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2011年のEDA業界を振り返る-記事アクセスTOP10ほか

日本国内だけでなく世界的に激動の年となった2011年も残り数時間となりました。
ただでさえ変化の激しいエレクトロニクス業界ですが、今年は様々な出来事により「時代の変化」を強く感じさせる1年でした。とても簡単には総括できませんが、記事のアクセス・ランキングと合わせてこの1年のEDA業界を振り返ってみたいと思います。

【EDA Express 2011年 記事アクセス・ランキング】

 1位:【48DAC】第48回Design Automation Conference-今年の主役たち
 2位:【EDSF2011】ソフトウェアの再利用と先行開発に関するキヤノンの取り組み
 3位:SynopsysがMagmaを買収へ-両社取締役会満場一致で合意、買収総額は約5億700万ドル
 4位:IntelがESLツールの仏CoFluent Designを吸収合併
 5位:【48DAC】Gary Smith氏の講演「Trends and What's Hot at DAC」
 6位:【EDSF2011】システムLSI設計の今後-22nm時代に向けて-ばらつき対策
 7位:【JSNUG2011】リコー、MATLAB/Simulink環境にSynopsysのASIP開発環境をリンク
 8位:【EDSF2011】ESL分野の研究に関する学会のトレンド-東京大学藤田先生
 9位:Cadenceが待望のバーチャル・プロトタイピング・ソリューションを発表
10位:更新:世界EDA売上推移1998-2010

■ESL関連の話題が豊富な1年

アクセス・ランキングTOP10の半数以上がESL関連の記事となった。当サイトの読者層を表している結果と言えるが、EDA業界全体を通じてESL関連の話題が非常に多かった1年でもあった。

ランキング5位となったGary Smith氏の講演でも、ESLツールは今後のEDA業界の成長を支えると語られていたが、それを予兆するかのようにこれまでとは違う形で大手プレイヤーが開発環境としてESLソリューションを取り込む話が幾つか出た。

まず今年に入り、Cadenceがいわゆるバーチャル・プロトタイピング・ツール「Cadence System Development Suite」をリリース。(ランキング9位)同ソリューションは、FPGA最大手XilinxのARMコア搭載FPGA「Zynq-7000」ファミリの開発環境として採用されるに至った。Xilinxはその他にも高位合成ツールを手掛けるAutoESL社を買収。いずれISE環境に高位合成技術が取り込まれる予定となっている。

FPGAベンダAlteraは、Xilinxよりも一歩早くARMコア搭載FPGA「SoC FPGA」のソフトウェア開発環境として「Virtual Target」をリリース。同ソリューションはSynopsysのバーチャル・プロトタイピング・ツール「Innovator」がベースとなっている。また、半導体最大手のIntelがシステムレベルの性能解析ツールを手掛ける仏CoFluent Designを買収したほか、TSMCは最新のリファレンス・フロー12において、大手3社のESLソリューションとリンクさせる独自のシステム解析手法を拡充した。
※IntelによるCoFluent買収のニュースは海外からのアクセスが非常に多く4位にランクイン。

その他にもESL関連では、SynopsysがSystemC TLMモデルのポータルサイト「TLM Central」をオープン、AccelleraとOSCIが統合して新組織Accellera Systems Initiativeが発足、CalyptoがMentorの高位合成ツール「Catapult C Synthesis」を買収など、幾つかインパクトのあるニュースがあった。

■プロトタイピング・ボード関連のソリューションも活発

2011年はESLと同じくTSV技術を用いた3D-IC設計関連の話題も豊富であったが、目の前の設計現場のニーズに直結する話題としては、FPGAベースのプロトタイピング・ボードに関するものが多かった。

FPGAベースのプロトタイピング・ボードは、FPGAの進化と共に大容量化が進み、ユーザビリティも改善され、何よりもその高速な性能から導入実績が増えており、ある報告では特に日本国内ではプロトタイピング・ボードが利用されるケースが増えているとされている。

エミュレーター製品を持たないSynopsysは、各種展示会などでもプロトタイピング・ボード「HAPS」ソリューションを強くアピールしているが、今年3月Xilinxと共同でSoCプロトタイピングのメソドロジ・マニュアル「FPMM(FPGA-Based Prototyping Methodology Manual)」を発刊。回路の機能検証でも成功したメソドロジの提供というマーケティング手法をプロトタイピングにも適用した。

また、既にエミュレーター製品を展開しているCadenceは、新製品となるプロトタイピング・ボード「Cadence Rapid Prototyping Platform」を発表。ASIC設計と同じスタイルで利用でき、かつエミュレーターとの互換性も備えるという、これまでにない新たな付加価値を生み出した。

プロトタイピング・ボード本体ではなく、FPGAボードの検証用ソリューションについても今年は幾つか新しいものが出てきた。InPA Systemsは昨年EDA市場へのデビューを果たし、今年最初の製品を投入。同社の「Active Debug」はプロトタイピングのデバッグを改善するもので、プロトタイピング・ボードを手掛けるDiniGroupS2Cと複数FPGAのデバッグでコラボレーションしている。また、SpringSoftもプロトタイピング・ボードのデバッグ向けに新製品「ProtoLink Probe Visualizer」を発表。同製品は市販のプロトタイピング・ボードに接続して利用するもので、大量のプローブ・データを容易にかつはケタ違いの速さで収集できる。

その他、プロトタイピング・ボード製品としては、今年はS2C社製品の露出が多かったのが印象的。また若干毛色は違うがエミュレーション・システムを手掛けるEVEも11月にXilinxのFPGA「Virtex-6」を搭載した最新製品「ZeBu-Blade2」を発表している。


■数々の買収劇、最後は驚きの大型買収

先述したXilinxによるAutoESLの買収、IntelによるCoFluent Designの買収以外にもEDA業界では今年も数々の買収劇があった。中でも一番最後に報じられ最もインパクトがあったのは、SynopsysによるMagma Design Automationの買収発表。(ランキング3位) 一時は徹底抗戦の構えでSynopsysと係争を続けていたMagmaの結末に業界全体が驚かされた。買収額は5億700ドル。Synopsysの狙いはMagmaのアナログ・ソリューションとも言われている。その他にもSynopsysはSTA/SSTAのExtremeDA、検証IPのnSys Design Systemsを買収しており、業界首位の座を更に磐石なものとしている。

驚かされた買収としては、CAEソフト大手AnsysによるApache Design Solutionsの買収もあった。Apache Design Solutionsはパワー解析ソリューションの分野で市場を席巻し、EDA業界としてはMagma以来10年ぶりとなるIPOを目指して申請手続きを進めていたが、最終的にAnsysの子会社となる道を選んだ。買収額は3億1000万ドルだった。

また先に触れた、Calypto Design SystemsによるMentor Graphicsの高位合成ツール「Catapult事業」の買収も意外なものであった。両社の緊密な関係あっての話と言われているが、業界唯一の高位合成前後の等価性検証ソリューションを持つCalyptoがトップ・シェアを誇る高位合成ツールを手に入れるという意味は大きい。

その他の買収としては、Cadenceがセル・キャラクタライズのAltos Design Automationとクロックツリー合成のAzuroの2社を買収。ARMがプロセッサ検証向けテスト生成のObsidianとフィジカル最適化ツールのProlificを買収している。

■過去最高の売上を叩き出したEDA業界、日本の今後は?

2010年の大躍進から一転、2011年は成長率2%前後と厳しい状況となった半導体業界だが、EDA業界に関しては2010年の好調を継続し、過去最高となる勢いで売上を伸ばしている。

業界全体の売上統計は未だ上半期分しか発表されていないが、現時点で前年比約16.7%増の24億6990万ドルとなっており、2011年はEDA業界として初の売上60億ドル超えが濃厚となっている。業界を支える大手3社は軒並み売上を伸ばしており、市場としては北米とアジアが好調を維持。日本市場も上昇ムードがあったが、震災の影響を免れる事は出来なかった。

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心配なのは日本におけるEDAの売上ではなく、日本のエレクトロニクス産業の今後だ。

製品に新たな付加価値を生み出さなければ生き残れない現在、最終的にその付加価値の実現は設計・製造能力にかかっている。特にファブライト化が進んだ今、付加価値を実現する設計力は国内エレクトロニクス産業の最後の砦と言っても過言ではないが、そこに対する投資よりもコスト削減が先行しているのが現状である。

EDAツールを買えば設計力が向上するという単純な話ではないが、新たなツールや設計技術を取り込み、継続的に設計力の向上に取り組んでいかなければ、やがて最後の砦も消失してしまう事に成りかねない。国内のエレクトロニクス産業には厳しい状況が続くが、設計力向上への投資は必要不可欠なものとして今後も続けていく必要がある。これまで培ってきた貴重な技術、ノウハウ、人材を無駄にしてはならない。

以上、来年も引き続きEDA Expressを宜しくお願い致します。

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =

(2011/12/31 )

 

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