「Sourcery CodeBench」で強化されたMentorのEmbeddedソリューション
2010年9月30日、Mentorは、富士通セミコンダクター・ヨーロッパが「Mentor Embedded Sourcery Codebench」をFM3 Cortex-M3マイクロコントローラおよびハードウェア評価ボードの開発環境として採用したことを発表した。
Mentorの「Sourcery CodeBench」は日本では馴染みが薄いかもしれないが、GNUツールチェーンのデファクトとなっているソフトウェア開発環境で、2010年11月にMentorがその資産を買収するまでは、CodeSourcery社から有償/無償の環境が提供され、ワールドワイドで多数のユーザーを抱えていた。「Sourcery CodeBench」は様々なCPUアーキテクチャをサポートするソフトウェア開発環境として、ARM,MIPS,PowerPC,SHなど各種CPUベースのプラットフォームをサポートしており、Mentorによって提供されている現在も月8000件以上のダウンロード実績がある。Mentorによると世界の大半のSH4ユーザーは「Sourcery CodeBench」を利用しているそうだ。
今回の富士通セミコンダクター・ヨーロッパの発表は、同社のARM搭載マイコン「FM3」を販売するにあたり、顧客に提供する開発環境としてMentorの「Sourcery CodeBench」を採用したというもので、富士通「FM3」のユーザーは、組込みソフトウェア開発においてMentorの「Sourcery CodeBench」を利用し、Mentorのサポートを受けることが可能となる。富士通としても「Sourcery CodeBench」を採用することで、これまでのように自前のマイコン開発環境を用意し、メンテ、サポートする必要が無くなるという大きなメリットを手に出来る。
このようなMentorと半導体ベンダとのパートナーシップは、組込みOSやUI開発などMentorの組込みソリューションをベースにこれまでも実現されていたが、「Sourcery CodeBench」が加わった事でよりサービスの幅が広くなった。そこでMentorは、「Mentor Embeddedハードウェア・イネーブルメント・プログラム」と名付けてハードウェア・ベンダ向けの組込みサービス・ソリューションの展開に力を注ぎ始めている。現在のところ大きく下記5つのサービスを展開中で、既にルネサス、富士通、Freescale、Texas Instruments、Qualcommなど大手各社がパートナーとしてMentorのソリューションを利用している。
【Mentor Embeddedハードウェア・イネーブルメント・プログラムの主要サービス】
・Linuxサービス 商用Linuxプラットフォームの構築を中心としたサービス
・Androidサービス Android環境を構築を中心としたサービス
・Sourceryサービス GNUツールチェーン関連サービス
・Inflexion UIサービス ユーザ・インタフェースの作成を中心としたサービス
・Vertical Platformサービス 垂直型の組込みプラットフォーム作成サービス
このように「Sourcery CodeBench」はMentorの組込みソリューションの強化に大きな役割を果たしているが、その一方で、Mentorの組込みソリューションとEDAソリューションを繋ぐという別の役割も果たしている。
今年サンディエゴで開催された48回DACにて、Mentor Embedded Software Division GMのClenn Perry氏に聞いたところ、Mentorは、「Sourcery CodeBench」をリリースするにあたり「System Analyzer」というグラフィカルな解析機能を新たに開発し、「Sourcery CodeBench」に追加した。同解析機能は組込みソフトに限らず組込みシステム全体の可視化を実現するもので、マルチコア・システムにも対応。Mentorはこの新しい解析機能を備えた「Sourcery CodeBench」をFPGAボードや同社のバーチャル・プロトタイプ環境「Vista」、エミュレーション環境「Veloce」と繋げるためのAPIを開発済みで、既にこれら環境の接続は実現されているとの事。同環境を利用すれば、ソフトウェア開発者は「Sourcery CodeBench」からハードウェアに容易にアクセス出来るようになり、システムのパフォーマンスや消費電力を考慮したソフトウェアの最適化も可能になるという。
※画像はMentor提供の画像 「System Analyzer」の概要
※画像はMentor提供の画像 「Sourcery CodeBench」とハードウェア開発環境の接続
※画像はMentor提供の画像 「Sourcery CodeBench」と「Vista」の連携例
Mentorは、約2年前までは組込みRTOS「Nucleus」にフォーカスした組込みビジネスを展開していたが、その後AndroidやLinuxをターゲットにオープンソースOSのプラットフォーム開発にシフト。組込みUIソリューションやオープンソース・ツールも取り込み、今ではオープンソース・ベースの組込みソリューションを展開するベンダとして大きな存在となっている。この動きに合わせてMentorは日本における更なる事業展開を目指し、日本の事業体制も強化しており、国内ユーザー向けに「Sourcery CodeBench」の日本語サポートを行う体制を整えているとの事。また、EDA製品としてESL分野にカテゴライズされていた「Vista」などの製品は、組込みソフトウェア製品として同社の組込み事業部門に移管されているという。
※Embedded Software Division GMのClenn Perry氏は、Mentorに買収された旧Summit Designの出身である。
※メンター・グラフィックス・ジャパン株式会社