クラウドベース設計に向けて動くTSMCとSamsung、それをサポートするCadenceとSynopsys
2020年6月15日、CadenceとSynopsysは、TSMCおよおびMicrosoftとのクラウド・アライアンスについて発表した。
両社の発表はいずれもTSMCプロセス・テクノロジ向けのタイミング・サインオフと寄生容量抽出に関するもので、MicrosoftのAzure Cloudプラットフォームを利用することでスケーラブルに生産性を向上できるというもの。
具体的には、Cadenceのタイミング解析ツール「Tempus™」と寄生容量抽出ツール「Quantus™」、Synopsysのタイミング解析ツール「PrimeTime」と寄生容量抽出ツール「StarRC」をAzure上で運用できるようになる。クラウド環境を利用することでコンピューティング・リソースをスケーラブルに拡張できるため、サイオンオフ工程の短縮やマシンコストの削減といったメリットが得られる。
Cadenceによると、「Quantus」は64CPUによるマルチコーナー抽出処理において、ほぼリニアな拡張性を実証。また、「Tempus」は150台の計算機上での拡張性を実証済みで、クラウド上での運用によりタイミング・サインオフにかかる計算機コストを半分に削減することも可能だという。
またSynopsysは、今回発表したクラウド環境によって、TSMC N5プロセスを用いたデザインをAzureの最新の仮想マシン「Edsv4シリーズ」上で処理できるとしている。
クラウドベースの設計環境という意味では、既にCadenceもSynopsysも独自のクラウドベース・ソリューションを提供しており、TSMCによる認証を受けているが、今回の話はTSMC主導による自社のファブレス顧客向けの対応という色が濃く、TSMCはこの枠組みを用意することで自社の先端プロセスを利用する顧客の囲い込みに繋げる構えのようだ。TSMCの牙城切り崩しを狙うSamsungファウンドリのここ数年の活発な動きなどが影響していると想像できる。
そしてそのSamsungも自社のファブレス顧客に向けてクラウド環境を整備する動きを見せている。同社は2020年6月18日にクラウドベースの設計プラットフォーム「Samsung Advanced Foundry Ecosystem(SAFE™)Cloud Design Platform(CDP)」をローンチした。
「SAFE™CDP」は、クラウドベースのHPC環境を提供する米Rescale社と共同開発したクラウド設計環境で、Cadence、Synopsysに限らずAnsysやMentor(Siemens)の提供するEDAツールを利用することが可能。
Samsungとの関係が強いSynopsysは、早速この「SAFE™CDP」について自社ツールの認証を発表。同社のインプリメント環境「Fusion Design Platform ™」および検証環境「Verification Continuum」を構成する主要製品が「SAFE™CDP」を通じて利用可能だとしている。
なお、Samsung Foundryによると、同社の設計ソリューション・パートナーのGaonchips社は、Cadenceのインプリメント環境「Innovus」を使用した14nm オートモーティブ向けチップ開発で「SAFE™CDP」をすでにテストしており、これまでのオンプレミスの実行と比較して設計ランタイムを30%削減することができたという。