【EDSF2011】ESL分野の研究に関する学会のトレンド-東京大学藤田先生
2011年11月16日、パシフィコ横浜で開催されたEDSFair2011Novにて、「国際学会の技術トレンドを読み解く-過去・現在・未来-」と題された特設ステージ・セッションが行われた。
ここでは同セッションにてパネリストとして登壇した、東京大学 大規模集積システム研究教育センター 藤田 昌宏 教授の話にフォーカスして内容をレポートする。
ESL(システムレベル設計)、低消費電力設計、物理設計の3分野に別れて技術トレンドが紹介された同セッションにて、藤田先生が担当されたのは当然ながらESL。セッションのトップバッターとして登壇した藤田先生は、EDA業界の代表的な国際学会である、DAC、ASP-DAC、ICCAD、DATEに加え、分野別国際学会とも呼べる、CODES、ISSS、FMCAD、CAV、MEMOCODEを対象に、近年発表された論文を紹介する形で話を進めた。
藤田先生によると、ESLの代表とも言える「高位合成」に関する研究は、藤田先生が学生の時代には既に始まっていたという事で、初期の段階では高位合成の基本技術となるスケジューリングやアロケーションなどの研究が盛んで、その後はレイアウト考慮の合成、パイプライン化という技術の研究へと発展した。
現在高位合成で研究が盛んなのは「3D-IC関連」、「ECO関連」、「FPGA関連」の大きく3分野で、「3D-IC関連」では3D-IC向けの設計空間探索のためのモデルを考案した米ペンシルバニア大学のY.Xie氏の研究が有名。その他にも、3D-ICで配置を工夫する事で低消費電力化を狙う手法などが研究されている。
「ECO関連」は、インクリメンタルな設計に対応する設計後の部分変更と元のデザインとの差を極力無くす高位合成技術で、2010年のASP-DACで公では初めてCadenceと富士通の技術者がインクリメンタル合成の提案を行った。また、東京大学藤田研究室においても、回路の修正を予め想定しプログラマブルな機能を入れた回路を自動合成することで、僅かな修正でソフトウェアにパッチを流すように、ハードウェアにもパッチを流す手法が研究されている。
「FPGA関連」は非常に研究が盛んで論文数も多いが、世界で強いのは英国インペリアル大学(同分野を研究する教授が10人もいる)のグループと加国トロント大学のグループ(FPGAベンダ出身者が多い)で、FPGAアーキテクチャを有効利用する高位合成技術や、FPGAの配線経路を考慮した高位合成技術などが研究されている。また、FPGA固有のブロックRAMやDSPブロックを有効利用する高位合成では、米国カリフォルニア大学Jason Cong氏らの研究が有名である。
高位合成関連で最近出てきた新たな動きとしては、微細化に伴うばらつき対策の必要性を認識した上で、高位合成で何をすべきか?という「ばらつき考慮の高位合成」の研究や、「非同期回路の高位合成」の研究などがある。また、演算器、メモリ、レジスタなどのリソースを集中せず分散利用する事で低消費電力化を狙う高位合成技術や、「スケーラブルFSM」と呼ばれるタイミング・エラーが出た場合に再実行可能なFSMに書き換える高位合成技術の研究(Jason Cong氏)、「ナノコードベース」と呼ぶプロセッサを用いてHW-SW協調設計環境と高位合成をうまく連携させる技術の研究(Daniel D. Gajski氏)などもある。
今後、高位合成の研究は、Manyコア・システムへの適用や特定分野の高速計算システムへの適用(例えば気象シミュレーターの開発など)へと発展していくとみているが、高位合成ツールの市場規模がまだまだ小さいという話も耳にしていて、少々不安が無くもない。
高位合成以外のESL技術としては、システムレベル設計を支援するシミュレーション技術の研究が90年代頃から活発になり、2000年頃から実用化が進み、HW-SW協調設計をサポートするシミュレーションが商品化された。同技術は、その後エミュレータと組み合わせた手法やション手法やHW-SW分割支援、IP再利用、、NOCを意識したHW-SW協調設計など様々な形で発展していったが、現在のところメニーコア・システムでのソフトウェア分割に研究の中心が移ってきている。
また、ESLとは若干方向性は異なるが、高位レベルの検証という分野も近年注目されており、アブストラクションのリファインメント手法やC言語検証手法(HW向きに書かれたC言語を対象としたより厳密な検証手法)、ソフトウェア開発の世界で実績のあるアサーション自動生成の研究なども盛んに行われている。C言語検証手法に関しては、NECプリンストンのグループが積極的に多数の論文を発表しており、現時点で世界で最も優れていると言える。
その他、検証やテストという観点では、高位からのテストパターン生成(RTLからのATPG)や、エミュレーション環境で検出したバグをバックトレースするポスト・シリコン・デバッグ手法、フォールト・トレラント・システムの研究なども行われているが、今後の動きとしては、シミュレーションとフォーマル検証の融合、アサーション自動生成、タイミング・エラー時のデバッグをはじめとするデバッグ支援技術の研究などが重要となる。
以上が、藤田先生の講演の概要となるが、部分的に筆者の誤解釈があるかもしれない事をおことわりしておく。
尚、藤田先生は講演中に若干話を逸らし、最近の学会では米国出身の発表が減っていると語った。話によるとその背景には資金的な事情もあるようで、最近米国ではEDAに対して研究費がつきにくく、米国の国立科学財団(NSF:National Science Foundation)等では応募数の3分の1程度しか採択されていないという事。その一方で台湾では約半分は採択されるという状況で、台湾政府による過去10年に渡る助成もあり、台湾に集中的に研究者が集まっているという。藤田先生は、「ESL分野に限って言えばその研究の中心は欧州にあるが、相対的にEDAの研究において世界の中心は台湾と答える状況」とコメント。同席していた芝浦工業大学の宇佐美 公良先生、大阪大学の橋本 昌宜先生もEDA学会における台湾・中国アジア勢の勢いを強く感じていると語っていた。