Cadenceが最大92億ゲート対応の新型エミュレータ「Palladium Z1」をリリース
2015年11月16日、Cadenceは新型のエミュレーション・プラットフォーム「Palladium Z1」のリリースを発表した。
Cadenceのエミュレータ「Palladium」シリーズは、同社の検証ソリューションの大きな柱の一つ。今回の新製品「Palladium Z1」においては外寸仕様、性能、機能、ユーザビリティとほぼあらゆる面において改善が図られた。
まず筐体としての仕様が従来の独特な形状から、一般的なサーバー・ラックの縦長な形状に変更された。これにより設置面積は92%改善され、データセンター等への設置も容易になった。水冷式という点は既存製品と同じだ。
Cadenceは「Palladium Z1」に搭載する専用チップの詳細について明らかにしていないため、「Palladium XP2」とのチップの違いは定かではないが、性能面は「Palladium XP2」よりも大きく向上した。
「Palladium Z1」は1ラック当たりのデザイン容量が3億8400万ゲートのXLと5億7600万ゲートのXXLの2種類のラインナップとなっており、「Palladium Z1 XXL」を最大16ラック接続した場合のデザイン容量は92億ゲートとなる。これは市場に存在するエミュレーション環境として最大の規模で既存の「Palladium XP2」の4倍相当、競合製品を大きく上回る。この大規模リソースは400万ゲート単位で利用可能で最大2304人のユーザーが個別のジョブを実行できる。また、ユーザー・メモリ、デバッグ・メモリ共に拡張され1ラック当たり1TBを超えるメモリが搭載されるようになった。
「Palladium Z1」のデザイン・クロックは最大4Mhzと「Palladium XP2」と同等だが、デザインのコンパイル能力が約2倍の1時間当たり1億4000万ゲートに引き上げられるなど、全体的なエミュレーション・スループット効率は最大5倍に向上された。また、エミュレーション・サイクル当たりの消費電力は1/3以下に低減された。
機能面では、まず新たに用意された「Re-Shape」機能により、空いているハードウェア・リソースにジョブを自由にアロケーションできるようになった。これによりリソースを効率良く有効活用可能となる。それからもう一つの新機能「Re-Locate」によりジョブの移動も容易となった。この機能はエミュレーション環境に用意されている各種インタフェースを利用する際にケーブルの抜き差しといった物理的なセッティングを不要とするもので、ユーザーはハードウェアのコンフィギュレーションを気にせずエミュレーションを実行できるようになる。
また、複数ユーザーによる利用に向けてインターネットを通じて「Palladium Z1」にアクセスするための専用端末「Emulation Development Kit(EDK)」が用意されたほか、エミュレーション結果のデバッグ向けにオフラインのデバッグを可能とするデータベース機能「Virtual verification machine」も用意された。これによりエミュレーションの実行は1回、後のデバッグは複数名でオフラインで分担という形の作業が可能となる。
Cadenceはこれら各種機能追加により、エミュレーション環境の運用効率は他社ソリューションよりも2.5倍向上できるとしている。
エミュレーション・ソリューションはCadenceとMentorの大手2社が長くせめぎ合いを続ける分野で、SynopsysもEVE社の買収で参入。最近はS2C社も大規模システムを市場投入しており、大規模先端チップの開発に無くてはならないソリューションとなっている。
様々なユースケースと機能的な側面があり、一概に製品の優劣を判断する事は難しいが、そのデザイン容量というのは最もシンプルで分かりやすいエミュレーション環境の重要指標の一つ。今回Cadenceが投入した「Palladium Z1」は、市場の製品の中で飛び抜けた容量を誇るもので、大きな投資を必要とする大手企業向けのソリューションとなるが、ゲート密度や電力効率を考えるとその所有コストに対する費用対効果は大きく、現時点で最高峰のエミュレーション環境と言って間違いないだろう。
新型のエミュレーション・プラットフォーム「Palladium Z1」はこの11月から正式に出荷が開始されており、既にNVIDIA、HUAWEIなど大手をはじめワールドワイドに複数の導入ユーザーが存在しているという。
※日本ケイデンス・デザイン・システムズ社