東大竹内氏、Flashより2ケタ速いStorage Class Memoryを3年以内に実現-JSNUG2011
DRAM価格の下落により2010年の急成長から一転、2011年はマイナス成長となった半導体メモリ市場。年明け早々に不振のエルピーダメモリと東芝が統合するという噂が広がるなど、業界は引き続き混迷の様相を強めている。DRAMおよびNANDフラッシュメモリの2大メモリ市場でトップを走るサムスンもウォン高が進行すると収益の悪化は必至で、半導体メモリ市場は先の読めない状況が続きそうである。
ここではそんな半導体メモリ市場をいずれ変えて行くであろう、DRAM、NANDフラッシュに続く次世代メモリ「SCM(Storage Class Memory)」に関する話を紹介したい。
今更ではあるが、昨年9月7日に開催された「Synopsys Users Meeting 2011(JSNUG2011)」にて、東京大学竹内健准教授による講演「仮想プラットフォームを用いたストレージ・クラス・メモリ(SCM)搭載SSDのアーキテクチャ探求」の内容を紹介する。
■SCM(Storage Class Memory)とは
東京大学 工学部 電子工学科 准教授である竹内氏は、東芝で15年間に渡りNANDフラッシュ・メモリの開発に携わってきた人物で、2007年から東京大学での研究活動をスタート。メモリに関連する様々な研究活動を行なっている。(※詳細は竹内研究室HP参照)
竹内氏が講演で紹介したのは、現在進行中の数々の研究活動の一つである「SCM(Storage Class Memory)」の開発に関する話。「SCM」はDRAMとNANDフラッシュの中間に位置する次世代のストレージ向けメモリとしてIBMが作った言葉で、竹内氏曰く、単純に言うとNANDフラッシュメモリとメインメモリとの間にもう少し高速な不揮発性メモリを入れてあげようという考えから生まれたもの。定義としては、NANDフラッシュのように不揮発で、DRAMと同等とは言えないがフラッシュよりケタ違いに高速、NANDフラッシュ並みに大容量、HDDより信頼性が高く少面積で軽いとされている。技術的な候補としては、PRAM、MRAM、ReRAMなど複数あるが、まだ標準と言える技術は無くメモリの世界では今まさにホットな技術分野であると言える。
※画像はIBMのデータ。竹内氏の講演とは無関係。
竹内氏は1年ほど前から「SCM」の研究開発に着手。未だ学会発表などは行なっていないが(11年9月時点)、東芝、シャープ、エルピーダといったメモリ関連大手と共同で開発を進めており、自身はメモリ・アーキテクチャを担当。デバイスを作るだけではすぐに韓国勢らにコスト戦略で追いつかれてしまうので、メモリ・アーキテクチャの検討に力を注ぎ、米ラムバス社のようにメモリの仕様を牛耳る形を目指したいとする。
■肝はNANDコントローラー
竹内氏によると、NANDフラッシュ・メモリのスケーリング凄い勢いで進んでおり、現在20数nmで64Gビットが最大容量。単位チップ面積あたりの記憶容量は年平均3倍のペースで伸びており、プロセス微細化の最先端を突き進んでいるが、もはや限界を迎えつつある状況。そこでSSD(Solid State Drive)やNANDフラッシュ・メモリを縦型に繋げる3次元構造のメモリなども注目されはじめている。
※画像は竹内氏の講演資料からの抜粋。
SSDは東芝やサムスンが販売しているが、フラッシュ・メモリと共に搭載しているコントローラーが肝となる製品で、これはSSDに限らずUSBメモリやSDカードにおいても同じ。何故コントローラーが肝になるかと言うと、NANDフラッシュ・メモリは微細化するほど遅くなり、3000-4000回書き込むと確実に壊れるためウェアレベリング等を行うコントローラーの付加価値が高まるため。東芝がサムスンとの差別化に成功しているのは、コントローラー開発における「知恵の勝負」の結果だという。また、最近のメモリ開発ではOSも含めてカスタムおよび最適化する方向に移行しつつあり、竹内氏がメモリ・システムのアーキテクチャ検討に力を注ぐのはそのような背景があるため。竹内氏は、世の中の水平分業という流れよりも、むしろ垂直統合で様々なシステムを取り込む方が良いメモリを開発できると主張する。
※画像は竹内氏の講演資料からの抜粋。
■SSDの利点とNANDフラッシュの限界
SSDが注目される理由は他にもある。それはストレージとメモリの間にある大きなギャップを埋めるという期待で、実際に読み出し速度に関しては性能差を1ケタ程度に縮める事が可能なため、データの読み出しが中心となるエンタープライズのデータセンター等で高速化と低電力化を目的に利用されようとしている。しかし、書き込み速度の遅さはNANDフラッシュ・メモリの物理的な原理から解消できず、ギガ超えが当たり前となってきている各種インタフェースの進化に追いつかない状況となっている。NANDフラッシュ・メモリ業界では複数のNANDフラッシュ・メモリを同時に動かすという取り組みを行なっているが、電力が爆発的に増えてしまうため、これ以上NANDフラッシュ・メモリの性能向上は見込めない。そこで次に「SCM(Strage Class Memory)」が注目されるようになった。
※画像は竹内氏の講演資料からの抜粋。
竹内氏によると、SCMがモバイル端末で利用されると、無圧縮のデータをストレージを通じてネットワークへ高速にデータ転送可能となり、モバイル端末の大幅な性能向上が見込めると同時に消費電力の削減にも繋がる。また、消費電力の削減という側面では、データセンターにおける消費電力の削減に有効で、データセンターのコストの半分以上を占めている冷却費込みの消費電力を大幅に削減できる見込みであるほか、将来的には、ノーマリ・オフ・コンピューティングの実現にも貢献する可能性があるという。
※画像は竹内氏の講演資料からの抜粋。
■SCMのアーキテクチャ検討はESLツールで
竹内氏はSCMの研究開発としてSCMを搭載したSSDのアーキテクチャ探求を進めており、性能や信頼性など様々なトレード・オフを行うためにSynopsysのバーチャル・プロトタイピング環境「Platoform Architect」を活用し、メモリの開発と同時にCPUなどのセットを想定してシステム・レベルで性能や電力を見積っている。SCMはDRAMとNANDフラッシュの良いところを取った中間的なデバイスであるため、周辺のDRAMやNANDフラッシュ・メモリを含めてどのようなメモリ・アーキテクチャを構成するかが非常に重要で、SCMを実現するための信号処理(誤り訂正)も鍵となってくるという。
※画像は竹内氏の講演資料からの抜粋。
竹内氏曰く、従来は大手顧客の要望通りのメモリを開発していたが、最適なメモリを開発するためにはアーキテクチャからと、次のステップでは、メモリ・アーキテクチャを考えながらメモリに最適なCPUやコンパイラの開発などにも取り組む計画であるとの事。現在のところは、SSDの中のSCM、NANDフラッシュ・メモリ、NANDコントローラなどをSystemCでモデリングしシミュレーションを実施しており、いずれ半導体ベンダと組んでプロセッサ・モデルを作る予定。3年後を目処にDRAMよりも1ケタ遅いがNANDフラッシュよりも2ケタ速く、コストはDRAMとNANDフラッシュの中間に位置するというSCMを世に送り出す計画だという。