュレータを統合して利用するために「PrimeWave」と呼ぶ新たな環境も用意した。「PrimeWave」は「PrimeSim Continuum」のシミュレーション・エンジンの共用コックピットのような環境で、デザインのセットアップ、分析、後処理の最適化などを担うということだ。
Synopsysは「PrimeSim Continuum」を用いることでサインオフ精度を維持したまま回路シミュレーションの実行時間を1/10に短縮できるとしているが、Samsungのファンドリ・デザイン・プラットフォーム担当者によると、実際に最新の56Gbit Ethernetデザインのシミュレーションにおいて、サインオフ精度を維持しながらシミュレーション速度を10倍高速化することに成功。検証工数を数日単位から数時間単位に短縮できたとしている。
SPICE/回路シミュレータの世界では、10年以上前にBerkeley Design Automationが高速高精度なSPICEをリリースして以降、大きな注目を集めた新製品のニュースは恐らく無い。(Berkeley Design Automationはその後2014年にMentor Graphicsに買収された。)今回のSynopsysの「PrimeSim Continuum」の発表は、久しぶりにSPICEユーザーを湧かせるニュースになりそうだ。