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SMASH (Spice Simulator) の実力
PI Research Labo(パイリサーチラボ) 代表 柳 孝裕
1. 世界初の試み:
『Spice Simulationの生成する音はどこまでオーディオに通用するのか?』
近年、MP3プレーヤやiPodを始めとするデジタルデータを音源とするオーディオは、今やほとんどのユーザーが耳にするようになりました。一方で高級オーディオマニアや一部のアナログファンの人の間では、デジタル臭い音質を嫌う、一定のユーザ層がいるそうです。
今回、前者のデジタルオーディオの基準、世界初の試みとして、CD音源を入力信号源として、Spice Simulator(Dolphin Integration社 SMASH)で音楽データ出力、変換および再生成した音楽データがどのくらいの再生品質を有してるか?を試聴し評価する試聴会を開催しました。
今回、本試聴会および試聴機材、場所の提供頂き、ご協力いただきましたのは、新横浜に本社を置く、高級オーディオメーカー:ラックスマン株式会社様です。
※写真は、同社開発部 田村様(左) 長妻 部長様(右)
2. ラックスマン株式会社について
ラックスマン株式会社は、1925年創業と歴史の長いオーディオメーカで、1970~1980年のオーディオブームの頃は、真空管アンプとトランジスタアンプの両製品を積極的に市場に送り出しており、また当時から、アンプの技術には定評がありました。
私自身もオーディオに狂った世代で、当時いろいろカタログを集め、そこからいろいろな技術情報を入手していました。
別の記事で書いてますが、当時、YAMAHAがSITトランジスタの開発や、ZDRというアンプ回路技術、盛りだくさんのごり押しで製品開発をしていたのに比べて、ラックスマンは、負帰還適量2段増幅のDuoβサーキット等、柔の姿勢で開発していたのが印象でした。(βは負帰還係数の意味もあります)
余談ですが、当時LUX社のLUX KIT(自作KIT)を全て揃えたかったのですが、夢は叶っていません。また再販出来るならして欲しいです。
ラックスマン株式会社様の歴史は、こちらに記載されておりますのでご参照ください
URL:http://www.luxman.co.jp/company/history.html
3. Dolphin Integration社について
Dolphin Integration社は、France Grenobleに本社を置くEDA VendorでありIP開発&販売Vendorです。
Dolphin社が特に得意分野とするのが、Mixed-Signal (Digital Analog混在)Simulatorの開発、販売
そして同社の音声CODECを初めとするΔΣIPの開発です。
実績としては10年以上も前に国内最大手にはIP導入済み、現在は台湾のCODEC IPでは、ほぼ独占的であると報告されています。
また、Dolphin社が開発しているSMASH (Spice/Verilog-AMS/VHDL-AMS/SystemC) Simulatorは、VHDL-AMS Simulator として最もStabilityを持つSimulatorとして、第三者EDA Vendorが行ったBenchmark報告もあります。
販売&サポート:PI research LABO 輸入元:(有)インターリンク
4. 試聴用データの作成フロー
ここで、評価用の試聴音楽データの取り込みには、変換ソフトウエアが必要になります。
今回、有名なApple社のiTunesと、有料変換ソフトウエアの英Online Media Technologies社の
AVS Audio Converterの二つを用い
1. CDDA からWAVファイル
2. CDDAからUP sampling DATA (24bit/96k)
を作成します。
その後、Dolphin Integration社のSMASHで1,2で作成されたWAVファイルをSimulationの入力として以下の資料に基づいて、音楽データを生成します。
事前に、別のCDにて事前評価を行っておりましたので、ここでは、CDと同じ16bit/44.1kとデータと24bit/96kの二つのデータに絞り込んで評価をしました。
5. 試聴機材について
試聴機材は、試聴ルームにある、準備していただいた機材を使用させていただきました。
以下に試聴用機材を紹介します。
まずは PCからSP/DIFを経由してWAVファイルを転送し再生するUSB Audio Playerです。
A) USB Audio Player: DA-200 DAC:TI 24bit PCM1792A
比較試聴用のSACD Playerを用いています。
B) SACD player : D-08 DAC:TI製24bit DAC PCM1792A×2 ( mono )
続いて、LUXMAN の純A級のプリメインでは最上位機種になるL-590AXを使用しました。
C) AMP: L-590AX 純A級アンプ
最後に音の出口としては、以下のスピーカを使用しています。
D) Speaker: Consensus Audio Engineering社のConsensus Audio Lightning SE
このスピーカ!何とペアで240万円だそうです。
内部は吸音材を一切使ってないそうで、スピーカーから出てくる音は、吸音材のロスがないので効率が良さそうです。※ちなみにオプションのスパイク(25万)ケーブル(46万)だそうです。
試聴機材の音楽信号の流れを表すと、以下図に示す流れとなります。
7. 音楽データについて
CDから取り込んだCDDAフォーマットのデータをWAVファイルに変換すると以下のファイルサイズになります。
24bit/96kになると24/16×96/44.1=約3倍にデータ量が大きくなりますが、現在のPC環境では124M(byte)は大したデータサイズではないです。
上記の_16bit44.1k.wavや_24bi96k.wavと言うのは、iTunesから取り込んだのをSMASHで変換した音楽データです。下はAVS Audio Converterで作成した16bit/44.1k, 24bit/96kのデータをSMASHでSimulationし出力した音楽データを載せています。
8. 試聴
試聴項目ですが、大きくは以下の4項目の試聴を行いました。
※試聴風景
1の目的ですが、市場に存在する音楽変換ソフトによって音質が変わるのか?というテストです。
ここでは、CDとiTunesで変換した*.wavとAVS Audio Converterで変換した*.wavを試聴します。
MasterであるCDと比べて、*.wavに変換されQualityが落ちてるのがわかりました。
特に、今回使用したのがクラシックギターのSOLOであり、弦の立ち上がりと余韻に注意して聞けば、誰にでも明白に、余韻が途切れ、立ち上がりももっさりとした感じを受ける印象です。
またiTunesの変換データは、肉付けを失った感じで最も音質で、AVS Audio Converterに比べて、音質の劣化が顕著でした。
試聴による評価(CDを★10とすると)
CD: ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
Tunes: ★ ★ ★ ★ ★
AVS Audio Converter:★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
でした。
★の差は、やはり値段の差が歴然とするUSB Audio Player とLUXMAN 最上位機種のSACD Playerの差もあるのかも知れません。
続いて2の評価に入ります。
ここで、試聴するのは、元音源とSpice Simulator SMASHの出力結果の比較です。
ただ、SMASHで処理される入力信号の品質もあるので、3種類の評価が必要になって来ます。
CDDAから変換された*.wavファイル、SMASHでSImulationされた出力された、入力と出力の2種類の音楽データ*.wavファイルがそれになります。
試聴の感想ですが、SMASHでSimulationで処理された音楽データは、全体的に低音が削ぎ取られたような感じの軽い音質になっていました。また弦の余韻もさっぱりとした感じでCD再生で聞いたような豊かな余韻ではありませんでした。一方で、繊細な音や、音のつながりには色づけもなく比較的素直な音質であったように思います。(SMASH Simulation後の出力信号)
特筆すべき事項がありまして、SMASHで処理された、入力信号と出力信号の比較では出力された音楽データの方が音質が上回ってるという事です。入力源として用いたオリジナルの*.wavに近いという感じです。
試聴評価:オリジナル *.wavを★10とした場合
*.wav : ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
MASH Input: ★ ★ ★ ★ ★ ★
MASH output: ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
その他、bit拡張とSamling Rateの変換による音質の変化は、24bit/96k>16bit/44.1kで明らかに、bit拡張とUp Samplingの音質が良い感じがしました。
長妻部長様:『 CDからのWAVの変換では、明らかに音質が変化します。
エネルギーバランスが崩れ低域が薄く実在感が乏しくなります。
SMASHの出力は、入力に比べて悪くなると予想してたのですが
ダイナミックレンジ感と実在感が明らかに良くなっています。』
田村様 : 『 WAVファイルの変換で明らかに余韻が変化しました。
AVS Audio Converterに比べてiTunesは情報量が少なくなったように聞こえます。
SMASHのInput/Outputでは、Outputの方がより自然な響きに聞こえました。』
とコメントをいただきました。
3については、ERROR補正した方が良いのかと思っていましたが、実際はミスコードが出て音楽向きではないことが判明いたしました(ERROR訂正によるノイズが試聴で観測出来ました)
今回は、全てAVS Audio ConverterではJitter補正有りで変換しています。
Jitter補正有り >> ERROR訂正
が試聴結果になります。
9. 最後に
長妻部長様から、試聴終了後に以下貴重なコメントをいただきました。
『今回の実験を通して、デジタルドメインに新たな評価方法が加わったと感じました。
私達が以前行っていたディジタルフィルターの補完関数を決定する作業は、気が遠くなるほどの多くの時間と手間を必要とし、関数と聴感の相関関係を見出すのに非常に苦労したものでした。このSMASHを使用すると、短時間にシミュレーションから試聴までの実験を行えました。そして相関関係を見出せると確信できました。また、広い範囲に応用できると思った次第です。』
※ラックスマン様は、過去に筑波大学の寅市教授とフルエンシー関数を用いた Digital Filterを持つDACの開発しておられました。その時の苦労が、コメントに感じられます。
10. Spice 技術解説
通常Spice simulatorでは、time stepは可変で Dynamicに変わっています。
DVDT Algorithm等いろいろな名称で呼ばれている可変 Time StepのAlgorithmがEDA Vendorの特徴となっているのですが、実際は以下図に示すように、 積分法が Time Stepを決める重要なFactorを持っています。
t=t0+Δtの次のTime Stepであるx1に対して、下左式で表されるの積分法は、FE(Forward Euler)、BE(Backward Euler)、 TrapezoidalとされるSpiceの積分法になります。
音楽データの Simulationで、正確なTime Stepが刻まれていないと、それが誤差となり音質に影響が出ます。Dolphin Integration SMASHでは、今回の試聴で音質だけでなく、正確なTime Stepを刻み Simulationが完了した事を示しています。
11. SMASHでの応用
SMASHは、入力されたデジタル信号を即座にアナログ信号に変換するので( software処理:図中の DAC/DAC)デジタル、アナログ関係なく回路 Simulationが可能です。この事は、デジタルフィルタの評価、アナログフィルタの評価、 Mixed-Signal回路の評価と区別なく出来る事を表しています。
現在、メーカでは、オーディオ向けのCODECや ADC/DACのデジタル処理部分を、FPGAにして評価してるそうですが、 フィルタの特性はFPGAや、実装される基板等のHardware部分の影響を受けますが、 SMASHを使用すれば、そのような影響は皆無です。信号処理が Spice Simulation=Software処理ですので、様々な評価にFlexibleに対応が出来ると思います。
12. 補足
今回 SMASHでSimulationをするに当たり、Simulationする回路が必要なのですが、L/Rに1Ωの抵抗をつけて、その入力と出力を観測しています。
その波形は、Simulation実行中に確認出来まして、以下の波形が表示されます。
About PI research LABO:
PI research LABOでは、様々なSimulation技術を駆使して以下の3つのサービスを提供しています。
Spice/Verilog-AMS/PI ,SI 高速伝送等の技術講座、 Spiceの精度検証および、Analog/Mixed-Signal設計コンサルティング、そして Spice/Verilog-Aのモデリングです。
その他、Dolphin Integration SMASHの販売、やEDAツールの販売も手がけております。
現在、弊社取り扱い製品および、上記教育およびLicense Softwareに協力頂いておりますVendor様は
技術関連の問い合わせ: technical@pi-rlabo.com 、 営業的な問い合わせ: sales@pi-rlabo.comまで
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★の評価の部分が何故か
MASH Input:★★★★★
MASH OUtput:★★★★★
になっていますが、MASH⇒SMASHの間違いです